元冒険者のセニリティー ~ 支社長のラクセレスティと御者のイナサンイ ~
「知り合いなの?」
「随分と前だけど、ギルドで話したことがあるぞ。」
ツルボウもサッチャンに同意するように頷いている。
「バトマ周辺で活動してた元冒険者だ。
言われるまで全く気付かんかったが。」
魅了は解けているはずなのにロラタージは
まだエロ目をしながらチラチラと
セニリティーの躰を見ている。
そこを突っ込むのは止めておこう。
「女はメイクでいくらでも変われます。」
「ふん、ぶ~~すっ。」
セニリティーはシャローマを睨みつけた後、
そっぽを向きながら暴言を。
これに表情が固まり、蟀谷に青筋が。
そして、再度ロープを口に巻き付けた。
俺の時よりきつくされているのだろう。
はっきりとは聞き取れないが、
明らかに「痛い、痛い。」と言っている。
まぁ、自業自得ってやつか。
「大変申し訳ございませんでした。」
「疑ってすまなかった。」
ギルマスであるシャローマの上半身が
床と平行になるくらい深々と頭を下げると、
ローバストも続けた。
「アタシは最初から信じてたぞ。」
「イデッ!」
サッチャンに大阪のおばちゃんのように
肩をバシッと叩かれた。
それも、力強く。(T_T)
そうは言っても、さっきまで俺が不審な動きをしたら
直ぐにでも取り押さえる気でいたくせに。
「まぁ疑いが晴れたならいいけど。」
俺の言葉を聞いて、漸く下げてた頭が戻った。
「2人の疑いが晴れたからって、
全てが解決したわけじゃ無いぞ。
外にはまだ多くの人がいるし、
そもそも、こいつは元とは言えここの冒険者だろ。
そこんとこは、どうなんだい?」
「確かに。」
厳しい追及をするサッチャンに同意すると、
一瞬顔が綻んでいたギルドの2人の顔が再び険しくなった。
「外の連中の誤解は俺が責任をもって対応する。」
「ディメンティア、いえセニリティーについては、
彼女にヒアリングをして、再度事実確認をさせてください。
その後、正式に処理させていただきます。」
「え、、俺ケービヨンに行く途中なんだけど。」
ローバスト、シャローマと役割分担するのは構わないけど、
バトマにそんなに長く滞在する気はないんだよなぁ。。。
「アタシとツルボウは明日、イーグルビーに帰らせてもらうぜ。」
「んじゃ、俺も明日、」
出発したいと言おうとしていたが、シャローマが遮ってきた。
「明日の朝まで、朝9時まで時間をください。
明日、9時からもう一度事実確認させてください。
このままでは。。。」
「ん?それじゃ、」
ケービヨン方面へ向かう馬車は出発しているのではと首を傾げた。
「本日と明日の宿代はギルドで持ちます。
そう、それと明日の日当も出します。」
待ってくれという意味なのか、落ち着いてくれという意味なのか、
シャローマは両手の掌を前に出すジェスチャーをして
必死に訴えてくる。
もし後者の意味なら、今のアンタがだよと思っていると、
サッチャンもご相伴にあずかろうと強請り始めた。
「アタシらも。」
「それはちょっと。。。」
シャローマは冷めた目でサッチャンを見る。
「 #¬Д¬)チッ!」
サッチャンは悔しそうに舌打ちした。
「明日、9時に来ればいいんですね。」
「はい、改めて彼女から聞いた内容との
すり合わせをお願いします。」
【8月28日】
「「「申し訳、ありませんでした!!」」」
「こっわっ!!ナニコレ・・・」
今日はギルド周辺がやけに静かだなと
思いながら中へ入った途端、
多くの冒険者が一斉に頭を下げた。
「これで十分だろ。」
してやったりな顔をしたローバストが近づいてくる。
その奥にチラリと見えるサッチャンは腹を抱えて笑っていやがる。
「もう結構です、っていうかやり過ぎ。」
「オッケー!解散!」
「「「ウィ~ッス!」」」
昨日睨み付けてきた冒険者の面々が、
軽く肩を叩いたり、サムズアップしたり、ウインクたり、
一声かけて俺の横を通り、ギルドから出発していく。
サッチャンはウォークアールズのメンバーに
何やら説明している。
というか、ウォークアールズは
昨日あの場に居なかっただろうに。
「今朝早く、どうしても会いたいという人が来て、
ギルマスと一緒にって待ってるぞ。」
ローバストに連れられ、応接室に向かう。
「俺に会いたい人?」
「昨日の御者のイナサンイ氏と
その上司のラクセレスティ支社長が、
昨日の件でってことらしい。
ま、詳しくは中で。」
ローバストは応接室のドアをノックした。
「「この度は、大変申し訳ありませんでした。」」
昨日俺の事を盗賊団とグルだと罵って来た御者のイナサンイ、
その横にいる男性が支社長のラクセレスティって人か。
部屋に入り、目が合うと二人同時に頭を下げた。
「もう、気にしなくて。」
先ほどの冒険者一同の謝罪でもう懲りた。
「さあ、立ち話では何ですので、おかけください。」
部屋の入り口付近にいるローバストと俺、
そして頭を上げた2人にシャローマが着席を勧めた。
「申し遅れました。
私、ビーユーエス社のイーグルビーで支社長をしている
ラクセレスティと申します。
昨日うちの馬車が盗賊団に襲われたってんで、
慌てて来たら、盗賊団のボスを捕まえた方を
犯人呼ばわりしてしまったっと聞いて、
もう、何て言ったらいいか。。。」
「自分もふと気づいたら所持金と持ち物が無くなってて、
他のお客さんからは責め立てられるしで。
みんなが、居なくなったあんたが犯人だって
言ってたから顔を見たらついカッとなっちまって。」
2人が反省の弁を述べた。