かじられリンゴの逆襲10 ~ 遊撃隊の結成とタイガンの心配事 ~
「お陰さんでピーク時から半減して、明日にはブルーフォレストからの応援も来る。
そこで新たに遊撃隊としてC班を作り、君たちに入ってもらいたい。
他には防衛ラインの外で活動した事のあるジャイン、ドランゴ、パワルドの
3名と別パーティから2名を加えた10人がB班から、
そしてA班からもアブレラとタケリツを加えた10人の
実力のある総勢20名をこちらで選ばせてもらった。」
「ざっくり20人ずつ分けるっちゅうことやな。
やることは今みたいな感じっちゅう事か?」
「今みたいに塊で動くのではなく、個々人で動いてもらうようになるが、
7時スタートなど概ね他のことは同じ想定をしている。」
タイガンの疑問にメセーナさんが答えてくれた。。
「ブルーフォレストの人たちが来ると何か変わりますかね?」
「複数の部隊に分かれて到着すると聞いていて、明日は1つ目で20~30名が
到着する。明日の到着後あちらと協議して明後日以降の動きを決める予定だが、
何時着くかはまだ分かってないんだよ。他に何かあるかい?」
俺の質問に答えると、他に聞きたいことがないか皆の顔を確認した。
「今のところ無いようだが、もし何かあったら遠慮なく聞いてくれ。
それじゃ私はもう少し休ませてもらうから、ウェデンあとは頼む。」
メセーナさんは振り返って背中越しに手を振ると、宿営地へと帰っていった。
その後、俺はアゼールとタイガンと寛ぎながら雑談し、
ニャルマーはカーピユと楽しそうに話していた。
タイガンも既に相当数倒していて、本当にちゃんと精算してくれるのか
ひどく心配していた。
俺も7000匹以上倒しMP回復薬の持ち出しもかなりの量になっているが、
最終的にはアゼールの「ギルドが間に入っているから、
最悪ギルドが払うから大丈夫だろう。」という言葉で落ち着いた。
そして、ニャルマーとカーピユが防衛ラインへ戻ると、
代わりにパワルドとジャインがこちらに戻ってきた。
既に明日の話は聞いているとの事なので、今日はこれで解散した。
【12月10日】
湿地帯の入口まで赴きかじられリンゴの様子を見ると、
ピーク時の1/3位まで減っており、
既に防衛ラインの外で討伐している人が結構いた。
「おはよう。C班は来たタイミングでどんどん開始してもらってるよ。
君も準備できたら早速頼むよ。」
メセーナさんは挨拶も早々に、早く行けと言わんばかりに俺の肩を叩いてきた。
特に準備することもなく、既に開始している人たちもソロでやっていたので、
「それじゃ、行ってきますよ。」
と返すと、メセーナさんは
「おう、頑張ってくれ。」
と笑顔で送り出してくれた。
攻撃を躱しながら走っていけば直ぐにでも奥へ行けそうなほど
疎らになっているが、ウインドカッターのテリトリ内にいる
かじられリンゴは手当たり次第に倒していく。
中央付近には何名かいるので、北側の湿地帯と茂みの間に沿って進んでき、
茂みからは頻繁にかじられリンゴが現れ、
確実にウインドカッターで倒していった。
MP回復薬を時折飲み、11時前に一旦防衛ラインまで戻り一休みした。
既に見知った顔も含め5人がいた。
「よう、お疲れ。」
仰向けになりながら寛いでいたジャインの横へ座った。
「ああ、お疲れ。どうだい順調か?」
起き上がり胡坐になったジャインは、背中の埃をトントンと軽く払った。
「まだまだ稼がしてもらってるよ。」
「俺もかなり稼がしてもらったが、持ち出しもそれなりになりそうだわ。」
ジャインはちらりと横に置いてある自分の剣を見た。
「それ何本目?」
「もう10じゃ軽く利かねぇよ。3本は鍛冶屋に預けてるが、
もう一杯だって受付てもくれねぇ。
今回の一件で一番儲かるのは鍛冶屋だったりな。ははは。」
「ははは。暫くは徹夜で作業だろうね。」
「鉄屋なだけにな。」
軽く俺の背中を叩いてから、俺を指さしながら笑った。
んん、別にそういうつもりで言ったわけではないんだけどなぁ。。。
「そういや、誰か他に会った?」
先の親父ギャグで滑った感が嫌だったから、話題を変えた。
「会ってはいないが、アブレラは物凄い勢いで突進していったって
A班の人が言ってたな。
あいつは休みもしないで突っ走りそうなタイプだからな。」
「それでも平然とやってそう。」
「あはは、そうだろうな。お、あれはお宅のニャルマーとウチのカーピユだな。」
ジャインが眺めた先にはタッグを組んで討伐している2人があと少しで
防衛ラインという位置にいた。
「昨日仲良くなったのかな。」
「ソロでやらなきゃいけないルールでもないし、いいんじゃないか。
さてと、あまり油を売ってると何を言われるか分からんから、そろそろ行くよ。」
立ち上がったジャインはニャルマー達と入れ違いに討伐を再開した。
「あれ、一緒に行かないの?」
俺の左側に腰掛けたニャルマーは、ジャインと一緒に行かなかった事を
疑問に思ったようだ。
「別々に行動していて、たまたま今話してただけ。俺もさっき来たばっかだよ。」
「そっか~、ほとんどソロでやってるもんね。」
「チームを組んでやるのも構わないと思うよ。それはそれで良い部分も
あるだろうし。それより二人は昨日の遠征で仲が良くなったの?」
ニャルマーとカーピユという組み合わせが気になった。
「もう少し前からなんだなこれが。」
答えたのはニャルマーの横に座ったカーピユだった。
「ナオッチが抜けてるときに、パワルドが女同士の方が良いだろうって
休憩の順番を変えてくれたんだよ。それで話をして気が合ったって感じかな。」
カーピユの話にニャルマーが補足してくれた。
「ウチのニャルマーが迷惑を掛けてないかい?」
「いやぁ逆に色々助けられてるよ。彼女の動きは素晴らしいよ。」
カーピユに褒められてニャルマーは少し照れていた。
彼女が楽したがりな性格だったのを思い出し、ニャルマーの陰で楽してるのではと
一瞬考えたが、喜んでいるニャルマーを見て言うのは止めておいた。
「上手くやってるようで安心したよ。」
二人は頷くとガールズトークが始まったので、俺はぼんやりと
防衛ラインの先にいるかじられリンゴを眺めながら寛いだ。
気のせいかもしれないが、朝よりも少し増えているように感じた。
20分ほど休憩を取った後に討伐を再開し、
先ほどと同じように茂みとの境界辺りに沿って奥へと進んでいったのだが、
明らかに茂みから出てくるかじられリンゴは徐々に増えていき、
遂にはその場で足を止め茂みに向かいウインドカッターを
唱える状態になっていた。
暫く立ち止まって討伐していると、茂みの奥の雑木林に人影が見えた。
30メータくらいの間隔で木の上に立って矢を放ち、
かじられリンゴを湿地帯の方へと追いやっていた。
どうやらブルーフォレストの第1部隊が到着したようだ。