落とす玉イベント4 ~ 天罰覿面!人の不幸を笑ってはいけません。 ~
「何か俺がここで普通に立ってるのが不思議そうだな。」
「この間みたいに二日酔いでフラフラになってると思ってたよ。」
「確かに前例があるから強くは否定できねぇな。ははは。」
パワルドはバツが悪そうに後頭部を掻いた。
「セントレアのスワリアが『あなたたちはここまでにしなさい』
って止めてくれたからのぉ。」
「そのお陰で、少し残ってるが前回みたいにならずに済んだって訳だな。」
昨日一緒に呑んでいたシンズさんも話に加わった。
「その代わりセントレアのメンバーは、
スワリアにトコトン呑まされてたおったがの。」
「ありゃエグかったな。」
苦虫を嚙み潰したような顔のパワルドに同意するかのように、
シンズさんはウンウンと頷いた。
「それだと、セントレアは今日は臨時休業かもね。」
聞いた内容からセントレアの事を案じると、
2人も「だろうね。」と言った感じで頷いていた。
少しして全員揃ったので、千日の塔へ出発した。
千日の塔で落とす玉の回収を集合時間の4時まで行い外へ出た。
落とす玉を多く入手できる期間なので、昨日と同程度ゲットすることができた。
外は雪が降っていて2センチ位積もっているだろうか、辺り一面白銀の世界だ。
「やはり降っちゃったのぉ。」
俺の直ぐ後にシンズさんが帰還してきた。
「この降り方だと、まだまだ積もりそうですね。」
「この辺じゃ、滅多に積もらないんじゃがのぉ。」
大粒の雪がボトボトと落ちる中、ニャルマーたちが集まっている所へ行った。
「おお、悪い、悪い!」
ニャルマーたちと合流すると、最後に出てきたパワルドが大慌てで走ってきた。
が、途中で滑り大きく尻餅を搗いてしまった。
「いてててぇ・・・」
パワルドは痛そうに立ち上がって服に着いた雪を払い、
俺たちはその一部始終を見ていて笑いを堪えるのに必死だった。
痛々しくゆっくりと歩いてくる姿が余りにも可哀想なので、
ヒールを掛けてあげた。
「ありがとうな、兄貴。」
痛みは引いたようだが、もう転びたくないが故、ゆっくりと慎重に歩いてきた。
「今日は転ばないようにゆっくり帰ろう。」
「そうだよね。」
ニャルマーはパワルドを見ながらニヤニヤしていた。
「暗くなっちまうから早く出ようぜ。」
ニャルマーの態度に少しイラっとしたパワルドがゆっくりと
出口のゲートに歩みを進めた。
残された俺たちもゆっくりと歩き始めた。
が、その時大きな悲鳴が聞こえた。
「キャッ!」
ニャルマーは叫び声と伴にドスンと尻餅を搗いていた。
涙目になっていて、見るに忍びないので
溜息を吐きながらヒールを掛けてあげた。
「ありがとう。雪ってこんなに滑るんだね。」
先ほどまでのテンションとは変わり、
小さな声で申し訳なさそうに立ち上がった。
もしかすると次に転ぶのは自分かもしれないので、もはや笑う者はおらず、
むしろ誰もが転ばないよう慎重になった。
カサーナへの道中ぬかるんだ場所もあったが、無事転倒することなく帰れた。
福引と精算をしにギルドへ行くと、スタッフが明日の午前中まで雪が降ると
言っていたので、明日は落とす玉集めはお休みにした。
たまには良いよね。
【12月26日】
聞いていた通り雪はまだしんしんと降り続き、15センチは積もっている。
雪掻きしている人もいるが、人は疎らだ。
午後には雪は止むらしいので、それまでアイテムボックスの
整理を行うことにした。
昼前にはすっかり止み、一転して澄明な空が広がっている。
子供たちは雪合戦をしたり雪だるまを作ったりして遊んでいて、
大人たちは家の前の雪を邪魔にならないよう1か所へまとめている。
「ギルドで不要なアイテムを精算して、何か手伝うことがないか聞いてみよ。」
アイテムボックスにあった防水効果のあるプルーフィンブーツに
履き替えてギルドを訪ねた。
「お疲れ様です、ウェデンさん。今日はギルドやってますか?」
ギルドの手前でスタッフと共にスノーダンプで
雪掻きをしていたウェデンさんに声をかけた。
「見ての通りスタッフ総出でやってるから、
急ぎの用でなければ後日にしてもらえるかい。」
一旦手を休め、汗を拭っていた。
「急がないんで大丈夫です。よければ手伝いましょうか?」
「それは助かるよ。ギルドにシンメイさんがいるから
スコップを受け取ってくれ。」
ギルドの中に入ると、窓の外を眺めていたシンメイさんが近づいてきてくれた。
「あら、いらっしゃい。はぁ、私もみんなのお手伝いをしたかったんだけど、
皆が留守番してろって。退屈だわ。」
「誰かがいた方がいいと思うので、いいんじゃないですか。
そうそう、ウェデンさんに聞いてスコップを借りたいんですが。」
「そこにあるから、好きなのを使って構わないわ。ご協力感謝します。」
シンメイさんが深く頭を下げるので、「気にしないでください。」と答え
10本以上ある中から適当に1つを借り、
別の冒険者が来たタイミングで入れ替わる様に外へ出た。
ウェデンさんの指示を仰ぎながら雪掻きを行い、
途中でニャルマーと合流し一緒に汗を流した。
町の全員が協力した結果夕方には終えることができ、
スコップを返しにギルドへ行くと、シンメイさんが甘酒を用意して
出迎えてくれた。
「お疲れ様。」
ずっと動いていて体は冷えていなかったが、暖かい飲み物が心に沁みた。
半分程飲んだところで、ウェデンさんが声をかけてきた。
「今日は助かったよ。それで悪いんだが、明日は街道の雪掻きに
協力してくれるかい。
今日もメセーナさんたちがやってたんだが、何分人手が足りなくてな。」
「大丈夫ですよ。」
「私も。」
ウェデンさんの頼みを俺とニャルマーは快く引き受けた。
「そう言ってくれると信じてたよ。
明日7時半にサイポークへの街道付近に来てくれ。
詳しいことはその時に説明するよ。それじゃ、また明日。」
俺たちの協力を得て直ぐ、次の冒険者の協力を取り付けに
手を上げて行ってしまった。
少しでも人手が欲しいのだろう。
「あれシンズさんたちだ。」
カップの底の酒粕をカップを回転させながら飲み干し、
ニャルマーの指さす方を見ると、シンメイさんから甘酒を受け取っている
シンズさん、ニイタツ、セイヤンがいた。
「お疲れ様です。お見かけしなかったけどどの辺にいらっしゃったんですか?」
「儂らは千日の塔へ向かう道の門付近を任されての。」
「そうでしたか。俺とニャルマーはサイポークの街道付近をやってたから
ほぼ逆ですね。」
シンズさんたちは町の北側、俺たちは南側にいた。
「皆で協力して今日中に終わって良かったわい。」
「明日は街道をやってほしいって言ってましたよ。」
「物流が止まってしまうからやらざるを得んの。儂らも手伝うぞ。」
シンズさんはニイタツとセイヤンに言い切ると、2人とも頷いた。
「すまないねぇ。3人も7時半にサイポークの街道付近に来てくれ。
詳しくはその時説明する。」
近くで俺たちの会話を聞いていたメセーナさんはシンズさんたちに
場所と時間を伝え、まだ話していない人の所へ行ってしまった。
「それなら明日は俺と一緒だな。」
シンメイさんから甘酒を受け取ったパワルドが来た。
「ひょっとしてサイポークの街道を今日やってたのかい?」
「ああ、朝からな。ギルドスタッフも一緒にやってるけど、先はまだ長いよ。」
パワルドはサンハイト方面のサイポークの街道で、
今日は合わなかったがカスミとアビナはサッチャンとツルボウと
一緒にバトマ方面のシュメーイへの街道で雪掻きをしていた。
【12月27日】
湿った路面に太陽光が差し込み、所々で湯気が立ち込めている。
太陽光で路面の水滴が蒸発しているわけではない。
太陽光で暖められた湿っている路面と空中の温度が低い事で生じる自然現象で、
雲ができる原理と似たような事だと思う。
さて、集合場所に着くと馬車が3台用意されていて、
周囲には冒険者、ギルドスタッフ、商人、町の住民といった
有志が20人程集まっていた。