カサーナまでの旅 ~ 「チャビーゼン ⇒ サイポーク 」 そしてサマヤンティーとハームさんの温泉宿 ~
【10月9日】
目が覚めると、微妙にお尻と腰が痛かった。2日間馬車に揺られて、その振動が原因だと思う。
動けないわけではないので、我慢していくことにした。幸い今日はあまり距離がないらしい。
9時に出発し、11時半くらいに一旦休憩し、14時過ぎには次の町チャビーゼンに到着した。
「ここは、サマヤンティーの販売で有名だって聞いたなぁ。何か知ってる?」
「ここから南のサマヤンやルイマンの特産で、『味のサマヤン』って言われいて
味が濃くて甘みがあるんだよ。」
「へぇ~、ニャルマーは詳しいんだね。」
「まあ、よく飲んでるからね。あそこの大きな店に行ってみない?」
「そうだね。時間もたっぷりあるから行ってみよう。」
今朝よりも腰の症状は悪化していたが、周りを気にして普通に歩った。
店ではサマヤン茶を試飲させてくれて、味や見た目も日本茶だった。
久々に飲むお茶はおいしかったが、ここでは何も買わず、宿へいき暫く横になった。
【10月10日】
昨日は早めに横になったのだが、腰は相変わらず痛い。
今日は昨日と異なりちょっと長めの移動になるそうなので、憂鬱だ。
9時にチャビーゼンを出発し、お昼頃30分ほど休憩して16時前にサイポークへ着いたが、
もう俺の腰はそろそろ限界だ。
サイポークの少し先にあるコアゼン川を越えるとゴエアール地方になる。
「何か香ばしいにおいがするね。」
馬車から降りると肉を焼いている香ばしいにおいがした。
「兄貴、向こうに行ってみようぜ。」
パワルドはそそくさとにおいのする方へと行ってしまい、
ニャルマーが追いかけて行ってしまった。
俺はゆっくり腰を庇いながら歩いて向かうと、既に二人はいろいろ物色を始めていた。
フランクフルトやスペアリブを焼いて提供してる出店があったので
俺もいろいろ買って食べ、宿へと向かった。
「ようこそ当宿へ。オーナーのハームと申します。さ、こちらへどうぞ。」
受付を終えた俺達をハームさんが部屋まで案内してくれた。
「右手に行きますと当宿には温泉と岩盤欲の施設がございます。
「疲労回復や冷え性、関節痛といった効能がありますので、旅の疲れの癒しにどうぞ。」
通路のT字路でハームさんが右手を向けて説明してくれた後、
左に曲がったハームさんの後を付いて行った。
「人と獣人のパーティーとは珍しいですね。実はうちの妻も獣人でして、
こういったパーティーを嬉しくなるものです。」
ハームさんは俺達のパーティーを気に入ってくれたみたいだった。
それぞれの部屋に案内され、先ほど疲労回復といった効能があると聞いた温泉に行ってみた。
既に4日間馬車に揺られ体のあちこちが痛いので、少しでも楽になればいいなと思いながら
浸かっているとパワルドが隣にやって来た。
「兄貴は相当腰に来てるんじゃないか。」
「やっぱり分かる?実は昨日から相当痛いんだよね。」
「道が整備されているとはいえ、どうしても微妙な振動があるからしょうがねぇよな。
まぁ兄貴ほどじゃないけど、俺も実はちょっと腰が痛いんだよなぁ。」
「そっか、俺だけじゃなかったんだね。きっとニャルマーもどこかしら来てるかもね。
明日にはカサーナに着くから、何とかあと1日持たせたいなぁ。」
「カサーナか。どんな状況なんだろうな、応援が必要って。」
「現地に着いたらまずは情報収集だね。ポスリメンってのが嫌な予感しかしないけど。」
「精霊祭でレベルも上がったし、この間魔法スキルも上がったから腕がなるぜぇ。」
他の人のステータスは教えてもらわないと分からないが、パワルドは自信に漲っていた。
風呂から出て冷たい水を貰ってロビーで寛いでいると、ハームさんが俺達のところに来た。
「当宿自慢の温泉はいかかでしたかな?」
「とてもいい温泉でした。疲れも癒されましたよ。」
「それは良かったです。ところで、これからゴエアール方面に向かわれるのですかな?」
「ええ、カサーナまで行く予定です。」
「カサーナですか。ギルドもあって良いところではあるのですが、、、
もう既にご存知だとは思いますが、最近物騒な事件が起こっているそうですよ。
一晩で一家が神隠しのようにまるっと突然居なくなってしまうらしいです。
それでも、最近ギルドがその犯人達のアジトを掴んだらしいんです。」
ハームさんの声が途中から小声になり、俺達にしか聞こえないようにカサーナの状況を
教えてくれた。
「そんな状況なんですね。教えて頂きありがとうございます。」
「噂話程度に思っていてください。私もここに泊まる人から聞いた話なんで。」
ハームさんは「それではまた。」と去っていき、別の客に声をかけていた。
「ポスリメン達のアジトが分かり、これから一戦ある感じだな。」
「あぁそんな感じかもね。明日ニャルマーにも教えておこう。」
ハームさんが別の人と話をしている後姿を見ながら、それぞれの自室へと戻った。
【10月11日】
腰の調子は昨日の朝と同じ感じで、温泉の効能のお陰か昨晩よりは良かった。
まだ出発まで時間があるので、もう一度温泉に浸かってくることにした。
パワルドが先に来て既に温泉に浸かっており、その横に座った。
「やあ、早いね。」
「兄貴は腰の調子はどうだい?」
「少し良くなったけど、折角だからもう一回浸かっとこうかと。パワルドはどうなの?」
「俺も少し良くなった感じだけど、あと今日一日の辛抱だしな。」
パワルドも表には出さないが、実際は結構我慢してるんだなと思った。
9時少し前に馬車の待合場所に集まり、ニャルマーに昨日ハームさんから聞いたことを共有した。
「なるほど、それでこのタイミングで応援が欲しい訳ね。
ポスリメンがどの程度の規模で、どの位の強いのか、いろいろギルドは把握しているかな。」
「今日ギルドに着いたらギルドマスターのシンメイさんにエディクスさんからの
届け物を渡す際に聞いてみよう。
それから、ニャルマーは腰とか大丈夫?」
「特になんでもないよ。少しだけ馬車の振動で肩と首が痛いくらいかな。
あ、もう乗る時間みたいだよ。」
ニャルマーが馬車に乗り込み、パワルドが俺の横を通りながら、
「俺達だけかもな。」と俺の肩を軽く叩き乗り込んだ。
俺もゆっくり腰を庇うように乗り込んだ。
2時間ほど進みコアゼン川の手前で30分ほど休憩を取り、川を越えゴエアール地方へと入った。
次回からゴエアール地方編になります。
毎週水曜日にアップ予定です。