ヒワディーア山 管理事務所 ~ カツアゲ注意!知らない人について行ってはいけません。 ~
ヒワディーア山の近くまで行き、左側を気にしながら歩っていると細い道があった。
「多分これだと思うんだよなぁ。左に抜ける道って。でも標識なんて無いよなぁ。」
3人で辺りを見回した。
「あ、あれじゃない。」
ニャルマーの指差す方を見ると、茂みに隠れ「ヒワディーア山管理事務所 入り口」と
書かれた小さな縦看板があった。
「こんなん気付くかい!」「こんなん気付くかい!」
俺とパワルドの声がハモった。
「それじゃ、クリッピノさんの事務所に行ってくるわ。二人はクリビオー討伐頑張って。」
俺は手を上げながら、左の細い道に進んだ。
少し進むと木々に囲まれた平屋の大きな家が見え、その前まで進むと
「ヒワディーア山 管理事務所」と書かれた表札が出ていた。
ただ見た目は普通の民家だ。
玄関の前にインターホンがあったので、押してみた。
「はい、ヒワディーア山 管理事務所です。」
男の人の声がインターホンから返ってきた。
「ギルドで冒険者をしているなおとと言うものですが、ギルドマスターの
エディクスさんにクリッピノさんが来て欲しいと仰られてたとお聞きしてきました。」
言い終わると「カチャ」と玄関の鍵が開く音がした。
「話は聞いております。中へどうぞ。」
玄関のドアを開け中に入ると、奥からクリッピノさんが歩って来た。
「昨日は大変ご迷惑をおかけしましたの。とりあえず、中へどうぞなの。」
クリッピノさんは応接間に案内してくれた。
「ここに腰掛けて少しだけ待ってて欲しいの。」
俺は勧められたソファーに座り5分位待った。
「お待ちどう様なの。」
クリッピノさんは50cm四方の厚紙を持って応接室に入ってきた。
テーブルの上に置いたその紙には、複雑な模様が書かれていた。
その厚紙の模様の上に、前に貰ったのとは違うタイプのお守りを置き
ブツブツと唱え始め、時折お守りが光ったりしていた。
何をやっているか良く分からないが、しばらく黙って見ていた。
「このお守りの上に手を触れて魔力を流して欲しいの。」
「構わないけど、これって何をやってるの?」
「これはなおとさん専用の特別なお守りを作ってるの。
効果は出来上がってからのお楽しみなの。」
「そうなんだ、ありがとう。特別なお守りなんて貰っちゃっていいのかな。」
俺はクリッピノさんのやってることが分かり、お守りの上に手を載せた。
「最初から最後までずっと助けてもらってたからいいの。ただ、このお守りの件は
口外して欲しくないの。そのままウインドカッターを唱えるように魔力を手に集中して欲しいの。」
「誰にも言わないようにするよ。また取られちゃったら嫌だし。」
「大丈夫なの、なおとさん以外には効果が無いようにするから、取られる心配はないの。」
言われた通りウインドカッターを唱えるイメージで手に魔力を流してみた。
すると、お守りから一瞬淡く光った。
「はい。OKなの。」
俺はお守りから手を離すと、クリッピノさんは厚紙の模様に何か追加で書き始め、
時折手を載せて何かを唱え、そうするとお守りが光る現象を繰り返していた。
「クリッピノさん、仕掛中悪いんだけど、あとどれくらい掛かる?」
10分くらい経っても終わりそうも無かったので聞いてみた。
「うんと、あと2、3時間位掛かるの。」
「えっと、俺必要かな?」
「もう居なくても大丈夫なの。」
「それじゃ、明日もう一回来てもいいかな?」
「全然問題ないの。」
「じゃあ、今日はお暇するね。」
「分かったの。また明日なの。」
あとどれくらい掛かるか聞いてよかったと思いながら、クリッピノさんの邪魔にならないよう
そっと事務所を出てコマアールのダンジョンに行き、その後は熊太郎達のレベル上げを行った。
【10月2日】
また今日もクリッピノさんのところまで行かなきゃなと思いながら
ギルドに向かっていると4人組の男に囲まれてしまった。
「ちょっと時間いいかな。」
リーダー格の男が親指を路地の方へ向けていたので、「構わんよ。」と後についていった。
男達4人は一昨日クリッピノさんの所で揉めていたパーティだった。
カツアゲでもされるんか、4人相手でもおそらく問題ないだろうけどさ。
などと思いながら付いていくと人気のないところで、立ち止まった。
「この間はあんたのお守りを奪うような形になっちゃって悪かったな。
それでま、ウチラだけおいしい思いをしてもなんだからさ。それでこれはお詫びのあれだ。」
男達は紙袋を俺に押し付けるように渡すと、その場から足早に去っていった。
紙袋にはMP回復薬が10個入っていた。
お守りを返す気は無いのだろうが、彼らなりの誠意なんだろう。
アイテムボックスに仕舞い、来た路地を戻りギルドへ再び向かった。
パワルドとニャルマーがギルドの前にいたので、「おはよう」と声をかけた。
「受付は?」
「もう済ませてるけど、兄貴はどうすんだい?」
「今日もクリッピノさんの所に行って、その後はダンジョンかな。今日も依頼は受けないよ。」
「そっか。それじゃ、行きますか。」
クリビオーの現状を聞きながら、ヒワディーア山に向けて歩き始めた。
「クリビオーはどんな感じ?」
「少し減ってると思うけど、まだまだ沢山居るよね。」
ニャルマーは同意を求めるようにパワルドを見た。
「ああ確かにな。冒険者の数も増えて入り口付近はかなり減ってきたけど、
まだまだ奥のほうは沢山居るよ。
それと、入り口付近でマンシャゲの花で商売してるやつもいたな。買取と販売をしてたよ。」
「そうそう。だからお守りを持って無くても依頼を受けて、クリビオーを弓で倒しながら、
マンシャゲの花を買い取ってもらってる人たちも結構いるよね。」
「面白いことを考える人もいるんだね。
その様子なら、5日までには奥のほうも減って来るだろうね。」
クリッピノさんには迷惑を掛けられっぱなしだけど、クビを回避できそうで良かった。
「ナナさんや俺から受け取った分で、もし余りそうなら売っちゃえば。5日過ぎたら意味ないし。」
「いや勿体無いから、俺は徹夜してでも全部使いきる。」
「夜のヒワディーア山て危なくないの?」
「う~ん、じゃ明日から夜明けと同時にやって全部使い切る。」
最初は魔法スキルに興味なかったパワルドを、ここまでやる気にさせるマンシャゲの花、恐るべし。
「あたしも早出しようかな。。。」
「二人とも無理すんなよ。こっちで何か有ったら連絡から。」
5日に中和剤が撒かれるまで、別行動することになった。
ヒワディーア山入り口の少し手前で、二人と分かれた。
管理事務所のインターホンを鳴らすと、昨日と同じ男の人が返事をしてくれた。
「はい、ヒワディーア山 管理事務所です。」
「昨日も伺った、ギルドのなおとですけど。」
「今鍵を開けましたので、昨日の応接室へどうぞ。」
中に入ると自動的に鍵が閉まり、表情が晴れないクリッピノさんが奥から歩ってきた。
嫌な予感しかしない。。。
次回、クリッピノさんの浮かない理由が。。。
来週水曜日にアップ予定です。