豪華粗品 ~ 『新訂版・魔素学』の本とシーミュラのタクト(試作品⑧) ~
「私の教えたスキルが役立っているようで何より。
そんな君には『新訂版・魔素学』と、
豪華粗品をプレゼントしよう。
これからの更なる頑張りに期待してるぞ。
では、いずれ会う時まで。 シーミュラ
って、豪華粗品って何だよ。」
「教授が仰られた内容に間違えありません。
本当に読むことが可能だったんですね。」
エスセティは驚きながら俺の顔を見てきた。
「まぁ、達筆ではあるけど。。。」
「私共には線がグルグルと書かれているだけにしか
見えないのですが。」
「いやいや、流石にそれは失礼なんじゃ。」
「いえ、違うんです。
ある程度召喚レベルが高くないと、
そこに書かれている文字が読めない仕掛けを施していると
仰られてたんです。」
「へぇ~、そうなの。」
横にして見たり、透かして見たりしたがよく分からない。
彼女の方に文面を見せても、読めないと首を横に振る。
そして、断りを入れて一旦席を外すと1冊の分厚い本と、
やけに長めの箱を持ってきた。
メッセージに書かれていた『新訂版・魔素学』という本と、
教授曰く豪華粗品だろう。
この際、豪華なんだか、粗品なんだかはもういい。
ありがたく頂戴した。
『新訂版・魔素学』は装飾が施されたハードカバーの本だ。
手に取りパラパラと捲ってみた。
ごめん、教授、、、読む気起きない。。。
もう1つの箱を開けると
細かい紋様が施されたタクトが入っていた。
早速装備してみた。
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シーミュラのタクト(試作品⑧)
【効果①】モンスターのテイム率を80%高める
【効果②】召喚モンスターの基礎ステータスを8%UP
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【効果①】は一見効果がありそうだが、実はあまりない。
例えばテイム率が1%だった時、81%になる訳ではなく、
1.8%になるだけだ。
そもそも、テイム率が1%あるかも微妙な訳で。。。
【効果②】は装備品によるステータス上昇分には効果は無いものの、
ステータス全てに効果があるので有れはかなり強いと思う。
試作品となっているということは、
まだまだ改良されていくのだろう。
シーミュラ教授には会えなかったが、
思わぬ贈り物を得た俺はデパート内をぶらついた。
そして小腹が空いたので、例の串焼き屋を訪れた。
串焼きを食べていると、松山桃香に出会ったあの小道が目に入った。
「行ってみるか。」
串焼きを食べ終え、例の小道を進んだ。
木々に覆われ、先程より涼しい。
「確かこの辺、ここで間違いなさそうだ。」
マンシャゲの華を拾った場所に立つ。
彼女が座っていた奥は木々が鬱蒼と茂っている。
少なくとも俺はこの茂みの中に入りたいとは思わない。
本当に彼女は実在して、ここから消えたのだろうか。
そんな事を思いながら、ラップトップPCの
電源コードをぶっ刺していた地面を足で擦る。
勿論コンセントらしき物など存在しない。
数歩進んで、小道へと戻った。
「この先は、、、」
まだ通った事の無い道を進んだ。
暫し進むと平屋の一軒家があった。
その縁側でお茶を飲みながら、
家庭菜園を見ている狐獣人のお婆さんがいた。
「おや珍しい。お前さんこっちに来てミンベ。」
そっとその場を去ろうとすると、
お婆さんと視線が合い手招きされた。
「すいません、どうやら道を間違えたようで。。。」
頭を掻きながら踵を返した。
「間違ってここに来ることは出来ん、
というか、ここへは普通来ることは出来ねぇミンベ。
ま、お前さんも茶を飲んでミンベ。」
「普通は来ることができない?」
では何故今俺はここにいるのだろう?
「そんな難しい顔しとらんで、
気になるならオラ教えてミンベ。」
語尾に『ミンベ』と付けるお婆さん、
俺の中ではミンベ婆さんと呼ばせてもらうが、
促されるままにお茶を頂くことにした。
「お前さんが入ってきた入口には認識阻害が掛けられてミンベ。」
「認識阻害?でもはっきりと見えてたけど。」
「んじゃあ、何かに導かれたミンベ?」
「導いた?」
ミンベ婆さんに聞き返す。
「そんなん聞かれても知らねぇミンベ。」
「ですよねぇ。。。
あ、そういえば以前ここの途中まで来たことがあるんだけど。」
ミンベ婆さんに松山桃香との出会いについて話した。
「その女子の事は知らねぇミンベ。
ただ、お前さんは一度来た事があるなら、
入り口の認識阻害は効かねぇミンベ。」
認識阻害が掛かっているから本来道は分らない。
だが、一度入り道を認識している俺は、
はっきりと見えるという事か。
ミンベ婆さんは一口お茶をすすり、話を続けた。
「お前さんはもう仕方がねぇけど、
他の者は通したら駄目ミンベ。」
と言うと、俺を見て一瞬殺気を放つ。
見た目に騙されてはいけない。
ミンベ婆さん只者ではない。。。
「分かった。」
俺と一緒なら入ってこれてしまう。
それは許さないという事だろう。
「驚かして悪かったミンベ。」
穏やかな顔で笑うと、またお茶をすすっていた。
「それでお前さんの探しとった何とかの宝珠ってのは
手に入れてミンベ?」
その後もミンベ婆さんにヒワディーア山での出来事、
バトマで犯人扱いされた事と
長々と話をすることになってしまった。
「何か、長居させてもらっちゃいましたね。」
縁側から腰を上げた。
「もう3時回ってミンベ。
そういや羊羹があったミンベ。お前さんも食ってミンベ。」
「そんないきなり来て、悪いですよ。」
「構わんミンベ。それとも用事でもあるミンベ?」
「いや別に。。。」
「ミンベ、ミンベ。」
上機嫌で頷きながら奥へ行ってしまった。
どうやらミンベ婆さんに気に入られたようだ。
ミンベ婆さんはお盆の上に黄色い羊羹、芋羊羹を
3切れずつ小皿に載せ、新しいお茶も淹れてきた。
そして、「ちょっと待ってミンベ。」と言いながら、
また戻り古い本の埃を払いながら持ってきた。
「お前さんは足腰が弱そうだミンベ。
やるから読んでもっと鍛えてミンベ。」
手渡された本の表紙には『三峯流儀』と書かれていた。