辺竹凛(へんちくりん)の匂いを追え ~ 犬獣人ラブラダルさんの嗅覚力、そしてお散歩タイム ~
「モブスタ達は俺達の前に来る直前まで辺竹と一緒にいたようなんです。
実際に見た訳ではないんですが、詳しくはニャルマーからいいかい。」
「モブスタ達と分かれた別の方の人が『凛様こちらへ』って言ってて、
ラーセニーにカマをかけたら図星だったみたいなんだよね。」
「なるほど、凛様とは彼らが辺竹を呼ぶときの言い方だから間違えないだろうね。
それでどっちの方向へ行ったかは分かるかい?」
「私達を避けるように北東の方へ行ったと思うけど、そこから先は。。。」
ニュルマーの認識通り、俺もディテクトで北東に行くのを確認している。
「なるほど、ありがとう。しかし拙いな、方角的に考えると既に逃げた可能性が高いな。
悪いが明日その場所まで案内してくれるかい?」
横を見るとパワルドが頷き返したので「分かりました。」と答えた。
「ありがとう、協力に感謝するよ。それで、この事は他の人に口外しないでくれ。
モブスタとラーセニーの討伐報酬については、カサーナに戻ってからシンメイさんと
相談して決めさせてくると助かる。」
「ええ、それで構いませんよ。」
「すまないねぇ。一応、討伐のログを確認したいからちょっと来てもらえるかい?」
部屋を出るのでニャルマーがカスミを抱えようとしたら、ようやく目が覚めた。
「メセーナさん俺達3人だけでも大丈夫ですか?」
「ああ構わないよ。だれかのカードだけ借りれば分かるから。」
「ニャルマーはカスミと一緒に待ってていいよ。」
メセーナさんに確認を取った上で、カスミの傍で待っててもらうことにした。
「ありがとう、それじゃここにいるね。」
受付の手前で俺のギルドカードを渡すと、メセーナさんは仮設で使用している自席でカードを
読み込み、ログを確認し戻ってきた。
「疑ってすまなかった、確かにログが残っていたよ。
それにしてもギルドに登録してそれ程経過してないのに随分苦労しているみたいだねぇ。」
「そうですね、いろいろと。。。」
どのようにログが残っているのか分からないが、きっと飛竜を2匹倒したことかなぁと思った。
俺たちがメセーナさんと立ち話をしていると、ニャルマーとカスミが部屋から出てこちらに
向かってきた。
「カスミ、もう大丈夫?」
「心配掛けてごめんね。もう一人で歩ける程度には大丈夫かな。」
アビナは心配そうな面持ちで、カスミはちょっと無理をしながら笑顔で答えた。
「今日は5人ともゆっくり休んでくれ。カスミとアビナは特にな。」
「は~い、そうします。ていうか、もう今日はむり~。」
メセーナさんの気遣いに、カスミがだるそうに答えた。
「メセーナさん、お話中すいませんが、ちょっといいでしょうか?」
受付の人が申し訳なさそうに割って入ってきた。
「それじゃ、明日よろしくな。」
メセーナさんは受付の人と話をしながらその場を離れ、その後、俺たちはゆっくり体を休めた。
【10月28日】
「メセーナさんはいらっしゃいますか?」
5人揃いギルドの受付の人に聞くと、「少々お待ちください。」と言って呼びに行った。
少し待っているとメセーナさんは30歳位の細身な犬獣人の男の人を一緒に連れてきた。
「待たせたな。今日同行してもらうラブラダルだ。」
「普段は事務方をしているラブラダルです。今日はよろしくお願いします。」
知的そうでありながら親しみやすさを感じるラブラダルさんは俺達に一礼した。
「カスミ、アビナそしてラブラダルの3人の嗅覚を頼りに、追える所まで行ってみようと思う。
それでは案内してくれ。」
7人で昨日通った道を辿り、メセーナさんはポスリメンがほとんどいないことに喜んでいた。
「昨日、モブスタに気付いたのは確かこの辺だったと思うんだけど。」
「ああ、ここで間違いねぇよ。」
横にいたパワルドが周辺を見回し、昨日自分がモブスタとやり合った方を見ていた。
「メセーナさん、俺が何かいると感じたのはあっちの方角からです。」
「よし、それじゃ行ってみようか。」
ここからはメセーナさんを先頭にして進んでいった。
「ここで道が2手に分かれているな。ラブラダル何か分かるか?」
「今通って来た残り香がモブスタ達の物であれば、左手の方から来てますね。
右手には行っておらず、他数名の匂いだけが残ってます。」
「ラブラダルさんの見解で間違えないよ。」
カスミはアビナと共に鼻を利かせていた。
「そうか、そうすると辺竹達は左から来て、ここでモブスタとラーセニーが君達の方へ向かい、
残りの者は右手の方に行ったということで間違えないな。」
ラブラダルさん、カスミ、アビナ3人とも頷いた。
「なら右手の方に進んでみよう。ラブラダル、追える所まで頼む。」
引き続きメセーナさんが先頭に立ち、その後ろにラブラダルさん、
そしてラブラダルさんを守る形で両サイドにカスミとアビナがおり、
最後尾に俺とパワルド、ニャルマーという隊列で進んだ。、
そして、道が分かれている所ではラブラダルさんが匂いを確認しながら進んだ。
「ラブラダル、ここはどっちだ?」
既に十数回このやり取りをしていて、毎度同じようにラブラダルさんは匂いのする方を指差し、
「こちらの道です。」と答えるのであった。
「そうか、もう時間がかなり経過してしまったからここまでにしよう。」
メセーナさんは指差された方向の先を見つめ、ため息を付いた後「バトマか。」と小さく呟いた。
来た道を戻り、夕方には宿営地に着いた。
1体もポスリメンを倒さず1日を潰してしまったが、メセーナさんの配慮でモブスタ討伐の報酬に
上乗せしてくれるとの事になった。
まぁ、良しとしよう。
【10月29日】
「黒も青も殲滅完了って感じだな。」
茶エリアを目指す道中、パワルドが言う通り全くポスリメンがいなかった。
「茶エリアもほとんどいないかもね。今日は一昨日とは逆に西の方へ行ってみようか。」
「そうしよう。いずれにせよ茶も殲滅する必要があるだろうから良いんじゃないか。」
「私達はサンハイトからの応援だし、無理して赤まで行く必要はないよね。」
最初は赤を目指したかったパワルドとニャルマーも賛成してくれた。
「僕達だと赤はきついけど、茶なら調度良いよ。」
俺から一番遠い位置にいるカスミも辺りを見ながら答えた。
移動時は俺とパワルドが前列で、左側にパワルドがいる。
後列はニャルマーが真ん中で、左がカスミ、右がアビナになっている。
戦闘時は俺の左側からパワルドとニャルマー、カスミが前衛として突撃し、
アビナが俺の右側に立つ。
右側に敵が現れたときは、俺が前へアビナが後ろへ1歩下がり、
その間をニャルマー、カスミ、パワルドの順で抜けていく。
変則的かもしれないが、意外としっくりきている。
「なんだか単なるお散歩タイムになっちゃってるよね。」
カスミの言うとおり、茶エリアでも数体倒した程度でほとんどポスリメンはいないので、
ただ歩っている時間のほうが長い。
「ほとんどの人が赤エリアに行ってるだろうから、赤もかなり減ってるんじゃないかな。」
「ニャルねぇちゃんの予想通りなら、そろそろ終わりだね。終わったらどうするの?」
「どうする?」
ニャルマーは俺の方を見てきた。
「まぁサンハイトに戻るか、この先へ行くかのいずれかだろうな。」
「なんで?」
パワルドはカサーナに留まる気はなかったようなので、その理由を聞いてみた。
「カサーナには申し訳ないが、いいレベリングの場所がないからな。」
「確かにそうだよな。」
パワルドの考えに納得したが、一瞬カスミの表情が曇ったように感じた。
「あ、ポスリメンだ!」
カスミがポスリメンを見つけると真っ先に攻撃を仕掛け、その後をニャルマーが攻撃を仕掛けた。
久々に現れたポスリメンもすぐに倒し、その後もお散歩タイムが続き、
少し早いが宿営地に戻ることにした。
宿営地に戻るとギルドのスタッフがそれぞれパーティーに話しかけていた。
「ゴドロンパーティーの5人、ちょっといいかい?」
「どうかしたんですか?」
目が合ったメセーナさんに呼び止められたので、俺が代表して答えた。