ブリーディングエリア攻略 ~ ホクホク顔でばれました ~
凡そ30メータ四方の大きさの部屋で、先ほどまで見てきた部屋と比べると大きく、
中心には1メータ程の黒い霧状の球体がぐるぐると回りながら浮いていた。
そして、30匹を越えるモンスターがこの部屋にはいたのだ。
「げ、これが噂のブリーディングエリアか。」
驚いていると同時にモンスターもこちらに気付き入り口付近にいる
俺達に襲い掛かろうとしていた。
シンズさんからは、できるだけこの場から逃げるように言われている。
というのも、倒したモンスターは魔素へと帰り大半があの球体である
ブリーディングコアに吸収され、再びモンスターが誕生してしまうので、
離れながら倒すことでコアとの距離を取り、
魔素が吸収されるまでの時間を稼ぎ逃げ切るのが得策だと教えてもらっていた。
「フレイムウェイブ!」
パワルドには悪いが俺も挑戦したくなってしまい、範囲魔法を使い
先制攻撃を仕掛け、密集していたモンスターに効率よくダメージを与えた。
俺の魔法をトリガーに召喚獣たちも戦闘を開始し、俺はその間から
フレイムウェイブを何発も放って、徐々に数を減らしていった。
既に半分以上倒したがここまでは序の口で、そこからが本番だった。
ブリーディングコアは高速に回転しながら魔素を吸収し、
時折光るとモンスターが飛び出してきているが、
構わずフレイムウェイブを連発し10匹ほどまで数を減らした。
ブリーディングコアはどんどん回転速度を上げ、モンスターを放出する間隔も縮まってきて、
遂には倒す速度と放出する速度がほぼ拮抗するようになってきた。
「パワルドはずっと倒してたらブリーディングコアは段々小さくなったって言ってたな。
このままやってみるか。」
コア付近に出現したモンスターにウインドカッターでダメージを与え、
近づいてきたところを召喚獣が倒す、暫く同じ調子で続けた。
・・・1時間位続けたが、状況は悪化していた。
「シンズさん、減らないじゃないか。。。」
出現したモンスターの魔素を100とすると、ドロップアイテムや
周りの人やモンスターが吸収したりするため一部の魔素が消費されることにより、
コアが再吸収する魔素は理論的に100には満たないので、徐々に勢力が衰えると聞いていた。
だが現状はコアが少し大きくなり、明らかに出現するペースが上がっていて15匹位で
拮抗しており、タイミングを見てはフレイムウェイブで範囲攻撃をして数を減らしていた。
「フレイムウェ、、、って、待てよ。」
また増え始めてきたので範囲魔法で減らそうとしたが、
やらかしていた事に気付き途中で魔法を使うのをやめた。
「放たれた魔法は最終的に魔素へ還元され、コアに吸収されてないか・・・」
魔法を使い、コアの魔素量を減らすどころか、逆に増やしていたのだ。
『なんて無駄なことを・・・』と思ったが、熊太郎たちを見て
『こいつらの経験値にはなったからいいか』と思い直し、
魔法を使わずに一旦数を減らすため乱鬼龍の剣を装備し攻撃した。
熊太郎たちの近くにいるモンスターを除いて粗方倒し、弓を装備して新たに沸いた
モンスターへダメージを与えていった。
熊太郎たちだけで対応するには多すぎるモンスターの数になったら剣で間引きし、
その合間は弓で攻撃した。
昼過ぎ、魔法攻撃の使用を控えてから2時間弱が経過し、コアの大きさも最初と同じくらいになり、
エリア内には5,6匹の水準までモンスターの湧きが落ちてきたので、
弓での攻撃も止めて回復とサポートに徹した。
「戻り時間を考えると、あと2時間くらいか。」
ステータスで時間を確認し、できればコアを消滅させたいと思っているが、間に合うか・・・
既に3時半を回ったが、コアは当初の半分くらいの大きさになっているもののまだ存在している。
「残念だけど戻る時間を考えると、そろそろタイムアップだな。」
前半に魔法で攻撃しコアを成長させてしまったことが悔やまれるが、
現状のモンスターの出現頻度ならまずまずの成果だろう。
エリア内に残っている2匹のモンスターを俺が倒し、またコアから出てきて追いかけてきた
モンスターはコアが多少成長しようがもはやどうでも良いので、
ウインドカッターで倒しながら最も近い帰還陣を目指した。
まだ4時まで少し時間があるため、アイテムを確認すると千日鋼が200個以上増えており、
それ以外にもMP回復薬や回復薬などドロップアイテムが大量に増えていた。
「経験値もおいしいけど、大分儲かったな。」
誰も回りにいないことをいい事に、顔が緩んでしまった。
「おっと、いかんいかん。引き締めて帰らないと。」
両手で顔を2回叩き、召喚獣を戻してから帰還陣に乗った。
外にはカスミとアビナの2人が既にいた。
「お疲れ。2人共早いね。」
まだ集合時間の4時には10分ほどある。
「そういうなおっちも今日は早いよね。ていうか、なんか良い事でもあった?」
「え、なんで。」
「何かホクホク顔になってる。」
カスミとアビナの指摘に、俺は「え、そうか」と言いながら、再度両手で顔を叩き顔を引き締めた。
「何か凄いお宝でも見つけたのかのう?」
「ねぇ、何してるの?」
ふと振り返ると塔から出て少し様子を見ていたシンズさんと
今しがた出てきて状況が読めず不思議そうな顔をしているニャルマーがいた。
ポーカーフェースを装っているつもりなのだが、もはやバレバレで誤魔化しきれる自信がない。
「いや実はさ、17層にブリーディングエリアがあったんだよ。」
その一言で大体皆状況が読めたようで、シンズさんは溜息をついて2度ほど自分のおでこを叩き、
ニャルマーは口を大きく開け呆れており、カスミとアビナは興味深げに俺を見ていた。
「確認だけど、逃げてきたんだよね。」
「一応逃げてきたと言えなくは無い。」
ニャルマーの厳しい問いかけに、一応嘘はついていない。
時間切れで倒しきれず最終的には逃げてきたので問題ない、そう強く心に思った。
「一応ねぇ~。」
ニャルマーの鋭い視線を逸らし、塔のほうを見るとニイタツとセイヤンが向かってきていて、
そしてパワルドが丁度塔から出てきたところだった。
「ほら、みんな揃ったから、帰ろうか。」
話を逸らし、今日は一番先にゲートから外に出た。
「あれ、何かあったのか?」
パワルドは自分が塔から出たらすぐに、俺が出て行ったことを不思議に思いニャルマーに尋ねた。
「塔でブリーディングエリアがあったんだって。」
「それで何で逃げるように出て行ったんだ?」
「本人は一応逃げたと言ってるけど、かなり儲けたみたいよ。」
「ほう、それは詳しい話を聞かないとだな。」
パワルドは俺を追いかけるようにゲートを抜け、ニャルマーも続いた。
そしてシンズさんは溜息を付きつつ残った4人に、
「やつらは問題ないが、お前達は絶対にすぐに逃げるんじゃぞ。絶対じゃ。」
と、きつく言い聞かせていた。
俺が外に出た後、パワルドとニャルマーが出てきた。
「兄貴、ブリーディングエリアはどうだった?」
「どうって言われても、俺は逃げてきたよ。」
「でも大分ホクホク顔だったよね。相当儲かったんでしょ?」
アビナとのやり取りを見ていたニャルマーが、パワルドに続いてゲートから出て話に加わった。
「ま、まぁ、若干ね。」
「そうか。それじゃ、詳しい話は帰りの道中お聞きしようか。」
ちょっと吃りながら答えると、パワルドは俺の肩をガッチリとホールドしてきた。