落とす玉イベント8 ~ 間違え探し? ビートレイとトレチャリーの違いは・・・ ~
【1月4日】
元旦から今日まで、セントレアのジャイン、タイガン、ドランゴ、べスターと
俺たちのパーティは俺とパワルド、シンズさんといった7人の男集団で
落とす玉集めをするため千日の塔へ訪れた。
3日までは落とす玉を多く入手可能な期間だった事もあり、
福引を多く引くことができ、魔香5個セットやMP回復薬、
5000ゼニーとある程度の当たりを引くことができたと思う。
パワルドの方も年が変わってから調子が上向いているようだった。
パワルドとシンズさんと明日から全員また揃うねと話をしていると、
後ろからシンメイさんが話しかけてきた。
「なおとさん、シンズさん、パワルドさん、お疲れのところ悪いんだけど、
少しだけこちらにいいかしら。」
セントレアの4人に「また、よろしく。」と軽く挨拶をして、
シンメイさんに促された応接室へ入った。
「千日の塔から戻ってきて早々に悪いな。取り合ず、腰掛けてくれ。」
既に待っていたメセーナさんに勧められ、
奥から俺、パワルド、シンズさんと座った。
「年始早々、お願いしたいことができてしまって、申し訳ないわね。」
俺の前に座ったシンメイさんが神妙な面持ちで会話を始めた。
「特に構いませんよ。で、どうされたんです?」
「バトマの状況はどのくらい耳に入っているのかしら?」
「見回りポスリメンの上位版の巡回ポスリメンがいるとかっていう噂レベルでしか。」
「なるほど。それならまずは現状を正しく伝えて方が良いわね。
メセーナさんからいいかしら。」
「まず君が言っていた通り、上位版のポスリメン、
巡回ポスリメンがいるというのは事実だ。
こっちにいたポスリメンと同じ様に、黒、青、茶、赤の順で強くなっていくが、
モブスタとラーセニーを倒した君たちなら茶でも余裕で倒せるだろう。
凡そだが、見回りポスリメン赤と巡回ポスリメン黒が同じくらいの強さだ。」
「だとすると、最低でもこっちの赤を倒せるレベルが求められるのかのぉ?」
シンズさんは考え込みながらメセーナさんへ聞き返した。
「複数相手は無理でも1人で1体、できれば2、3体は難なく倒せる
レベルじゃないと、はっきり言って使い物にならない。」
「んん、それだとニイタツとセイヤンは厳しいのぉ。」
「カスミとアビナの駄目だろうな。」
パワルドは腕を組ながら、シンズさんの言葉に付け足した。
「バトマの現状だが、ピーク時の3割程度までポスリメンは減ってきている。
ただ少々問題が発生してしまってな。」
メセーナさんは一呼吸置き、シンメイさんと目配せすると続きを話し始めた。
「以前、君たちに協力してもらった辺竹が読み通りバトマにいたんだが、
状況が良くないと判断するとケービヨンへと逃げてしまった。
そしてストーレンスを始めとした多くのギルド本部メンバーや冒険者が、
彼女を追ってケービヨンへと行ってしまったんだよ。」
「俺たちにあれだけの事を言っておいて、逃げられるとは滑稽だな。」
「まぁ、そう言うなって。それで、今はどんな感じなんですか?」
嫌味っぽく言い放ちながら腕を組んだまま背もたれにのけぞったパワルドを
宥めつつ話の続きを促し、シンメイさんが話始めた。
「今バトマでのポスリメン対応はリインフが指揮を執っていて、
残って討伐に参加している人は20人程と聞いているわ。」
「リインフって確かストーレンスと一緒にいた人ですよね。」
「よく覚えてたわね。彼はこの間の事を随分と気にしていて、
ストーレンスがいなくなった今、是非ともあなた達に来てほしいと
言っているわ。私からもバトマへの協力をお願いしたいわ。」
アルティマ祭の時に俺たちがカサーナに残り続けている事を懸念していたし、
リインフからの申し出は丁度良かったんだろう。
「面白そうだし、行ってみようぜ。」
「パワルドの思いは分かったけど、シンズさんはどうします?」
「悪いが儂は辞退させてもらおうかの。
ニイタツとセイヤンがバトマで厳しい以上、親御さんから指導を
任されている儂が彼らを置いて離れる訳にはいかんじゃろ。」
「気にする必要はないわ。もちろんそれは、私たちの想定内よね。」
メセーナさんはシンメイさんの言葉に頷いて、話を続けた。
「ああ、初めからシンズさんには残ってもらおうと思ってた。
カスミとアビナも、カサーナで活動するという条件があるから残ってもらう。
我々が想定しているのはなおと君、パワルド君、ニャルマー君の3名で、
シンズさんには残る4人の指導を引き続きしていただくのが良いと考えている。
どうだろう?」
「ここにいないメンバーに確認してからでもいいですか?」
「そうよね。ただ、明後日の夕方までに結論を頂けないかしら。」
「出発は8日の朝を予定していて、
商隊の護衛を兼ねてバトマへ行ってもらおうと思ってるんだが、
駄目なら他の人をアサインする必要が出るんでね。」
メセーナさんがシンメイさんの言葉を補足し、事情を説明してくれた。
「分かりました。2日後、千日の塔から戻った際にお伝えします。」
「ありがたいわ。メセーナさん、事前にあれも話しておかないとだわね。」
「商隊の護衛の件だが、1つ厄介なことがあってな、
バトマにいたポスリメンの部隊の1つがイーグルビー周辺に潜んでいるんだ。
先日バトマから戻る途中だったウォウヴェンハットが遭遇して、
かなりの数のポスリメンを倒したが、リーダークラスに逃げられてしまった。
一応リーダークラスの面は割れていて、私が作画したものがこれだ。」
メセーナさんは手に持っていた資料の中から3枚の似顔絵を
1枚ずつ丁寧にテーブルに置き始めた。
案の定、予想していた通りの画力で幼稚園児がクーピーで描いたかの様な
似顔絵で、絵の下に『王 玉珠』と綺麗な書かれていた。
この人、字は綺麗なんだよなぁ。
分かりやすくするために一生懸命メセーナさんが描いてくれたのに
笑ってしまうのは失礼なので、必死に堪えていると2枚目が置かれた。
1枚目の女性と思われる似顔絵は黒のミディアムヘアーだったが、
今置かれた絵は先ほどより髪の短い茶色のボブヘアーで
それ以外の顔や表情は同じようにしか見えない。
そして、3枚目が静かに置かれたのだが、
下に書かれている名前が2枚目はビートレイ、
3枚目はトレチャリーとなっている部分以外全く同じにしか見えない。
「3人とも特徴を捉えているいい絵だわ。」
シンメイさんに『どこが!』と突っ込みたい気持ちをグッと堪え、
どうしたものかとパワルドを見ると、
口元をヒクヒクさせながら腕を組んで目を瞑っており、
シンズさんは窓の外の景色を見ながら何かを考えるふりをしていた。
もう一度似顔絵に目をやり、1枚目は分かるとして、
2枚目と3枚目を今一度じっくり見て、視線が気になったのでふと顔を上げると、
メセーナさんが分かりやすいだろとドヤ顔で俺を見ており、
シンメイさんも俺の感想が聞きたいと言わんばかりにこちらを見ている。
「ヘアスタイルとか黒子の位置とか、雰囲気が違いますよね。」
2枚目と3枚目の首にある黒子の有無の違いに気付き、
そして雰囲気というのはもはや適当だ。
「プッ!」
パワルドが俺の感想を聞き思わず噴き出してしまい、全員の視線が彼に集まった。
「いや、女なのに『おう タマタマ』なんだろ。」
「おう ぎょくじゅだ。」
「女性の前であまり品の無いことを言わない方が良いわ。」
絵から咄嗟に話題を変えたパワルドだったが、
メセーナさんからは正しい読み方と共に睨まれ、
シンメイさんから冷ややかに苦言を呈されていた。
「ゴホン。ま、もう少し詳しく3人の特徴を説明しておこう。」
恐縮しているパワルドから視線を外し、咳払いをしてから3人の
詳しい見た目の特徴、戦闘スタイルや強さ、依頼を受けた場合の報酬など
細かい説明をしてくれた。
ちなみに、半分は似顔絵上での見た目の違いを理解できたが、
半分は説明を聞いても一緒にしか見えなかったが
それは黙って「なるほど。」と頷いておいた。
「カスミ達の幼馴染のキリヤ君や、
他に連れ去られた人たちはどうなったんじゃろ?」
イーグルビー周辺の話が終わった段階で、シンズさんが疑問を口にした。
「バトマに連れてかれたか?
でもモブスタと戦ってた時、数人しかいなかったよな。」
パワルドの言う通り、あの場にいたのは少人数でポスリメンの一味だけだった。
拉致したタイミングもバラバラで、都度裏道経由で交戦中の
バトマにわざわざ移動させるのか?
何かあるよね、きっと。
「仮に俺たちだけがバトマへ行くとしても、
カスミ達に納得してもらう必要があるんですけど、
その辺、どうなんでしょうね?」