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怪盗は真相を暴く

扉から入った影に、うろうろ落ち着かず部屋を回っていた男は顔をあげた。現れたのは、マジシャンハットに、黒いマント、仮面をつけた男だ。一見あやしげだが、男はほっとして、近寄る。


「お、おお、どうだった! 無事人形は――」

「こんばんは」


 だがその声に、男は足を止めた。雇った相手の姿形まで正確に覚えていたわけではない。だが、声がはっきりと違う。

 怪盗クロウ役に雇った青年は、こんな透き通るような、さわやかな声をしていなかった。


「偽者くんは警察にお届けしておいたよ」


 偽者。つまり――巡り始めた思考のまま、部屋の中央にある大きなテーブルを見つめる。


「逆恨みにしても、なかなかよくできていた。スマイル夫人の可愛がっている娘に、魔力で動く呪いの人形を持たせる。でも人形を入れ替えれば、自分が贈り主だとは思われない。あとはコレット嬢が悪魔憑きだと言われて醜聞が広まればいい――狙いはそんなところだったんだろう?」

「おま……っお前は誰だ! 怪盗クロウなのか!?」


 叫んだ男に、仮面の男は答えなかった。ただ、対角線上の椅子に座って、笑う。


「ちょっとした悪戯だ。呪いで人が死ぬなんて馬鹿馬鹿しい。そう思ってたのかな? でも、本当に人形が呪いの人形になってしまった。偶然近くにあった悪魔の遺産の力を得て、それはもう、冗談にはならないくらいに。それが誤算だった」

「なん、なんの話だ。人を呼ぶぞ!」

「だから怖くなって、異端審問官がくる前に回収しようとした。異端審問官なら、人形にかけられた魔術を追うこともできてしまう。だから怪盗クロウが持っていったことにして、処分するつもりだったのかな。これが悪魔の遺産でないことは君もわかってたんだろう。この人形も、頑張って働いたわりにはむくわれない。可哀想に」


 そう言って仮面の男が、人形を取り出した。

 それは、男が用意した人形だった。あちこち焼け焦げて、腹部に穴があいているが、なぜだかそうだとわかった。


「お返しするよ。ああ大丈夫、この人形は今は悪魔の遺産じゃない。模造品としての力も全部、探偵に奪われてしまった」

「たん、てい……」

「だからこの人形は、ただの呪われた人形だ。持ち主は君」


 突然、人形が笑い出した。

 甲高い、けたたましい声だ。腰を抜かして、男はその場にへたり込む。反対に、仮面の男が立ちあがった。


「なん、なん……っ」

「とはいえ、一時的にでも得たのが、悪魔の遺産の力だ。厄介だろうけど。頑張って処分するといい」

「たすっ助けてくれ、怪盗クロウ!」


 男がこちらを向いた。その前でけらけらと人形が笑いながら、立ちあがろうとしている。這いずるようにして、男はクロウに手を伸ばした。


「頼む、金なら出す! いくらでも……」

「金? ――私のことを何も知らないまま、偽者を用意するからこんな目に遭うんだよ」


 ついに人形が立ちあがった。がくん、がくんと動きながら、バランスを取っている。


「警察が君を捕まえにくるまで、正気を保てるといいね」


 無情なひとことを置いて、クロウが部屋を出て行く。待ってくれ、とすがろうとした男の足を、人形がつかんだ。


「ご主人、サマ……さがしたあアァァァ」


 にたりと笑うその笑みに、男は悲鳴をあげた。

 部屋の扉を閉じて、クロウはぱちりと指を鳴らす。そうするとそれだけで、紳士ハットもマントも仮面も、怪盗クロウを彩る一式がすべて消え去った。


「オズヴァード侯爵、悲鳴が聞こえましたが……!」

「ああ、この部屋からだ。今、呼びに行こうとしていたところなんだよ。何かあったみたいだ」


 一息つく間もなくやってきた警官達に扉の向こうを示して、レイヴンはあとずさる。

 あとは勝手に警官が処理してくれるだろう。自分は何も見ていない。刺激しないよう、先に容疑者に話を聞こうとしたら、こうなっていた――それで、この件は終わりだ。

 それにしても、今回も予想外続きだった。単純に仕事のミスかと思ったら、偽の予告状がきて、あげく人形は取りかえられて、模造品なんて懐かしい物まで出てくる始末だ。

 オクタヴィアといるとこうなる運命なのだろうか。おかげで怪盗らしくも、侯爵らしくも振る舞えない。


(まあ、楽しかったからいいけれど)


 だがそろそろ、ちゃんと予告状を出して怪盗らしく活躍したいところだ。なんといっても、今の彼女は探偵なのだから。

 人形に襲われて気を失った容疑者が泡を吹いて暴れているのを取り押さえられている。対して、男が用意した人形は動いていない。模造品とはいえ、所詮市場に出回る程度。詐欺師まがいの魔術師が作った、適当な粗悪品なのだろう。帝国の遺産が近くにあったせいで、強くなっただけ。それも、先ほどの数分で、もうなくなった。

 それでも男には、十分な恐怖だったに違いない。


「人を呪わば穴二つ、だったかな」


 昔の言葉は難しい。嘆息して、レイヴンは警察にあとをまかせて立ち去った。


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