パワルド抜きの千日の塔 ~ 火炎系範囲魔法 フレイムウェイブ ~
「22層で始めてブリーディングエリアに遭遇したぜ。」
俺が慌てて駆け寄ると、パワルドは上体を少し起こし痛そうにニヤリとした。
「それで、どうしたんだよ?」
「勿論全部倒してやったぜ。けど、もう手に力が全然入らねぇや。」
回復薬でHPは回復しても肉体疲労や筋肉の損傷まで回復はできず、
手を広げたり握ったりして感覚を確かめていた。
「以前話した時に、逃げるように言ったよな。全く無茶しやがって。」
「そうだったけか、ははは。俺にとっては有意義な時間だったぞ。
まぁ、次からは気を付けるよ。」
「はぁ。」
全く反省してないパワルドを見て、大きく溜息をついてしまった。
調度その時、ニャルマーが塔から出てきて走って来た。
「パワっちどうしたの、大丈夫?」
「上半身はガタガタだけど、カサーナまではちゃんと自力で帰れるよ。」
パワルドは壁に手を付きながら、ゆっくり立ち上がった。
「ブリージングエリアで大暴れしたらしいよ。」
「え、何やってんの、前に危険だって教えたでしょ!」
俺が教えてあげると、ニャルマーは愕然としていた。
「大変だったけど、結構楽しかったぜ。今は手に力が入んないけどな。」
「全然反省してないよね。」
「ニャルマー、俺もそう思うよ。」
「まぁまぁ、良いじゃねぇか、やられてないんだし。それよりも早く帰ろうぜ。」
メンバーからの口撃に耐え切れず、そそくさと出口のゲートに向かってしまった。
パワルドを気遣いながらいつもよりゆっくりしたペースで、
情報共有しながらカサーナへ戻った。
《千日の塔 進捗》
なおと:17層
パワルド:22層
ニャルマー:18層
カスミ:15層
アビナ:14層
【11月15日】
8時前に集合場所になっているギルドの前に行くと、既にみんな待っていた。
「おはよう。今日のパワルドは随分ラフな格好だね。」
「兄貴、すまねぇ。まだ手に力が入らねぇから、
悪いけど今日はゆっくりさせてもらうよ。」
「まぁ無理はしない方が良いよ。だけど、少しは反省してろよ。」
「ああ、まさか翌日まで影響出るとは思ってなかったし、もう反省してるよ。」
今日は昨日と違って、反省している様子が感じられ、調度いい謹慎になったようだ。
「それじゃ、パワルド抜きで行きますか!」
「くれぐれもブリージングエリアには気を付けるんだぞ。いってらっしゃい!」
「はぁ、お前には言われたくねぇよ、まったく。それじゃ、行ってくるな。」
パワルドに見送られ4人で千日の塔へ向かった。
昨日と同じ17層でレベリングを行い、夕方の集合時間に間に合うよう塔の外へ出た。
カスミとアビナが既に待っており、シンズさん達と話をしていた。
カスミ達の所に行く途中で、ニャルマーも戻ってきて合流した。
シンズさん達に挨拶をすると、呆れた顔で俺達に話してきた。
「パワルド君の事、カスミから聞いたぞ。危険だとずっと言ってたのに困ったもんじゃ。
今回は大事に至らなかったから良かったものの、年長者の言うことは聞くべきじゃ。」
「すいません、折角のアドバイスを無駄にしてしまって。」
「いやいや、お主が申し訳なく思おう必要はないそ。この中でのことは自己責任じゃからな。
まぁこれで他のメンバーへの良い教訓になっただろう。それじゃ、カサーナへ戻るかの。」
塔のゲートを出て、シンズさん達と共にカサーナへ帰った。
シンズさんは話が好きらしく、いつも一緒になるとマシンガントークを聞いている。
有益な情報を教えてくれるので、ありがたくはあるが。。。
【11月16日】
「おはよう。パワルド、まだだめそう?」
みんな集まっていたが、パワルドは今日もラフな格好だった。
「もうかなり良くなったけど、今日は大事を取ってゆっくるすることにしたよ。」
「まぁ、体を休めることも重要なことだから良いんじゃないか。」
「明日から俺も千日の塔へ行くよ。
あんまりゆっくりしてると皆に追い抜かれちゃうしな。」
「一人だけ20層より先に行ってるくせに。暫くは追いつけないだろうから、
折角だから今日までと言わずもっとゆっくりすれば?」
「体が鈍っちまうから、明日から絶対行くよ。
ほら、時間が勿体ないしそろそろ行った方がいいんじゃないか?」
パワルドの見た先には、早く行きたそうな顔をしている3人がいた。
「ああ、そろそろ行ってくるわ。」
「気を付けてな。」
昨日と同様に、パワルドに見送られ千日の塔へと行き、
17層で引き続きレベリングをした。
召喚獣たちの動きを見ていると18層でも問題は無いとが、
リスクを避けて未だに17層にいた。
集合時間が近づき、明日から18層に行ってみようかなと思いながら、
普段より若干早く塔の外へと出た。
既にニャルマー達も塔から出てきていたので、ゲートを抜けて外へ出た。
レディーファーストを意識した訳ではないが、カスミ、アビナ、
ニャルマーが出て、最後に俺が出た。
そしてそのまま、いつものようにカサーナに向けて歩き始めたら、
前から柄の悪そうな人たちが近づいてきた。
「今日はお前さん方のパーティは4人なんだろ。ちょっと、こっち来いや。」
リーダーっぽい男がすれ違いに、カサーナとは逆の方を指差した。
俺達は来た道を戻り、ゲートの前を通り過ぎ、更に奥へと連れられていかれた。
俺の左にはニャルマー、後ろにカスミとアビナといった2列で、
前にはリーダーぽい男を含めて3人、そして後ろには4人が
俺達が逃げないよう監視しながら進んでいる。
後ろの二人は「どうしよう。。。」と小さく震えながら付いてきており、
ニャルマーも諦めた様に下を向きながら歩いていた。
「俺が後ろを相手するから、3人で前の奴らを相手してくれないか?」
道幅が狭くなったところで、誰も聞こえないように小さな声でつぶやいた。
ニャルマーを見ると頷き返してくれた。
獣人3人には聞こえており、カスミとアビナも俺には聞こえなかったが「了解」と答えていた。
俺は振り返りながら、最近魔法スキルが50になった時に覚えた火炎系の範囲攻撃魔法を唱えた。
「フレイムウェイブ!」
盾でガードされることなくダメージを与えることができた。
だが、すぐに全員盾を構えながら反撃を仕掛けてきた。
そして、俺が振り返ったタイミングで前にいる3人へと攻撃したニャルマーたちも、
初手こそ大きくダメージを与えることができたが、次第に押され始めてきていた。
接近戦に備え精霊苺の爪を装備し構えを取った時、後方より矢が飛んできた。