かじられリンゴの逆襲15(ファイナル) ~ ノベグランとタッピキザ、結局収支はトントンか・・・ ~
今回の精算で得たゼニーの1/3を使ってしまい、
MP回復薬等の経費を考えると、儲けは100万ゼニー位になってしまった。
どうしても欲しいものがあった場合はやむを得ないが、
できるだけ持ち出しが発生しないよう、
金額的に限定品はあと1つにしようと考えながら歩いていると、
パワルドがニコニコしながら近づいてきた。
「いいものでも買えたか?」
「限定品ってのを買っちゃったよ。」
「高かったんじゃない?」
「今回の利益が全部飛んじゃったけどな。これなんだけどさ。」
パワルドは先ほど買ったという青く甲の部分に装飾が施され
とても優美な爪を装備して見せてきた。
「へぇ、カッコイイじゃん。」
「これ見た目だけじゃなく、スペックもいいんだよな。」
「顔がニヤけてるってことは相当いいんだろうね?」
「今持っている物よりも攻撃力が格段に高い上に、
氷塵纏爪っていう技が
魔力を込めて使うと冷気を纏って氷属性のダメージを与えられるんだよ。」
「それを使えば、今後も大活躍間違いないね。」
「まぁ、そうだろうな。ははは。」
豪快に笑うパワルドを見ていると、なんか変に持ち上げすぎた気がする。。。
「兄貴はまだ何も買ってないのか?」
「いや、俺も買ったよ。ノベグランの杖って言うんだよ。」
先ほど買った青い杖を装備して見せた。
「それ俺のと同じ職人が作ったやつだな。」
パワルドは杖の名前を聞き爪の装飾を杖と並べて見たが、
全く異なっているので言われてみても正直よく分からん。
「俺の杖も氷属性に特化してて、威力アップと消費MPを抑えてくれるんだけど、
他の属性だと普通のと変わらないピーキーな杖なんだよ。」
「そういう尖った性能も面白いな。」
それぞれ買ったものの情報交換をしながら歩いていると、
防具のエリアに到達した。
シンズさん達男性陣はバラバラに物色していて、
ニャルマー達女性陣は一緒に店を回っていた。
「パワルドは防具はどうするの?」
「限定品を買う余裕はないけど、鎧に傷が入っちゃったから
量産品でも新調したいな。」
「それじゃまずは鎧上の店に行ってみようか。」
近くにある鎧上を扱っている店の前で商品棚を眺めている客に混じった。
店には通常品、上、特、匠、極の5種類の見本品が並べられていて、
値段と性能が書かれているプレートが掲げられている。
そして奥にいる店主の両サイドには俺が購入した杖と同じノベグラン作が
2種とタッピキザという人が作った2種の限定品計4種が鎮座していて
金額と性能はそれぞれ異なっている。
杖を買った店の主ランデプスが巨匠と言っていたノベグランの品と
同列に扱われているのでタッピキザという人も確かな腕なのだろう。
ここで限定品を買ってしまうと他に買うのは予算的に
厳しくなってしまうなと考えながらパワルドの様子を窺うと、
限定品には目もくれず極、匠、特の見本品を何度も触りながら
お財布と相談していた。
「ねぇパワルドさぁ、隣の鎧下も見てみない?」
「そうだな、他も見てから決めた方がいいよな。」
真剣に悩んでいたパワルドに声を掛け、隣の鎧下を扱っている店に訪れた。
隣合う鎧の上下の店は多少他より広く人はどちらも多く、共に大盛況だ。
手前にあった量産品見ていると、奥からどよめきと拍手が起こり、
一瞬目の合ったパワルドは奥へ様子を確認してきた。
「セントレアのドランゴが限定品を買ったらしい。」
「え?限定品を買うとそんなに盛り上がるの?」
「やっぱ限定品は高額だし、俺ん時も同じ感じだったぞ。
って、兄貴もさっきの杖買ったときに回りは何も反応しなかったのか?」
「杖の店には他に人がいなかったから、何も無かったよ。」
あんな恥ずかしい状況になるなら、良いものがあっても
最悪買えなくてもいいから人が少なくなってからにしようと
あまり目立つのが苦手な俺は心に決めた。
最終的にパワルドは鎧の上下を量産品の中でも最も高価な【極】を購入し、
俺はその2店では何も買わず、
パワルドと分かれて一人で立ち寄った盾屋で限定品の良いものを
見つけたが、周りに人が大勢いたので在庫だけ確認し、
「他の装備品も見たいので。」と
店主に伝え買うのは止めた。
高額だし、きっと売切れる事はないだろう。
【12月14日】
朝早くにカサーナのメンバー全員集まるようアナウンスがあり、
仮設ギルドへ訪れた。
到着しパワルドとニャルマーを見つけ、パーティメンバーと合流した。
ちなみに、カスミとアビナはまだ来ておらず、
その状況にニイタツは不機嫌な顔をしている。
今にも癇癪を起こしそうで嫌だなぁと思っていると、
カスミとアビナが元気よく現れた。
「ボクらがパーティ内で最後だったね。」
「まだ始まってないし、気にしなくていいよ。」
遅れてきたことを気にかけていたカスミをお姉さん的立場のニャルマーが
にこやかに出迎えた。
「ッチ、おm」
「ほれ、始まりそうだから黙っとれ。」
ニイタツが「お前ら」と言おうとした途中で、
シンズさんが話を遮った。ナイス!
シンズさんが見ていた即席で作られた簡易的な壇上にメセーナさんが上がり、
皆の視線が彼女へと向かい静まり返った。
「朝早くに招集をかけたにも拘わらず、迅速に集まってくれたことに感謝する。」
開口一番メセーナさんが感謝を述べ軽く頭を下げ、
同時に壇上右側にいたブルーフォレストの2人も軽く頭を下げた。
一人は第2部隊のミシャワーヌさんなので、
もう一人は第3部隊の総指揮官だろう。
「昨日ブルーフォレストと会談を行い、あとは彼らに任せることになった。」
カサーナの勝利を確信し仮設ギルドは歓声に包まれ、
カスミとアビナはハグして喜んでいた。
「明日宿営地を撤収するが、今回の精算は今日中にしてくれ。
それからブルーフォレストの店は今日まで開いてくれるとのことだ。
一時はどうなることかと思ったが、こうやって撤収できることを誇りに感じる。
ありがとう。以上で終わりだ。」
歓声が落ち着いてから話し始めたメセーナさんは安心した表情で撤収を宣言した。
「それじゃ、俺たちも撤収だな。」
「ああ、そうだな。
あ、ちょっと買いたい物があるから少し待っててもらえるか?」
パワルドと出口に進みながら、昨日の盾を買いに行くことを思い出した。
「私も準備を整えたいから、少し待ってほしいんだけど。」
「じゃあ、10時出発にしよう。」
ニャルマーたち女性陣の意見も踏まえ出発時間を決め散会し、
盾屋へと足を運んだ。
既に昨日必要な人は買い揃えているためか、
店が連なる通りを訪れる人は少なく、盾屋には俺以外いなかった。
「お、昨日のあんちゃんじゃねぇが。」
昨日は店主の両サイドに異なる限定品の盾が置かれていたが、
俺が目を付けていた方が無くなっていた。
「昨日俺が残りを確認した限定品は売れっちゃったんですね。」
「ああ、あれがい。もう取り置いでら分すか残ってねじゃ。」
読みが甘かったかと悔やんでいると、
「おっと、勘違いすねでぐれ。
立ぢ去るどぎにあったに物欲すそうに見ぢゃーはんで
絶対買いに来るど思っちゃーはんでおめの分は取っといであるよ。」
店主は慌ててアイテムボックスから黒いタッピキザの盾を取り出した。
「さすが商人の見立てですね。」
「まぁ、盾屋だはんでね。」
店主はウインクしながらサムズアップしてきたが、
冷たい空気が流れた気がした。
うん、周りに人がいなくて良かった。。。
ともあれ氷属性の威力アップと耐熱効果のある盾を無事購入することができた。
【タッピキザの盾】90万ゼニー(防御力:+180)
氷のオーラを宿し、火属性、氷属性のダメージを20%軽減。
氷属性を用いた攻撃時、MP消費を10%抑え、威力を3%向上させる。
HPとMPの回復速度を10%早める。
杖の特殊効果と合わせると、氷属性なら40%も消費MPを抑えて
使うことができるようになった。
準備を整え、10時にカサーナへの帰路に就いた。
「で、兄貴はまた限定品でも買ったのか?」
パワルドが興味津々に聞いてきたが、
みんな他の人が何を買ったのか気になってるし、
自分が買った物を見せびらかしたいという思いもあるようだ。
まぁそういう話題になるよなぁと思いながら歩みを進めた。
俺は見せびらかしたいとは思わないけど。。。
津軽半島の最北端にある龍飛崎。
最後を入れ替えてタッピキザ。