スパイティフの件の事後処理 ~ ニイタツは獣人嫌いなようです ~
【11月17日】
今日からシンズさん達と一緒に行くので、少しだけ早めに集合場所のギルド前に着いたが、
カスミとアビナがまだ来ていなかった。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします。」
「おお、おはよう。こちらこそ、よろしくじゃ。しかし、カスミたちはまだかのう。」
シンズさんは左右を見渡しており、ニイタツは「獣人のくせに俺達を待たせやがって。」と
腕を組みつつ苛立ちながらぼやいていた。
「まぁまだ8時まで時間があるんで、そろそろじゃないですかね。
昨日まではいつ出発してたんですか?」
「だいたい7時半過ぎには出てたかのぉ。
じゃが、こちら一緒をお願いしてるんだし、今まで通りの8時で構わんよ。」
「お気遣いありがとうございます。あ、カスミたちが来ましたね。」
カスミたちは手を振りながら走ってきた。
「私達が最後だね。ごめん、待たせちゃって。」
「約束の時間は8時じゃが、まだだから気にするでないぞ。」
シンズさんはにっこりとカスミに答えた。
だが、その後ろで明らかに苛立っているニイタツがいた。
「チッ、獣人風情が俺達を待たせやがって。フン。」
聞こえるように大きな声で言ったのではなく、
小さく呟いただけだが獣人のカスミたちにははっきりと聞こえた。
「シンズさんは問題ないって言ってくれたもん。」
アビナは口を尖らせ膨らませた。
「プッ。朝から賑やかなこったな。」
後ろを振り返るとメセーナさんが笑っていた。
「あっ、おはようございます。昨日はありがとうございました。」
「おはよう。調度君達の姿が見えたんで来てみたんだよ。
これから千日の塔へ行くんだろ?帰ってきたら声をかけてくれるかい?
いつも君達が帰ってくるのは5時位と思うから、その時間は空けておくよ。」
「戻ったらメセーナさんをお呼びしますね。」
「それじゃ夕方。気を付けて、行ってらっしゃい。」
メセーナさんは右手を上げつつギルドへ戻り
俺達は8人で千日の塔へ向けて出発した。
夕方5時前にカサーナへ戻ってきて、ギルドへ向かった。
塔の中はそれぞれの行動となるため今までと変わりは無かったが、
往復の道中は大きく変わった。
今までも帰りに一緒したときもそうだったが、シンズさんのマシンガントークは止まらず、
冒険者の心得から始まり、カサーナの歴史というか出来事、
そしてシンズさんの武勇伝とほとんどシンズさんが話しており、
シンズラジオを聞きながら行き来した感じだった。
カサーナでの出来事は聞いていて面白かったので、別に構わないのだが。。。
ギルドの中に入り受付の人にメセーナさんと約束していることを伝えると、
すぐに向かうので、別室で待ってるよう案内された。
「お待たせ。今日はわざわざ来てもらって悪いね。」
「昨日は、ありがとうございました。」
メセーナさんが部屋に入ってきたので、俺達は一度席を立ちお礼た。
「いやいや、こちらこそ迷惑を掛けたね。
本来であればギルドの方でもっときっちりすべきなのに、すまなかった。
それで、奴らのアジトにあった物なんだが、所有者の分かるものについては返却し、
残りは一旦ギルドで預からせてもらい、
最終的に残ったものは必要経費を差し引かせてもらった上で、半分は君達に渡す予定だ。」
「あの必要経費とは何なんでしょう?」
「今回応援に行った人達への報酬や事務的な費用といったものが主だな。
それで、応援に参加した人たちへなんだが、1人500ゼニーとしたいんだが、どうだろうか?
30人近くが行ったからそれなりの額になってしまうが、大体妥当だと思うぞ。」
「その辺のことは良く分からないので、メセーナさんにお任せしますよ。」
「任せておいてくれ。それから君達にはカサーナの治安維持に貢献したということでギルドから
報奨金として1人1000ゼニーを支給することに決まったから、後で受け取っておいてくれ。」
「ありがとうございます。受付で言えば大丈夫ですかね?」
「ギルドカードを出せば手続きしてくれるよう手配してあるよ。」
「あの、私からも1つお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?」
メセーナさんが受け取り方法を教えてくれた後、申し訳なさそうにアビナが手を上げた。
「なんだい、アビナちゃん。」
「今回捕らえられた人たちはどうなるんでしょうか?
逆恨みとかされませんよね、ちょっと怖いというか。。。」
「なるほど、アビナちゃんの気持ちは良く分かるよ。
今回捕らえた冒険者はギルドカードの剥奪して、カサーナの役所へ引き渡したよ。
犯罪行為と言えども、悪いがギルドとしてはこれが限度なんだよ。
あとは役所のほうできちんと罰を下して、暫くは外には出れないと思うよ。
その後、可能性は0ではないけど、もし逆恨みで変なことをしたら即コレだよ。」
メセーナさんは親指で自分の首を切る動作をした。
「なら大丈夫なのかな。。。」
アビナは不安気にカスミを見たが、「う~ん」と唸ってあまり納得はしていなかった。
「罪を償った後も暫くは監視が付くだろうし、
開示できる情報はなるべく伝えるようにするよ。」
「わしらも居るし大丈夫じゃろ。」
「うん、わかった。ありがとう。」
「他は大丈夫かな?」
アビナとカスミが納得してくれたところで、メセーナさんが他に聞きたいことはないか確認したので、
俺はメンバーの方を一度確認して「大丈夫そうです。」と答えた。
「今後も何か進展があったら情報共有するよ。また何か困ったことがあれば相談してくれ。
これからも気をつけて頑張ってくれ、期待してるぞ。」
メセーナさんはドアを開け、俺達の退出を促すよう手をかざしたので、
一礼して受付へ行きパワルド以外は報奨金を受け取った。
今回の件に関わっていないパワルドは少しうらやましそうに報奨金を見ていたが、
取り敢えず1段落した。
お前は参加してないんだから、しょうがないよな。
【11月24日】
スパイティフの件から1週間ほど経ち、千日の塔でのレベル上げもそれぞれ順調で、
俺は召喚獣たちと共に19層で通路にいるモンスターや小部屋に潜んでいるモンスターを
倒しながら進んでいた。
塔に入って2時間ほど経過し通路の一番奥の突当たりにある部屋を覗き込んだとき、
ついに俺にもコレと遭遇することになってしまった。