かじられリンゴの逆襲13 ~ 第2部隊ミシャワーヌ総指揮官、そして最果ての西西(31-2424) ~
「おはよう。今日も君は遅かったね。」
釈然とせず湿地帯を遠望していると、メセーナさんが声を掛けてきた。
「おはようございます。今日は平気そうですね。」
「昨日の事は反省しているよ。ウェデンにも迷惑をかけてしまったし、
上に立つ者として体裁が悪いよな。」
「たまには良いんじゃないですか。で、なんでこんな状況に?」
ばつが悪そうにしているメセーナさんに、かじられリンゴが
跋扈しているこの様を聞いた。
「そろそろブルーフォレストの第2部隊がここへ着くそうだ。
こちらへ追いやりながら向かってるだろうから、
着くまではドンドンやってくるだろうな。」
「という事は一時的ですね。ガツールさんたちの部隊が見えないけど?」
「彼らは奥の茂み付近に陣を張って、西へ抜けないよう討伐してるよ。」
「なるほど、そういう事ですか。それじゃ俺もそろそろ行きますね。」
「頼んだよ。」
メセーナさんに見送られ、ウインドカッターを唱えながら討伐を開始した。
11時半頃、ブルーフォレストの第2部隊がバラバラに到着してきた。
ビクレビスやジュワーダの様にイケメン揃いで、内心妬ましい。。。
さてそれはさておき、2部隊が加わった事で北側に第2部隊、
西側に第1部隊、南はコアゼン川、東側にカサーナのメンバーで
1匹も逃さないようかじられリンゴを囲い込んだ。
第2部隊は追い込みながらバラバラで来ている影響で、
かじられリンゴは増えたり減ったりしている。
さらに、殲滅するため湿地帯まで着いてもまた戻って残っている
かじられリンゴをこちらへ追いやっているようだった。
3時を回った頃、粗方討伐が終わったので
途中でジャインとタイガンと合流して入口へ戻った。
「あそこに、えらい美人さんがおるで。」
タイガンは入口付近でウェデンさんとガツールさんと
一緒に話をしている女性を見ていた。
「確かに色白でめっちゃ綺麗な人だな。」
ジャインもニヤニヤしながら、その女性を見ていた。
「ウェデンさん達と話をしてるっていうことは偉い人なのかな?」
「あれはわーら第2部隊の総指揮官のミシャワーヌだな。」
「おっかねはんであまり近づがね方がいじゃ。」
俺の予想通りだったらしく、近くにいたブルーフォレストの2人が
小声で教えてくれた。
ニヤニヤと見ているジャインとタイガンに気付いたのか、
声が聞こえたのか30メータ程離れた所にいるミシャワーヌさんは
一瞬だけ俺たちへ鋭い視線を向けてきた。
「ええわ~」
タイガンは視線で心を射抜かれてしまったようで、
警告してくれた2人は溜息をついていた。
俺たちはくだらない会話をしていたが、ウェデンさんたち3人は
真剣に話をしていたので、声を掛けずに会釈だけして通り過ぎ、
宿営地へ戻った。
カサーナのメンバーだけでなくブルーフォレストの2部隊が合流したことで、
いつも以上にごった返していて、仮設ギルド前は特に人が多かった。
時間が早いのでふらふらと1人で歩っているとビクレビスが
俺を見つけ話しかけてきた。
「ようやぐ見づげだよ。わんつかだげ話いがい?」
「構わないけど、どうかしたの?」
「明日朝さサンハイトの方さ向げで出発するはんで、
短ぐであったげど挨拶だげでもすとぐべがど思って。」
彼は出発することを伝え挨拶するために俺を探してくれていたみたいだった。
「この辺はおおよそ片付いたし、そうだよな。
サンハイトには知り合いもいるし、よろしく頼むよ。」
「ああ、任せでぐれ。短ぐであったげど会えでえがったよ。
色々ありがとな。じゃ、達者でな。」
「こちらこそ、ありがとう。またいずれ会おう。」
彼は手を差し出してきたので握手をすると、彼はまた別のところへ
挨拶に行ってしまった。
律儀な人だったな。
【12月13日】
夜明けと同時に湿地帯へ行くと、ブルーフォレストの第2部隊の人たちと
ジャイン、タイガン、他に見たことのある5名のカサーナの男が走っていた。
カサーナの7人は嬉しそうに走っており、それを総指揮官である
ミシャワーヌさんが睨むように見ていた。
なぜこの様な事態になっているのか不思議だが、
怖いので触れないでおこう。。。
「おはようございます、メセーナさん。ガツールさん達はもう出たんですか?」
少し離れたところにメセーナさんがいたので挨拶しに行った。
「おはよう。もう彼らは暗いうちに行ってしまったよ。西の森を突っ切って
かじられリンゴをサンハイトの方へ追い込みながら進むそうだよ。」
「あの人たちには、森の加護がありますからね。」
「私たちには無理がな。今日は第3部隊が到着する予定だよ。
ま、それまで時間があるから適当に散歩でもして時間を潰してくれ。」
適当にって言われてもなぁと思いながら、
「適当に散策してますよ。」
と答え、かじられリンゴもいない湿地帯へと歩き始めた。
暫く歩いていると前から歩いてきたパワルドが話しかけてきた。
「なぁ兄貴、時間あるしポスリメンの拠点だった所まで行ってみないか?」
「時間あるし、面白そうだから行ってみよう。」
パワルドと共にポスリメンの拠点だった丘まで行くことになった。
ポスリメンもかじられリンゴも出てこないので、
最果ての西西にある丘の上には1時間もかからずに到着した。
そこには漆黒の柵に囲まれた5階建ての建物が不気味に佇んでいた。
「こっちから入れそうだぜ。」
ひんやりとした風が吹き抜けていく中で不気味な建物を眺めていると、
パワルドがスライド式の門扉を見つけ、
ガラガラガラと音を鳴らしながら開けた後、中に入ってしまった。
「おい、ちょっと待てよ。」
パワルドが開けた門扉から中に入り、一応閉めておいた。
「あれが入口っぽいな。」
入口らしき場所を見ていたパワルドの横に並んだ。
「とりあえず、入ってみよう。」
何が出てきても良いように、装備を整えてから中に入った。
「何も居そうにないね。」
建物の中は薄暗かったが、物音一つない。
「確かに不気味なほど静かだな。」
パワルドは入口からずっと1つずつ小部屋をチェックしていた。
「向こうに別の建物があるぞ。」
先を歩いていた俺は、突き当りの窓から別の建物を発見した。
「上の階で繋がってるな。あっちに階段があったから行ってみよう。」
一通り小部屋をチェックしたパワルドは窓を覗き込んでから、
階段を昇り始めた。
2階の突き当りには扉があり、鍵はこちらから開けれそうだった。
「開けるぞ。」
パワルドはドアノブにあるカギをつかみながら俺の方を確認してきたので、
何が起こっても大丈夫なように少し離れた。
カチン、ギィィィ。
扉の油が切れているのか、低い音を立てながらドアが開いた。
パワルドが俺の方を見てきたので頷き返すと、扉の外へ1歩踏み出した。
20メータほど先にある体育館程の建物に続く通路を用心深く進んだが、
トラップは何もなかった。
通路の突き当りには入るための扉があり、右手には下へ降りる階段があった。
パワルドは躊躇いもなくドアノブを握り、ドアを開けた。
鍵はかかっていなかったようだ。
扉の先はただっ広い空間になっており、かすかに照らす薄日で
全体像が把握できた。
「一番奥が祭壇みたいになってるな。」
パワルドは周囲を気にしながら徐に中へ入ると奥へと進み、
続いて中に入って祭壇の近くまで行った。
「これは転移陣だよね。」
大きな石板の上に描かれたものを破壊し、再度それらをパズルの様に
揃えられていて、いたる所にヒビが入っている魔法陣の前で
パワルドに確認した。
「確かにコマアールのダンジョンにある転移陣と似たような感じだよな。」
パワルドはそのまま転移陣に乗っかってしまった。
「え、何やってんの?」
31-2424
カサーナ(笠幡駅)から北西にある小高い丘の上のある高校の電話番号。
今は市外局番の区切りが変わってしまったが。