久しぶりのサンハイト ~ タークハギ社長からの相談 ~
【7月31日】
午後3時過ぎ、やっとサンハイトへ到着した。
移動ばっかりで、もし桃香言っていた事がガセだと
目も当てられない。
なので、パワルドとニャルマーは玄武の刻印を優先してもらい、
タークハギ鉱業への用事という名目で俺一人で来た。
「おーい、ご無沙汰、ご無沙汰。」
馬車から降りると、タークハギ社長が手を振って出迎えてくれた。
以前、突然訪問した際に苦言を呈されたので、
今回は事前に連絡しサンハイトへの到着日を教えといた。
「久しぶり、変わりなさそうだね。」
汚れた作業着ではなく小綺麗な普段着の
タークハギ社長の元へ歩み寄る。
「ええ、お陰さんで。
言われた通り宿は抑えてるんで、早速宜しいですかい?」
「ありがとう。んじゃ行こう。」
社長にはコマアールのダンジョンに用があると事前に伝えてる。
その際、相談したいことがあるので、
到着したら事務所で打合せしたいと打診を受け、
コマアール鉱山にあるタークハギ鉱業の事務所まで歩き始めた。
「ずっと丸投げしっぱなしで、すまないね。」
「そんなん気にしないでくだせぇ。
むしろ気軽にやらせてもらって、ありがたいですよ。」
「そう言ってもらえて助かるよ。
なんせ、鉱山のこと何ってさっぱりだし。
所謂、餅は餅屋って事だよ。」
タークハギ社長は餅つきの杵を振り上げるように
両腕を額の高さまで上げて搗く動作をした。
「ほう、なるほど。ウマいですね。」
と、おべっかを使ってきた。
いや多分勘違いしている。
つるはしを振るう動きと掛けた訳ではない。
専門家に任せた方が良いって意味なんだけど。。。
それに話が上手いと、餅が美味いを掛けて返してきた。
「社長も味のある返しで。」
趣があるという意味を掛けて返すと、
「こりゃ参りました。」と爆笑していた。
傍から見れば途轍もなくくだらない親父ギャグの応酬だったであろう。
いつもだと冷たい空気が・・・なんだろうけど。
「んで、相談てのは?」
「1つは在庫の事なんだけど、」
「半分は確保しといてって頼んでたやつ?」
「ああ、言われた通り確保してあるから後で見てもらつもりだけど、
実は大きな引き合いが来ててよ。」
「引き合い?」
「ハノウとルイマンの間にある鍛冶職人の街、
クロースミスって所から大量に購入してぇって。」
「あれ、ハノウって通行止めされてなかったっけ。」
昨年暮れにポスリメンの襲撃でニシタケル帝国との国境が封鎖され、
ハイルートから南下してハノウへ抜けれなかったはずだ。
「ついこの間までは。今は普通に通れるようになったみてぇで。」
「へぇ~、そりゃ良かった。」
ということは、ハノウも落ち着いてきたんだろう。
「まぁとは言え、武器や防具が大分不足して
職人たちがフル稼働してるみてぇだ。」
「なるほど、それで材料となる鉄鉱石をって流れか。」
タークハギ社長はその通りという意味を込めて
頷くと話を続けた。
「あそことは先代から付き合いもあるし、無下にもできねぇ。
向こうも多少色付けてくれるってんで、
例の在庫から出してやっちゃくれねぇか。」
「なるほど状況は大方分かったよ。」
「もっと詳しい話は事務所でさせてくれ。
んで、もう1つは経営コンサルタントなんだけど。」
「雇うの?」
「いや、雇うというか、
経営診断を無料でっていう営業が来て。」
「受けた、って感じ?」
「タダだし、問題ねぇかなって。
最初は話だけって事だったんだけど、
財務資料とかも見てもらったりして。
最終的に報告書を受け取ったから後でそれも見てもらおうかと。」
あまり良くない報告書なのだろうか。
社長の顔が少し元気なくなり、徐々に声も小さくなった。
「分かった。後で見させてもらうよ。他はどう?」
「他は特段問題無くやらせてもらってますよ。」
従業員の状況や社長の両親でハイルートでお世話になった
ワザヤミーさんたちの状況を聞きながら
コマアール鉱山の麓にあるタークハギ鉱業を目指した。
「はぁぁ、凄いねぇ・・・」
到着してまずは鉱山の入り口横に建てられた
倉庫へ案内してくれた。
左右にスライドして開けた扉の中には、
整然とラック棚が設置されており、
既に半分以上の棚が鉄鉱石で埋まっていた。
「どうです、中入って見ますかい?」
驚き戸惑っていると社長が手で倉庫の中へと促していた。
「え、いや今回はいいや。」
とてもじゃない。
入口に立っているだけで、庫内からの熱気が物凄い。
手を横に振って遠慮させて頂く。
「それがいい。流石に俺たちも。」
額の汗を手で拭いながら、首を横に2度振っている。
扉を締めて木陰にある事務所へ行く途中、
夏の間は朝一しか立ち入らない様にしていると話してくれた。
だったら勧めるなよと思った。
「どうもご無沙汰してます。」
事務所に入ると社長の弟、トーイス副社長は
目を通していた書類を置いて立ち上がった。
「変わりなさそうで。」
「お陰様で。」
汚れの無いオーバーオールに身を包んだ副社長がぺこりと頭を下げた。
中央から右に作業用のデスクが5台あり、
左側には打合せ用のテーブルが置かれ、
その上座へと案内された。
「水でいいかい。
他は熱いお茶しか出せねぇけど。」
「んじゃ、水で。」
事務所は日が差し込まないので外より涼しいが、
先程の庫内からの熱風と言いまだ外は熱く、
未だ汗が滴れている。
熱いお茶なんて罰ゲームでしかない。
社長は作業デスクの奥に簡易的に
作られている給湯室へ水を汲みに行った。
腰を落ち着かせると、見ていた書類をデスクに置き
別の書類を持ってきたトーイス副社長が斜向かいに座った。
「おめぇさんも水だろ。」
俺の前に水の入ったグラスを置きながら
副社長に尋ねている社長のお盆にはあと2つ載っている。
「すいませんね。滅多に客なんか来ないもんで。」
頷きながら受けとると俺を見ながら
水とお茶しか出せない現状を卑下した。
「こう暑いと水でもありがたいよ。」
早速半分ほど一気に飲んでしまった。
「どうせたまに来る客だって大したもんじゃねぇし、
気に食わねぇ奴には熱いお茶を黙って出してやるさ。」
「俺たちは冷たい水でね。」
お盆を置いて戻って来る社長の言葉に副社長が続け、
2人とも悪い顔でニヤついている。
良かった、熱いお茶が出てこなくて。。。
「まずはさっき話したクロースミスの引き合いの件から
伝えさせてくれ。」
タークハギ社長が対面に座り指を組した両手をテーブルに置くと
トーイス副社長は一枚の用紙を渡してきた。