落とす玉イベント1 ~ ニイタツの遅刻とニャルマーの遅刻 ~
「私も嫌よ。悪いけど年始は男共でやって頂戴。」
スワリアもカーピユの横に並んで腕組みし、タイガンを睨みつけた。
「もう勝手にしたらええわ。」
「ああ、勝手にしろ。」
タイガンとジャインは怒って精算所へ行ってしまった。
「あの、年末年始に家へ帰りたいんだけど。」
「ニイタツ、お前もじゃろ。」
セイヤンが申し訳なさそうに言ったのを聞いて、
シンズさんがニイタツに確認した。
「俺は別に・・・」
「お預かりしている身としては、そう言う訳にはいかんじゃろ。
お前も家へ帰れ。」
「チッ、分かったよ。」
セイヤンとニイタツも年末年始は外れることになった。
「シンズさんはどうされるんですか?」
「儂は家にずっといると煙たがられるからのぉ。
程々に年始もやるつもりじゃよ。」
「兄貴もやるんだろ。」
「他にやることないし、女子会の邪魔しても悪いからね。」
「確かに、女子会の邪魔は良くねぇな。」
ともあれ、明日から『落とす玉イベント』に臨むことになった。
【12月22日】
8時集合なのに、まだニイタツが来ない。
そして、少し前にセントレアの6人はギクシャクしながら出発していった。
ドランゴとべスターはパーティの仲を取り持つのが大変そうだ。
カスミとアビナがニイタツの真似をして腕を組みながら
「チッチッ」言ってふざけていると、ダッシュでようやく到着した。
「遅れてすいません。」
到着するなり両手をズボンのサイドの縫い目に当て
腰を直角に曲げ、一人一人に詫びていた。
普段の行いからでは信じられないが、カスミとアビナに対してもだ。
「もういいよ、それより早く行こ。」
「そうそう、もう良いからさ、ね。」
カスミとアビナは遅れてきたことを水に流したところで、早速出発した。
道中ニイタツは落ち込んでいたが、シンズさんが落とす玉イベントについて
ずっと説明してくれていたので、少しは気がまぎれていたと思う。
といっても大半はシンズさんのイベントでの武勇伝だったんだけど。
ランキングに応じて珍しい装備品が貰える訳ではないので
やり込む必要はないけど、福引で回復薬などのアイテムやゼニーが
貰えるから頑張った方がいいとの事だ。
内容はオンラインゲームの時と同じで、年末年始はゲームは程々にやって
リアルを楽しめという運営からの配慮だと勝手に思っていた。
千日の塔に着きみんなと分かれ23層へ転移し、
MPが半分になるまでノベグランの杖を装備し
魔香を使いながらフローズンブリザを使いまくった。
MP回復薬を使ってまでやる必要はないけど、魔香は効率を上げるためだ。
今回モンスターが落とす玉は、飴玉より少し大きくて
全体的には水色でスイカの黒い模様の様に小さな黄色い菱形が並んでいる。
これなら確かに全体的な色合いや模様、その配列が被ることは
遠い未来にならない限り無いだろう。
昼前にMPが半分程度になったので、
熊太郎達を召喚し今まで通りレベル上げをかねて進み、
イベント中はこの流れで進めていくことにした。
18回分福引できる数の玉を集め、集合の4時に間に合うよう塔を出ると、
今朝元気が無かったニイタツがセイヤンと楽しそうに話をしていた。
転移陣から降りるとパワルドも帰還してきて、後ろから話しかけてきた。
「ほぼ同じタイミングだったかな?」
「10秒も変わらなかったと思うよ。どう、落とす玉は集まった?」
「福引を15回は引けるな。兄貴は?」
「俺は18回引けるよ。」
「さすがだな。」
「大して変わらないって。あれ、ニャルマーがまだだね。」
「珍しいな。」
ニャルマー以外が揃っている場所に着くと、
アビナが心配そうに話しかけてきた。
「ニャルねぇちゃんいつも早くに出てくるのに、どうしたんだろう。」
「ただ時間を忘れてるだけじゃろうし、もう少しすれば出てくるて。」
シンズさんは安心を促すかのように、
アビナの肩の上にポンポンと2度手を載せた。
「カスミもそう心配そうな顔するなって。」
「シンズさんの言う通り、きっと時間を忘れているだけだよね。」
一瞬だけニコリと返してくれたが、溜息をついて転送陣をずっと見ていた。
10分が経過しニイタツとセイヤンも黙りながら不安気に転送陣の方を見て、
違う人が帰還するたびに溜息が漏れていた。
さらに5分経過しようとした時、ようやくニャルマーが帰還してきて、
俺たちはホッとした。
「ほんとハァハァ、、、遅くなってハァハァ、、、ごめん!ハァハァ。。。」
転送陣から走って来て、汗だらだらで息を切らし
中腰で手を膝に当てながら皆に謝罪し、
今にも泣きそうだったカスミとアビナに笑顔が戻った。
「ニャルマーが落ち着いたら帰ろうか。」
「ああ、そうだな。」
パワルド以外も頷き、少し待ってから帰ることになった。
「ほんと、ありがとう。ハァハァ・・・」
まだ息が乱れているニャルマーは小声でお礼を述べた。
数分待ってニャルマーの息が整った段階でゲートを出て、
カサーナへの帰路に就いた。
「ニャルねぇちゃん、いつもは早めに出てくるのに今日はどうしたの?」
2列目の右側にいるアビナが隣の真ん中にいるニャルマーに声を掛け、
左側にいたカスミも興味深げに右を向き、
前にいる俺とパワルド、後列にいるシンズさん達3人も聞き耳を立てた。
「少しでも効率を上げるために魔香を使ってたんだけど、
運悪くそのままブリーディングエリアに入っちゃて、
モンスターに囲まれちゃったんだよ。」
「そんな事が。。。でも無事で良かった。」
「心配掛けちゃって、ごめんね。」
ニャルマーは申し訳なさそうにアビナの頭を軽く撫でた。
「災難だったろうけど、その分沢山倒したんだろ?」
「まぁそれなりにね。」
不愛想に聞いたパワルドに不愛想にニャルマーが答えた。
「20回以上引けるのかな?」
「うん、25回引けるよ。」
「そりゃ、大したもんだね。」
褒めるとニャルマーは嬉しそうにし、パワルドは隣で「チッ」っと
悔しがりながら舌打ちした。
ニャルマーに対してイラっとしたのではなく、
数が負けたことに悔しかったのだろう。
最後列ではシンズさんが教育上良くないよと言わんばかりに
ヤレヤレといった感じに首を横に振っていた。
道中それ以降は、どの程度福引ができるかシェアしながら帰った。
全員最低でも10回は引けるようで、
今日ギルドへ引きに行くことになった。
「精算は後回しでいいから、俺は先に引いてくるな。」
「じゃ、私も。」
ギルドでは精算コーナーとは別に福引用の特設会場が設けられていて、
パワルドは5列に並んでいる福引待ちの人たちの後ろに付き、
ニャルマーも後を追った。
残った俺たちも人が少ない列にそれぞれ散って並び福引の順番を待った。
「ようやく順番が来たか。」
落とす玉を渡し、三角くじが入っているボックスから18個引いた。
何が出るか楽しみだ。