表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の剣を求めて~Another Story~  作者: 遠浅 なみ
第4章 ケービヨン地方
97/186

老舗旅館 越川 ~ 女将のツチノヒと巨漢のゴズエル ~

「うふふ。実はお姉さまったら、昨日からずっと楽しみしてたんデスよ。」

向かい合うように2、2で座り、俺の前にいるリリが嬉しそうに話す。


「昨日からって?」

「ああ、昨日メッセージ送ったんだよ。

ほら、行く時は連絡する約束になってたからさ。」

リリの隣に座っているニャルマーの疑問に答えた。


「なるほど、だからあの場に居たんだな。」

「お昼過ぎから、どこのギルドに来るのかなってソワソワして待ってマシた。

ほとんど商人の護衛で来る場合、ここで降ろしてくれるんデスケドね。」

「え、そんなずっと待ってたの?」

「好きで待ってたンで、気にしないでクダサい。

それで、ケービヨンでは何か予定デモ?」

「本来はポスリメン討伐に行こうと思っていたんだけどね。」

「ストーレンスっていう指揮官に目を付けられたんだよな。

っていうか、あいつがいるなら俺は行く気ねぇからな。」

腕を組みながらパワルドは不機嫌な態度で言い切り、

それには俺もニャルマーも苦笑いするしかない。


「私たちは普段、ケービヨンの冒険者から避けられテイます。

なので、私たちはポスリメン討伐のお手伝いをする気はナイです。

私たち気が合イマすね。」

リリは俺たちの状況に嬉しそうだ。


「そんな事情もあって、ファンフィングには行かないで、

当面はケービヨンに滞在する予定だよ。

まずは丸菱デパートの催し物招待券を貰ったから行ってみたいしね。」

「丸菱デパートはいいお店デスよ。

 ♪丸丸広くていいお店~ 丸っと何でも揃います~

 ま~るひし、ま~るひし、ま~るひし デパァ~トォ~ ♪」

リリは陽気に歌い始めた。


「今のは店の曲?」

「お姉さまとよく行くんデスが、この曲が耳から離れないんデスよ。

そうそうそれで、冒険者向けだと確かテイマースキルのセミナーが

開催中だっタカと。」

「テイマースキルってモンスターを使役するスキルだよな。」

「へぇそんな事できるんだ。」

ニャルマーはパワルドの説明を聞いて興味を持ったようだ。


ゲーム内でも召喚スキルはケービヨンで習得できたので、

熊太郎たち以外の鍵マークもこれで解除されるかもしれない。


セミナー参加は高額だったはずだが、

今回はこの招待券のお陰で無料になるのは有難い。


「んじゃ、明日行ってみようか。」

「アタシたちも丁度丸菱デパートへ行きたかったから乗せテクわ。」

明日の予定が決まると、パワルドは斜向かいのリリに前のめりに質問した。


「1つ聞きてぇんだけど、大蛇のお宝って聞いた事ねぇかな?」

「シングワシの結界の話カシら。

随分と前にナルけど、結界の中で何かをサゲよって言われて

それが何なのか分からなくってそれっきり行ってナイわ。」


「下げる、レバーか何か???」

ニャルマーは右手で大きめのレバーを下げるような動作をした。


「そういった類の物は無カッタわ。」

リリは大きく横へ首を振った。


「下に動かすとは限らないんじゃねぇかな。

後ろにずらすことも下げるって言うしな。」

「他にもご膳を下げると言えば、片付けるっていう意味になるし、

まだ漠然としちゃってるね。」

ヒントとなる言葉を得て、

それが何なのか話し合っていると馬車が止まった。


「着いタワね。」

リリが扉を開けて降り、俺たちも続いて降りた。


竹林の中に1軒、大きな旅館が建っており、

手前の門の上には「越川」と達筆な字の看板が掲げられている。

周りに人気は無く、風で葉が揺れる音が不気味に感じる。


「こっチよ。」

3人で目を合わし、先導するリリに続いた。


ガラガラガラ

リリが開ける引き戸の音が辺りに響く。


大きな玄関の先には古くて趣のあるが、少し薄暗い廊下が続いていた。

「お邪魔しま~す。」

誰もいない廊下に、大きめの声で言いながら入り、

最後に入ったパワルドがガラガラガラと戸を閉めた。


リリがこなれた感じでスリッパを出すと、

奥から白と黒の混じった長髪の老婆が現れた。

「山姥!」

「コラッ!」

そう見えなくはないが、口に出してしまったニャルマーを

小声で一喝した。


靴を脱ぎながらスリッパに右足を入れようとした時ふと顔を上げると、

先ほどの老婆は2人の似たような雰囲気の老婆を従え、

ニヤっとしながら近づいてきた。


驚いて動きを止めてしまうと、後ろの扉が再びガラガラガラと音を立てた。

パワルドは靴を持ちながらリリと話をしており、

ニャルマーは怖がって靴を脱ごうともしない。


入ってきたのは馬車を停留しに行ったララではなく

バッファローの様な角を生やした2メーターはある大男だった。


「キャー、喰われる!」

ニャルマーは頭を抑えてその場に座ってしまった。


「ニャルマー、大丈夫だから。」

入ってきた大男は殺気は無く、むしろ困って戸も閉めずに立ち止まっている。


「どうかされまシタか?」

「ゴズウェウ、邪魔!」

リリは心配そうにニャルマーに近づくと、

ララが大男を押し退け入ってきた。


「此度はお出迎えできずに申し訳ありません。

私、当館の女将をしておりますツチノヒと申します。

受付はこちらになりますので、どうぞお上がりください。」

女将のツチノヒが頭を軽く下げて受付へと促すと、

ニャルマーは周りをチラリと確認し顔を赤らめ両手で顔を覆って立ち上がった。


「何か勘違いしてたみてぇだな。」

靴の代わりに下駄箱の木札を持ったパワルドが笑いながら察し、

俺とニャルマーも靴を仕舞い、受付へ案内された。


老舗旅館の雰囲気がある割に、都市部から離れていることもあって

1泊500ゼニーと良心的お値段だった。


「ケービヨンに行くなら私たちも毎日行くから送ってくよ。」という

ララの後押しもあり、当面ここでお世話になることにした。


ちなみに、ララがイングリッシュ風にゴズウェウ(Gods-wellみたいに)

と呼んでいた男は、ゴズエルというのが正式な呼び方だった。


ララとリリが大きくて逞しくて優しいと本人を目の前に評価すると、

ゴズエルが照れくさそうにしてたのが印象的だった。


先ほど女将と一緒に来た2人の仲居さんにそれぞれの部屋を案内され

ケービヨンでの初日を終えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ