かじられリンゴが進化してかじられ青リンゴになったみたいです。
「全く聞こえなかったな。」
右隣を歩くパワルドは愚痴っていた。
「いいぉよ。聞こえなくて。」
「正当な言い訳になりマス。」
後ろを歩くララリリ姉妹はさも当然と言わんばかりだ。
今までもこんな感じで躱してきていたのだろう。
「でも、何なのか気になるな。」
「多分割りは悪くないと思うけど。」
興味深気にしているパワルドに対して、
ニャルマーは話していいかララ達に視線を送る。
「別に今ここで聞いたからって、問題ないぁよ。」
「わざわざ聞きましたって触回る訳でも無いデスし。」
あっけらかんと答える姉妹は、ニャルマーから話を聞いても、
知らぬ存ぜぬを押し通す腹づもりに見て取れる。
これには俺もパワルドも苦笑いするしかなかった。
「カサーナでかじられリンゴが大量に
押し寄せてきたのを覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。
半年くらい前にあったよね、そんな事。」
ニャルマーの質問に答えた。
「こっちでも、そんな噂があったぁね。」
「冒険者の一部が駆り出されてたカト。」
ケービヨンでもかじられリンゴが現れてたみたいだ。
「何か、かじられ青リンゴって言うのが
こっちに襲撃してくるみたい。
前のかじられリンゴが進化して、
以前と比べると数倍強くなってるって言ってた。」
「何か変だよな。
なんで、赤いリンゴが進化すると青くなるんだ?」
隣を歩くパワルドは疑問に思っている様だったが、
『単なる設定上の問題じゃね』と思った。
「モンスターが進化すると若返るってのは、よくあぅ話よ。」
「寿命が伸びるからと言われていマスね。
例えば人族の寿命は80年で、かじられリンゴが1年とすると、
1年で人族の80歳になりマス。
進化して寿命が4年に伸びたとすると1年で20歳しか
歳を取らなくなりマス。あくまで想定の話デスけど。」
「つまり、強くなって若返ったってことだな。」
「んで、その強くなったかじられ青リンゴはいつ来るの?」
「20日、遅くとも21日にはケービヨン付近に来るみたい。
明日、明後日でどこを担当するか決めるって。」
「つまりは、暫くギルドに近づかなければ良いて事ね。
元からそぉつもりだったけど。」
「で、ニャルマーはどうした方が良いと思う?」
ララは相変わらず参加に後ろ向きだったので、
ちゃんと聞き取れていたニャルマーの判断を聞いてみた。
「報酬は悪く無いから、できれば参加したいかなって。」
ニャルマーはララリリ姉妹に申し訳なさそうに言った。
「カサーナん時も、結構儲かったしな。」
「昼夜問わず24時間交代で、大変だったけどね。」
当時を思い出し、パワルドと懐かしんだ。
「報酬ねぇ。別に興味は無いけぉ。」
どことなく迷いが感じられるようにララが呟いた。
「お姉さま、折角ですし参加してみまセンか?」
姉の気持ちを察したリリが背中を押す様に誘う。
「そぉね、あなた達が参加するなら、
ちょっと位協力しても悪くないかしら。ちょっとだけよ。」
なんか、ツンデレっぽく聞こえたが、
それを言ったらヤバそうなので黙っておく。
馬車に乗ってからも、引き続き情報をシェアしてもらった。
まとめるとこんな感じ。
・ケービヨンは外壁に守られているため、
日中だけ外壁の外へ出てかじられ青リンゴを討伐
・かじられ青リンゴの推奨レベルは60
・動きは鈍いが、かじられリンゴより固く魔法も効きにくい
・報酬はポイント制で1ポイント10ゼニー
・明日以降担当するエリアをギルドで確認すること
【5月18日】
クヌキの祠への道すがらギルド前を通ると
冒険者たちで既にごった返していた。
「朝から凄い混雑だね。」
「早く行って良い場所を狙ってるんだろうな。」
「あぁしは嫌よ、あんな中行くの。」
「まぁどこが良いポジションかも分からないし、
空いたらで良いよね?」
特に異論は無く、そのままクヌキの祠へと向かった。
クヌキの祠からの帰り、パワルドと共にギルド前で
女性3人を待っている。
「これだけ人が集まってるなら、
俺達必要ねぇんじゃねぇかな。」
「確かにそうだよね。」
朝より人の出入りが激しいギルドの入口を
離れた場所から眺めていた。
「ごめん、待た~」
上機嫌のニャルマーと共に、ララリリ姉妹もやってきた。
「なんかさ、コレ俺ら要らなくね?」
相変わらずの人の往来を指した。
「そぉね。」
「え、え~、ちょっと待って。」
ニャルマーは周章狼狽した。
「丸菱で散財したな。」
「あはは。。。」
パワルドの指摘は図星のようだ。
「どうする、中入る?」
「んと~・・・」
俺の問いかけを受け流すかのように、
もごもごとした口調で視線をララリリ姉妹に送る。
「明日でもだいじょぉぶよ。」
「人手は多い方が良いでショウからね。」
ララリリ姉妹は、人が多いギルドの中には入りたくないみたいだ。
ただ、参加自体は否定していない。
「んじゃ、今日は帰ろうか。」
人の多いギルドに背を向けて、
越川へと帰った。
【5月19日】
朝も人が多く、夕方に寄ることにした。
早めに切り上げ、5時に集合した。
まだ陽は高いせいか、中は閑散としている。
「精算後回しで、先に聞いちゃおうか。」
精算とは別の受付へ向かう。
「かじられ青りんごの件で来たんですけど。」
「あ、はい。えっ、、、はい。」
一度俺に頷いた後、後ろララリリ姉妹がいることに
気付き目をぱちくりしている。
「ぁによ。文句でもあるのかしら。」
「あ、失礼しました。
お二人もご参加で?」
「駄目なら結構デスけど。」
「いえ、大丈夫です。」
急に立ち上がった受付嬢は、引き攣った顔をしていた。
「俺たちは参加するにはどうしたら?」
「受付はすぐ可能です。
明日の午後には出現しそうなので、明日より
現地にて待機をお願いします。
現在、西側が手薄なので
そちらにご参加していただきたいのですが。」
「あれ、西側って越川もここから西だよね?」
「だったら意外と近いんじゃねぇかな?」
「ええ、歩いて10分くらいで外壁デスよ。」
「いいんじゃない、ここに決めちゃえば。」
決定を急かすように金欠のニャルマーが
猛プッシュしてくる。
「移動に時間がかかってしまうと、
皆さん敬遠されてしまうので、助かるのですが。」
俺たちが馬車で移動しているが、移動手段がなければ
徒歩で往復しなければならないという事か。
「であれば、決定でいいよね。」
特に異論はない。
明日からケービヨンの西の外壁の外で
かじられ青リンゴを退治することになった。