夜会へ向けて~クライス~
「で、いいのか?あのこと言わなくて」
ウィンの言葉に、父上に言われたことを考える。
夜会の準備をするにあたり、ミレイ姫のことを父上から頼まれた。ミレイ姫の父である、バーミリア国王のノヴァ国王からも頼まれたのだ。
そして、色々な情報も今ノヴァ国王、父上と共有している。そのため、バーミリア国の王妃であるクリスティーン王妃がグレイシア国の者と会っていたことも知っている。
その人物がまだ特定されていないことも...。
「あのことはミレイ姫に言うつもりはない」
「ですが、ミレイ姫にも知っていただいた方が対策は立てやすいのでは?フェリウス団長が、我々は必要ないというほどの実力なのですよ?」
「それは分かっている。しかし、ミレイ姫にはできるだけ夜会を楽しんでほしいと、俺は思っている。だから、クリスティーン王妃がグレイシア国の者と会っていたことはもう知っているらしいが、他のことでミレイ姫を煩わせたくはない」
「ミレイ姫のこれまでを思えば、そうですね...」
ミレイ姫と最初に話したあと、ちゃんとミレイ姫を知ろうと思いミレイ姫のこれまでの生活を調べさせた。その結果、俺たちが思っていたよりもひどい生い立ちだった。
ミレイ姫の母親で、前王妃のミハル様が生きている頃はまだよかった。普通の姫のように、ミハル様について孤児院を訪問したり、姫としての教育は普通より早い段階で始まっていたようだがそれも、ミハル様が何かを察知しミレイ姫を思い早めにしていたのだろう。問題は、ミハル様が毒殺されたあとだ...。
ミハル様亡き後、住まいをバーミリア国の王宮の離れに移され使用人さえ今付いているルイとラン以外は外されてしまった。そして、姫として行っていた孤児院訪問もその他の姫としての公務も外されだんだんと、ミレイ姫の悪い噂が広まっていった。しかし、ミレイ姫はそのころには副業を始めていて他国からの評価そして、ノヴァ国王と親交の深い貴族達以外はその噂を信じてしまい、クリスティーン王妃に賛同する者が増えたそうだ。
「本当にあの話は不快だったな...」
「でもそれを、ミレイ姫自身は何とも思っていないのがまた何とも言えませんね...」
こういう話が嫌いなウィン、ミレイ姫の生い立ちを知りなぜあんなにも平然としていられるのかと不思議そうなマクリス。
ミレイ姫の性格上、何とも思っていないというよりミレイ姫の大切にしているものを傷つけることをしない限りは、あの姫は平然としてそうだ。
「マクリス様、本当によろしいのですか?あのことを話さずにいて」
珍しくヴァイスが言う、ヴァイスも心配か...。
さっきから言っているあの話とは...。
メイリーン・フィーリス・バーミリア
ミレイ姫の異母妹にあたる人物で、バーミリア国ではとても人気な姫だ。
その姫が、グレイシア国に今、滞在しているという情報が入ったのだ。この情報は、父上とノヴァ国王陛下、そして俺たちしか知らない。この情報は、ミレイ姫には伝えるなとノヴァ国王陛下から言われた。
「しかし、なんの目的でグレイシアに?まさか、夜会に参加するためでしょうか?」
「いや、それはないだろう。この夜会には、基本的にグレイシアの貴族しか出席を許されていないしな、もし参加するとしても必ず、王家の許可をとらなければならないことになっているからな」
この夜会は、グレイシア国の貴族のための夜会。そのため、あまり他国の者の参加は許されない。
「厄介なことにならなければいいんだが...」
「どうでしょうね...この前の令嬢たちがミレイ姫が噂とは違うと言って回っているみたいですが、それをすぐに信じる者は少ないでしょう」
「それなら、ミレイ姫様に面と向かってその噂の真偽を確かめるようなやつもいないだろうし、そこはミレイ姫自身が何か考えてんじゃないの?」
確かにあの姫のことだ、言われっぱなしではいないだろうし何かしら仕返しもするだろう。
さっきも、凄い顔をしてたしな。
「あの時の顔は怖かったよな...笑ってたけど、雰囲気が怖かったもんな」
「あれは、鳥肌がたちましたね。フェリウス団長が、強い者は雰囲気でも人を威圧できると言っていましたが、その本当の意味をミレイ姫から教わることになるとは思いませんでした」
あの時の雰囲気と笑顔は確かに驚いた。いつも穏やかな雰囲気のミレイ姫だが、あんなに怖い感じも出せるのかと驚いた。
「明日は、なるべくミレイ姫から目を離さないように離れないようにしよう。もし何者かが夜会に潜入しているのなら必ず、ミレイ姫に接触してくるはずだ。みな、気を引き締めていくように」
「「「はい!」」」
明日を無事に終えられるように願いながら、今日の分の書類を捌いていく。