VS スパイティフ ~ メセーナさんはリッジスターとウォウヴェンハットを連れて賊のアジトへ ~
矢の飛んできた方向を見ると、シンズさんが木に隠れながら弓を構えていて、
道を挟んで反対側にはニイタツとセイヤンがいた。
シンズさんが放った矢は賊の背中に命中して1人が戦線離脱し、
3人が狼狽えている隙に1人を殴り倒した。
「助太刀いたすぞ。なおと殿は、前方の3人を助けてやってくだされ。」
シンズさんは弓から剣に装備を変えて賊に切りかかり、
ニイタツとセイヤンも別の賊へ攻撃を仕掛けた。
「すいません、よろしくです。」
防戦一方で最も劣勢になっているアビナに加勢した。
飛び蹴りを賊の横っ腹に噛ますと、5メーターほど飛んで意識を奪った。
思い切り蹴ったわけではないんだけど、ま、いっか。
アビナはすぐに弓を装備し、カスミが相手をしている賊の太ももに矢を命中させ、
賊が怯んだ隙に、カスミは賊の腹に剣を突き刺し倒した。
始めに俺達に話しかけてきた男はニャルマーが相手をしていたのだが、
既に血を流しながら倒れていた。
全ての賊を倒し、シンズさんが俺達の方へやって来た。
「ゲートを出た時、偶然あんた方が柄の悪そうな男達に囲まれながら歩っていく姿が見えてな。
これはもしやと思い後をつけてきたんじゃが、危うく丸焦げにされるところじゃったわい。」
「あ、すいません。後ろに人がいるとは思わなかったんで。。。」
「気にするでない。わし等も気付かれんよう距離をとって歩ってたんだから仕方がないじゃろて。
ギルドへメッセージを送ってあるから、10分か15分で応援がくるじゃろうし、
ここで少し待機してるかの。」
シンズさんは少し手前にあった大きな石の上に座ったので、俺たちもシンズさんの近くまで行った。
「前から誰か来る!」
ニャルマーの発した言葉に、全員戦闘態勢を取った。
「騒々しいと思って来てみれば、お前らぜってー許さねぇぞ。」
190cm位で少しぽっちゃりした男が4人の手下と共に現れた。
「お頭、すいません。」
俺が横っ腹に蹴りを入れてダウンしていた男が四つん這いになりながら起き上がった。
「回復薬だ、使え。」
お頭と呼ばれたその男は回復薬を3つ男に投げ渡し、俺たちに邪魔されないよう少し前に出た。
受け取った1つを自分に使い、残りを近くにいた2人に使った。
俺達の近くで倒れている4人は回復させられなかったが、
前にいた3人は動けるまでに回復してしまった。
「おやおや、誰かと思えばスパイティフじゃないか。」
シンズさんは立ち上がり、俺達の前に出た。
「シンズのジジイじゃねぇか。まだ死んでなかったとはな。」
「まさかお主だったのはのう。真面目にやっていれば立派な冒険者になれただろうに、残念じゃ。」
「てめぇの御託は聞き飽きたんだよ。」
スパイティフが剣を抜くと、シンズさんも剣を抜いた。
スパイティフと共に来た4人と先ほど回復した3人が、
ポキポキと拳を鳴らしながらこちらに向かってきた。
特に回復薬で復帰した3人は、体力が完全に戻っていないにも係わらずいきり立っている。
「フレイムウェイブ!」
先制攻撃で範囲火炎魔法を唱えたが、既に1度見ている3人が盾を構えると、
後から来た4人もそれを倣い盾でガードしてしまい、あまりダメージを与えられなかった。
だが、俺の呪文を皮切りに、ニャルマーが飛び出し、見たことのある後姿の女と
知らない男2人が賊に攻撃を仕掛けた。
よく見ると女の人はメセーナさんだった。
メセーナさん達はいきり立っていた3人を撃破すると、
後から来た4人もニャルマーを加えた4人で各個撃破した。
そしてシンズさんはスパイティフの剣を弾き落とし、勝負が着いた。
「こいつらを捕まえろ。」
メセーナさんは、連れてきた2人に命令を下した。
「メセーナさん、お久しぶりです。助かりました。」
「全員無事で何よりだ。」
「カサーナから来てくれたんですか?」
「いや、今日はポスリメンの調査に行って、その帰りで近くにいたのさ。
シンメイさんからメッセージが届いたときは焦ったよ。
カサーナからの応援も来るはずだが、あと10分は掛かるかもな。
まぁ、あとはこちらに任せて、安心してくれ。」
メセーナさんは俺達を労うと、捕らえた12人を1箇所にまとめた。
「しっかり余罪を追及するからな。」
スパイティフの髪をつかみ、睨みつけながら言い放った。
しばらく待っていると英傑の乙女戦士やポスリメン討伐のときに会った事のある人たち
総勢30名位が到着した。
「リッジスターとウォウヴェンハットのパーティーは、私達と一緒に奥まで一緒に来てくれるか。
乙女戦士達はシンズさんたちの護衛、残った人たちでスパイティフ以外の
捕らえたこいつらをカサーナまで連行してくれ。」
カサーナから来た応援に対し、メセーナさんはすぐさま指示を出した。
リッジスターとウォウヴェンハットはカサーナでは上位のパーティーらしく、
スパイティフと共に奥へ調査に行くことになり、
俺達は英傑の乙女戦士のパーティーに守られながらカサーナに戻ることになった。
戻る道中シンズさんはずっとニヤニヤしており、
カスミとアビナは「あれが無ければなぁ」と嘆いていた。
まぁ男ならああなるって。俺もニャルマーからの視線が痛い。
パワルドは、カサーナの北門を世話しなくウロウロしていたが、
戻ってきた俺達に気付き「お~い」と手を振りながら近づいてきた。
「俺の所に情報が来たときには既に応援隊が出発した後で、ギルドから一人で出るなと
注意を受けて、心配でずっとここで待ってたんだ。行けなくてすまん。」
パワルドは深々と頭を下げた。
「別に仕方がないから、応援にこれなかったことは気にするなよ。
ただ、賊はパワルドがいないことを知ってて俺達を襲ってきたぞ。
お前がいれば確実に襲われなかったとは言いきれないけど、無茶をした結果とも言えないか?」
カサーナで待っている間、自問自答していたことを言われ、黙って下を向いてしまった。
「まぁまぁ、そうパワルド君にきつく当りなさんな。
わしも思う事はあるが、もう十分彼も反省してるじゃろうて。な。」
シンズさんは軽くパワルドの肩を2回ポンポンと叩いた。
「シンズさん達にもご迷惑をかけて、すいません。」
「まぁ良い教訓にすることじゃな。そうじゃ、折角だしこれからは一緒に往復せんかの?
もしわしら3人が襲われていたとしたら、やはり厳しかったと思うしの。どうじゃ?」
俺は悪くない提案だと思い受け入れようとしたとき、
それを聞いていたニイタツが物凄い剣幕でシンズさんに突っかかった。
「何で俺達が獣人なんかと一緒に行かなきゃなんないんだよ!」
「はぁ、お前という奴は。わしはこの方々と一緒に行くから、お前は別行動したらええ。
セイヤン、お前はどうするんじゃ?」
「俺は別に誰と一緒だろうと構わないんで、師匠に付いて行ければと。」
「それじゃ、ニイタツだけ別行動じゃの。賊には気をつけるんじゃぞ。」
「何だよ、俺だけ仲間はずれかよ。分かったよ、俺も一緒に行くよ。」
ニイタツは口を尖らせて不貞腐れながら言い放った。
「はぁ。」
シンズさんはやれやれという表情で大きく溜息を付いた。
カサーナの街の中に入り、ギルドへ賊の引渡しと報告に行った。
中に入るとシンメイさんが駆け寄ってきて、カスミとアビナを抱き寄せた。
「ほんと、無事で良かったわ。」
シンメイさんに強くギュッとされて苦しそうにしている二人を他所に、ギルドへのお礼を伝えた。
「この度は、ギルドからの応援ありがとうございました。お陰で助かりました。」
シンメイさんに一礼した後、英傑の乙女戦士たちや賊を連れてきてくれたパーティーにも一礼した。
「ええよ、気にせんで。」
「困った時はお互い様だろ。」
「俺達ただ賊を連れてきただけだし。」
応援に来てくれたパーティーの人たちはとても優しかった。
「ところで、メセーナさんがいないみたいですけど。。。」
シンメイさんは途中で合流しているはずのメセーナさんがいないことに気付いた。
「リッジスターとウォウヴェンハットの人たちを連れて、賊のアジトへ向かいましたよ。」
「はぁ、良くも悪くも彼女は逞しくて好奇心が旺盛だから困ったもんだわ。
メセーナさん達なら遅れを取ることは無いから心配はないけど。
取り敢えず、後は私達に任せて大丈夫だから安心して今日はゆっくり休みなさいな。」
メセーナさんの事を呆れつつも、俺達を気遣ってくれた。
そして、後日メセーナさんから今回のことについて相談を受けるのであった。




