かじられリンゴの逆襲12 ~ 宴の後、そしてニイタツ & セイヤンとジュワーダ ~
【12月11日】
昨日の宴は何時まで続いたのだろうか、早々に寝てしまった俺は知らない。
会場となっていた仮設ギルドは、ギルドスタッフと乙女戦士のメンバーが
朝早くから片づけをしていて元の状態に戻っていた。
いつもこういう事を率先している彼女たちは本当に偉いと思う。
日の出とともに宿営地を出ると、橋の先にパワルドがふらふらと
ゆっくり歩いていた。
「おはよう。」
ポンと軽く背中を叩きながら挨拶すると、立ち止まり気持ち悪そうに
中腰になってしまった。
「ウッ!気持ち悪いし、頭いてぇ。。。」
「あ~あ、こりゃ完全に二日酔いだね。無茶して張り合ったんだろ?」
心優しい俺は呆れながらも、頷き返したパワルドの背中をさすってやった。
パワルドが意を決してまたゆっくりと歩き始めたので、
「今日は止めた方がいいんじゃね?」
と、心優しい俺がアドバイスをした。
「とりあえず行くだけ行ってみて、そこで考えるよ。」
「そっか。」
一言だけ返事し、パワルドのペースに合わせてゆっくり歩った。
うん、俺って凄く優しいっ!!
いつも午前中はメセーナさんが入口で番をしているのに
今日はウェデンさんがブルーフォレストの総指揮官であるガツールさんと
眠そうな顔で話をしていた。
「おはようございます。」
「おはよう。君は大丈夫そうだね。」
俺に挨拶を返してくれたウェデンさんは明らかにテンションが低かった。
「俺は問題ないんだけど、パワルドがちょっと。」
来た道を振り返りながらパワルドを指さそうとしたがそこには居らず、
少し離れたところでプールの見学者の様に体育座りをしながら
湿地帯を眺めている集団に吸い込まれていった。
そこには、メセーナさんやアゼール、ジャインなど昨日吞み比べで
盛り上がっていた20人近くがいた。
「はぁ。。。」
本来であればメセーナさんと交代して休んでいるはずのウェデンさんは
呆れながら溜息をついた。
「何か心中お察しします。でもブルーフォレストの人はいませんね。」
「うぢには酒さ飲まぃですまうような連中はいねじゃ。
もう皆どっくに出発すてらおん。」
俺の疑問に答えてくれたのはガツールさんだった。
「お恥ずかしい限りです。」
ウェデンさんは小さくなりながら、カサーナを代表して頭を下げた。
「気にするでねぇ。それよりほどんど行ったみだいだす、
後はわんどに任せでそろそろ休め、な。」
「お気遣い、感謝します。」
メセーナさんは俺が行った後、休ませてもらう事になった。
「それじゃ、そこにいる皆の分も頑張ってきますね。」
「よろしく頼むよ。」
「気付げでな。」
2人に見送られ出発した。
既に湿地帯のかじられリンゴは殲滅されており、奥の茂みや雑木林を散策した。
たまに見かけるかじられリンゴをウインドカッターで倒しながら進み、
カサーナの人とは会うことがあったが、昼過ぎまでブルーフォレストの人と
会うことはなかった。
「あれ、ニイタツとセイヤンじゃん。シンズさんは?」
近くでかじられリンゴを倒した2人に話しかけた。
「連日の戦いで老体には堪えてるから、今日はゆっくりさせてくれって。」
俺に気付いたセイヤンは、槍を肩に載せて俺のところに来た。
「ア、ソーナンデスネ。」
「ソーナンデス。」
棒読みで答えると、後から来たニイタツも棒読みで答えた。
二日酔いでダウンしていることを3人とも確信していたが、
シンズさんを気遣いお互い触れなかった。
シンズさんの代わりという訳ではないが、
折角あったので3人で討伐することになった。
「その木の陰に2匹。」
ディテクトを使いかじられリンゴのいる位置を把握して
小声で教えると、ニイタツとセイヤンがそっと向かい倒した。
暫く俺が場所を特定し、2人が近づいて倒すという戦法で進めた。
これは2人の経験のためにやってもらってる訳で、
決して俺が楽するのが目的ではない。
そう、2人のためなのである。
そんな感じでまったりとやっていたのだが、2時過ぎに様子が変わった。
「何か急に増え始めてきたな。」
かじられリンゴを倒しながら、ニイタツはボソリと愚痴った。
「奥から湿地帯の方へ向かってるね。」
ディテクトで敵の様子を把握していると、何かに追われるように
一様に動いていた。
「ここよりもさっきの開けた場所の方が良いんじゃ?」
「確かにセイヤンの言う通りだな。よし、少し戻ろう。」
セイヤンは俺が賛同すると先頭進み、俺とニイタツはその後を付いていった。
数十分位、少し道幅の広い場所に留まり倒していると、
木の上を渡りながら弓で攻撃しているブルーフォレストの男が現れた。
「あれ、おめさん方は昨日ビクレビスど一緒にいだふとじゃねぇが。」
「あ、昨日はどうも。ブルーフォレストの人達をずっと見かけなかったけど、
どこか行ってたのかい?」
木の上から降りてきたのは、昨日ビクレビスが飲み物を取りに行った際に
手伝ってくれたジュワーダだった。
「他の所さ行がねように朝はえぐから結構奥まで行って、
こいづら追い戻すちゃーんだ。」
「だから見かけなかったのか。
それにしてもこの雑木林の中を移動するって凄いね。」
「わんどには森の加護があるはんで、どうって事ねじゃ。
それより、昨日の開げだ場所まで追いやるはんで、はえぐ戻った方がいじゃ。」
ジュワーダは再び木に飛び乗ると、弓を装備してかじられリンゴを
湿地帯の方へ追いやり始めた。
「この辺にはもういないね。彼の言う通り戻ろうか。」
ディテクトで反応がなかった事を伝え、3人で戻ることになった。
とは言え、彼らは追いやりながらも直線で戻るのに対し、
俺たちは道形に戻らなければならず出くわしたかじられリンゴを
倒しながら進むのでどちらが早く着くのやら。
結果的にはほぼ同タイミングで戻ってこれた。
かじられリンゴを追いやった箇所は早く進むことができたが、
ブルーフォレストの人達に追いついてしまうと
そこからは彼らと同じペースになってしまった。
午前中二日酔いでダウンしていた人たちが失態を取り戻すべく
戦闘しており、俺たち3人も開始した。
ブルーフォレストの人達の到着にはタイムラグがあるため、
かじられリンゴは増えたり減ったりしていたが、
4時過ぎ日の落ちる前までに全て倒しきることができた。
皆で宿営地に戻ると、仮設ギルドでスタッフと乙女戦士のメンバーが料理と
ジャポネ酒を用意してくれていた。
昨日の反省を活かし、ほどほどの盛り上がりで終了した。
【12月12日】
いつもより若干遅めに湿地帯へ行くと、そこには昨日一掃したはずの
かじられリンゴがウロウロしており、カサーナのメンバーは戦闘していた。
「あれぇ~・・・?」




