マテカ空間10 ~ 二イズドーのバイドレッド、離れ家とヨンエックスプラスロク! ~
【4月7日】
朝一でエクーを出発し、3番目の村ニイスドーへ到着し、
村長のバイドレッド宅のドアを恐る恐るノックした。
「なんだ、もう来たのか。ちょっと待ってろ。」
俺たちの顔を見るなり不愛想に言い残して、
ドアを開けたまま奥へと消えてしまった。
パワルドと目が合うと、
「まぁ待つしかねぇよな。┐(´ー`)┌」
と肩をすくめた。
程なくして出てきたバイドレッドは、
「こっちだ。」
と小声で言いながら前を通り過ぎ、
屋敷の裏手にある離れ家へと案内した。
手に持っていたウサギのキーホルダーが付いた鍵で開錠した。
「可愛い。」
「俺の趣味じゃねぇ。前の使者が勝手に付けたんだ。」
ニャルマーの漏らした言葉に少し照れながら反論しつつ、
ドアノブから鍵を抜いた。
「ここにいる間は、勝手に使ってくれて構わん。
不都合があれば言ってくれ。」
そう言いながらパワルドに鍵を託すと、
そそくさと母屋へと帰ってしまった。
ウサギのキーホルダーと去っていくバイドレッド村長の
後姿を見ながら、偏屈で外の人間が嫌いというよりは、
人付き合いが苦手で不愛想なだけじゃないかなと思った。
「さて、行きまショウか。」
リリに促され、ニイズドーの洞窟へと向かった。
村から徒歩で10分ほど離れた場所にある洞窟の内部は真っ暗で、
俺とリリが補助魔法ライテンを使い周囲を照らしている。
更にディテクトを使い周囲の様子を窺う。
「そろそろ見えてくるはず。」
検知した反応を知らせる。
そして、エンカウントしたのは、
ロクデナシとバツジャナイの上に乗っているヨンナノ。
パワルド、ニャルマー、ララが数歩前へ出て構える。
「ええっ!」
残され隣にいるリリを見ると、
計算担当をすんなりと受け入れているのか
顎に手を当てパスコードを考えている。
「10!」
リリがパスコードを言うと、ニャルマーとララが攻撃を仕掛けた。
パワルドは一歩も動かず、
2人の攻撃は弾かれ、すかさず間合いを取る。
想定していたかのように、リリは続けてパスコードを言う。
「24ッ!」
「それだ。」
考えていたパスコードと合致したパワルドは、ヨンナノに飛蹴を放つ。
バツジャナイを掛け算と考えたのか。
だが、パワルドの攻撃も弾かれる。
「えっ!」
リリは驚いている。
「ヨンエックスプラスロク!」
閃いたパスコードを言うと、今度はニャルマーとララが攻撃する。
マテバリアが解除され、漸く倒せた。
「流石兄貴だな。」
攻撃に参加できなかったパワルドが
にこやかに近づいてくる。
一方でリリと共に苦虫を噛み潰したような表情だ。
「ヤバいな、コレ。」
「1人では厳しいデスね。」
2つの数字を覚えながら計算しなければならない。
リリも同じ気持ちみたいだ。
「あれ?浮かねぇ顔だな。」
パワルドは目の前で立ち止まると俺たちの様子を気に掛けた。
「何2人して渋い顔してぅのよ?」
ララもニャルマーと共に近づいてきた。
「お姉さま、これは一人で無理デス。」
「え、どぉして?前回と然程変わらないでしょ?」
リリは2つの数字を覚えながら計算する大変さを
姉に分かるよう噛み砕いて説明した。
ニャルマーもララと一緒に説明を聞きながら
「なるほど」と頷いている。
「どうだろう、二手に分かれるのを止めて、
俺とリリで計算担当を引き受けるってのは?」
二手に分かれた場合、ニャルマーかララのどちらかが
入ることになるが、二人とも嫌そうな顔をしている。
だがそれよりも、俺とパワルドの2人になった場合、
俺一人で請け負うか、2人で計算しながら攻撃もしていくか、
いずれにしても正直キツイ。
自分を犠牲にしてでも二手に分かれるのを回避したかった。
「俺もその方が良いと思うな。」
俺の意図に気付いたパワルドは1つ頷き賛同した。
「あ、あぁしもそれで良いわ。」
「そうね。私も良い案だと思う。」
堰を切ったかの様に、ララ、ニャルマーと賛同に回った。
ま、反対する人はいないとは思っていたけど。
「んじゃ、そう言う事で。
と言っている間に、近くに反応が。」
ディテクトで反応がある前方を指すと、
パワルド、ニャルマー、ララは気を引き締め構えた。
エンカウントしたのは、バツジャナイの上に乗るニデアル、
そして、バツジャナイの上に乗るフィフスン、
単なるナーナセブンだった。
面倒なので便宜上2x、5x、7としよう。
リリは俺に先を譲るように待っている。
「11x!」
「プラス13!」
パスコードを言い終わると、パワルド達3人が総攻撃して倒した。
「1389x!」
「プラス1406!」
パスコードが解除されたモンスターをパワルド達が倒す。
「これで漸く終わりだぁ~~。」
今朝から村へ戻ることなくずっと洞窟を散策した。
この先にディテクトの反応はない。
緊張を解き放つかのように両手を高く伸ばした。
「お疲れさまデシた。」
「リリもお疲れさん。」
「お、出口が見えてきたな。」
数メーター先を歩くパワルドが振り返って教えてくれた。
ダークブルーに見える境目。
外に出ると既に陽が落ち、夜になっていた。
アイテムボックスを確認するとマテカ結晶は
1869個になっていた。
今日だけで300個以上稼げたことになる。
二手に分かれなかった割には、
エクーのおおよそ1.5倍増えており、
みんなホクホク顔で帰路に就いた。
【4月9日】
「全然反応がないねぇ・・・」
昨日の夕方からエンカウント率が落ち始め、
今日の午後はほとんどウォーキングタイムになっている。
「ここも潮時デスね。」
「次のサンガティーンも、また難易度が上がるんだよね・・・」
隣を歩くリリは静かに頷く。
「ですよねぇ・・・」
意気消沈しながら、先を歩くパワルド達に続いた。
【4月10日】
ニイズドーを出発前に、離れ家の鍵を返しに母屋を訪ねた。
「今日サンガティーンへ出発するので、鍵をお返しに。」
「そうか。まぁ達者で。」
「いろ、あっ。」
『色々ありがとうございました。』とお礼を言おうと思ったら、
ドアを閉められてしまい、顔が固まったまま振り返った。
「ププ。さぁ、行きぁしょ。」
噴き出す様に笑うと、ララは先頭を切って歩き始め、
俺たちはサンガティーンを目指した。