クリッピノのお守りSP+と忘却のディメンティア
【8月17日】
途中雨天により2日間中断したが、
今日残っている2箇所を終えれば完了となる。
初日11日は時計回りで4箇所、
翌日、翌々日は反時計回りで5箇所ずつ術式を変更した。
その後2日間は悪天候でクリッピノさんが外に出たがらず、
そして昨日、山中を突っ切って奥の4箇所を変更した。
例のお守りの効果でモンスターは近寄ってこない。
ハイキング状態で、クリッピノさんは
呑気に鼻歌を唄いながら歩いている。
上機嫌なまま1箇所目を終え、最後の術式の変更に着手し始めた。
近くの木にもたれ掛かり、時々光を放つ杭を眺めている。
「これで終わりなの!」
「お疲れ様。」
「お守り出してなの。」
近づく俺に右手の掌を上にして出してきた。
「えっ?」
何か気に障るような事して、回収されちゃうのかな。
戸惑いながらお守りを返した。
「うん、やっぱりなの。」
受け取ったお守りをじっと見ていたクリッピノさんは
何か閃いたかのように声を上げた。
「どうかした?」
「ちょっと待っててなの。」
左手にお守りを載せ
「この部分はもっとこうして、で・・・」
などブツブツと言いながら術式の変更を始めた。
そして時折、先程の杭と同様に光を放った。
「ふぅ~、これで前より良くなったの。」
返ってきたお守りは、
『クリッピノのお守りSP+』
になっていた。
消費MPが低減され、効果に
『相手のレベルより高い場合、特殊効果は高確率で発動する。』
が追加されていた。
現状のレベルを考慮すると、特殊効果は実質高確率じゃん。
「すごい。ありがとう。」
「いいの、いいの。手伝ってくれたお礼なの。」
強化されたお守りに魔力を流しながら、事務所へと戻った。
「試してくるからちょっと座って待っててなの。」
いつもの応接室に通された。
これから管理室で結界を作動させ、
結果が芳しくなければ、再度現地に行かなければならない。
「管理室は管理者以外立入厳禁なの。」
と右手の人差し指を立てて言いながら去っていったが、
後にお茶を持ってきたクリッカーさんが
「管理室は私物でゴミ屋敷になっている。」
と、こっそり教えてくれた。
「ばっちり大成功だったの。
これでもうクリビオーなんかに悩まされないの。」
「良かった。」
結果もさることながら、また行かなくて済んだことに一安心した。
【8月27日】
クリッピノさんの手伝いを終えた翌日の18日にサンハイトを出発し、
途中サイポークでゆっくりして、今はバトマへと向かっている。
することはなく、基本座って寝ていた。
「すいません、皆さんお降りいただけますか。」
御者のおっさんが、顔をのぞかせ促してきた。
まだバトマには到着していない。
他の客がざわつきながら、順次降りていく。
外に出るとちょっとセクシーな服装の女と、
ポスリメンが4体いた。
「忘却の。」
「恐らく。」
小声で御者に尋ねると、小声で答えが返ってきた。
カサーナでシンズさんから噂話を聞いた。
バトマ付近で最近、忘却のディメンティアと呼ばれている
窃盗を繰り返している一味がいると。
命は取らないが、有り金と荷物を奪い、
その際の一部始終の記憶が全く残らないらしい。
ではなぜ、情報が出回っているのか。
運よく馬車内に隠れていた幼い兄弟が
状況を説明してくれたらしい。
ディメンティアなのかディメンシアなのか
当初はその女の名前があやふやだったが、
今では異名と共に『忘却のディメンティア』と呼ばれている。
「チャ~ム~。さ~、アタシの虜になりなさ~い。」
甘い声色で全員を魅了してきた。
「ほ~ら、跪きなさ~い。」
ディメンティアの言葉に、次々と両膝を地面に付け始めた。
周囲に合わせ、跪いた。
「ん~ん、いい子たちね~。」
甘い声色を発しながら、俺たちの前をゆっくりと歩き始めた。
「それじゃ~持ってるお金、全部出してみなさ~い。」
跪いていた人達が、自らの前にお金を置き始めた。
俺以外、自我を失っている。
幸い俺は例のお守りのご利益で大丈夫だ。
折角なので、このまま泳がせてもらおう。
魅了されている振りをして、お金を出す。
勿論、全てではない。
14,091ゼニー。
1万プラス端数だけしか出さない。
「ふふふ、いいわ~、いいわ~。」
ディメンティアは満足気にゼニーを回収していく。
「ついでに荷物も全部だしちゃいましょ~。」
皆、アイテムを次から次へと出し始めた。
当然、俺は全ては出さない。
回復薬を数個、武器や防具も少しだけ出す程度に留める。
金しか興味がないのかディメンティアは見向きもせず、
ポスリメンが回収していく。
「これで全部かしら~。まぁいいわ。
あなたたち、よ~く聞くのよ。
私たちに出会ってからの事は全て忘れ去りなさ~い。
フォ~ゲットォ~!」
魅了され跪いている俺たちにスキルを放つ。
もちろん、俺には効いていない。
「そろそろ、切れるかしら。早く帰るわよ。」
ディメンティアは警戒することなく背を向けた。