貧乏臭い家
席に座っても、まだ自責の念に駆られている様子だった。
俺の想像だが、魅了が解けて乗客の誰かがアイテムや
所持金が無くなったことで騒ぎ立てたんだろう。
更には乗客の一人、つまり俺が居なくなっている。
俺をスケープゴートにしてその場を納め、
バトマまで辿り着き、ギルドへ報告したのだろう。
俺たちがここへ着いた時に集まっていた冒険者は、
乗客の捜索だけでなく、盗賊団の捜索という
意味合いもあったのだろう。
シャローマと一緒にいたイナサンイが
俺を見かけ犯人呼ばわり。
一緒にいた彼女も面識はあるとはいえ、
ロープでグルグル巻きになった女性が乗っている台車を
押してるのを見たら、そりゃ不審にもなる。
「気持ちは十分に伝わったんで、
そんなに恐縮しないでください。」
「恐れ入ります。あのお詫びと言っちゃ何ですが、
もしよければ私の方でケービヨンまでお送りしましょうか。
勿論、お代はいりません。」
「おっ、いいんですか。」
ケービヨン方面行きの馬車は、
既に次の街であるカリイニットへ出発してしまっている。
1日ロスらなずに済みそうだ。
ラクセレスティ支店長の申し出は有難い。
だが、それに待ったを掛ける人物が。
「それは困ります。」
「えっ・・・」
償いの機会を得てホッとしているラクセレスティから
想定外の進展に動揺しているシャローマに視線を移す。
「本日の日当は既にお約束させていただいております。
なので、この後お付き合いいただきます。」
昨日はラッキーと想っていたが、思わぬ落とし穴が。
ん、でもちょっと待てよ。
「あ、日当不要です。だって、」
視線を再び、突然の横槍に呆然としている
ラクセレスティへ向ける。
今日、彼の馬車に乗せてもらえるのであれば、
ロスは無いので、日当を貰う根拠は無くなる。
「そういう事では無くてですね、、、」
「そういう事じゃない?」
どうしても引き止めたがっているシャローマへと再び視線を戻す。
「ゴホン!昨日セニリティーに事情聴取して、
この後現地確認へ行くのだが、一緒に来てもらいたい。」
煮え切らない態度のシャローマの代りに
ローバストが助け舟を出した。
「あくまで、お願いベースで?」
「まぁ、、、」
判断をギルマスであるシャローマに委ねた。
「確かにお願いベースではありますが、調査にご協力いただければ
別に報酬を出させていただきますので。」
「1日位なら俺が何とかするよ。」
俺とミシャワーヌの話の間にイナサンイが割って入り、
その横で支社長も頷く。
結局話の流れで、今日はシャローマ達に同行し、
明日バトマを出発することになった。
イナサンイと明日の待ち合わせを決め、
彼と支社長は退席した。
3人となった所で、現状分かっている事を、
話せる範囲でシェアしてくれた。
ディメンティアは、5年ほど前までセニリティーという名で
冒険者として活動していた。
パーティー内でのトラブルで追放され、
それと同時に表舞台から姿を消している。
この5年間何をしていたのか、
特にポスリメンとの関係については念入りに問い詰めている。
組織の一員であった可能性は低いだろうというのが、
2人の見立てで、その裏付けのため、現地の調査を行うそうだ。
一通り打合せを終え、他にギルドスタッフ3名を加え、
ギルド専用の馬車で現地へと赴いた。
「ここですね。」
生い茂る草を軽く掻き分けた。
「これは気付けませんね。」
シャローマは掻き分けた先にある
木々に挟まれた獣道を覗き込んだ。
「俺が先導しよう。」
ローバスとを先頭に、ギルマスのシャローマ、俺、
ギルドスタッフと続いた。
道形に進むと苔だらけのボロ家が現れた。
「うわぁ、随分と小汚ねぇ。」
「人様の家をそのように言うべきではありません。」
「すいません、つい。。。」
俺もローバスとと同じことを思っていたが、
シャローマに注意され小さくなった。
そのまま彼女は進み、玄関のドアノブに手を当てた。
ローバストはドアの開く位置に構えた。
ディテクトには反応は無いが
固唾を呑んで見守る。
そしてシャローマは1つ頷くと、
一気にドアを開けた。
特に何かが出てくる様子はない。
「3人は周囲の警戒をしてください。」
「「了解です!」」
ギルマスの指示に従い、適当にばらけて家を囲む。
ローバストに続いてシャローマが家の中へと入っていく。
特に何も言われていないので、
シャローマの後についていった。
家の中はとてもカビ臭い。
物は少なく、どれも使い倒されている。
体よく言えば、質素だ。
「貧乏臭いですね。」
罅が入った茶碗を手にして、
俺と思っていた事をシャローマが言った。
って、さっきそういう事は言うべきじゃないって
言ってなかったっけ。。。
ローバストと視線が合うと、彼は苦笑いしていた。
家の中を手あたり次第確認したが、
生活感はあるものの、最低限の物しかなかった。
「家の中はこれくらいにして、外を確認しましょう。」
外へ向かうシャローマの後を追った。