マテカ空間5 ~ 本日の取れ高は・・・ ~
「あ~、あれね。パスコードを頭から
計算したかったからなんだけど、意味分かる?」
「頭っから?」
「パワルドは一の位から計算してたよね?」
「そりゃ、繰り上がりがあるかも知れないからな。」
「確かにそうなんだよね。書いて計算してる分には、
一の位から計算しながら書けば良いけど、
今回の場合だと、一の位、十の位、百の位って計算してから、
百の位、十の位、一の位って言わなきゃいけないんだよね。」
「ちょっと面倒だけど、これが普通じゃねぇかな。」
「だから、俺は十の位と一の位で分けて計算してたんだよ。」
「んん?具体的にはどういう事なんだ?」
パワルドは俺の計算方法に興味深げで、歩きながら説明を続けた。
「んっと~、まず一の位を足したら
繰り上がるかどうかは直ぐに分かるよね。」
どう説明したら良いか悩み、順序だてて話すことにした。
「そりゃ問題ねぇな。」
「んじゃ、繰り上がらなかったら十の位までは前と同じ数字を言って、
一の位だけ足せば良いよね。」
「繰り上がらなかったら俺だって余裕だけどな。」
「そう、問題は繰り上がる時なんだよね。
その時に、十の位と一の位で分けて考えるんだよ。
最後の574のパスコードを例にとると、
570と4といった感じにね。
んで、570の方に10を加えて580までは言っちゃって、
最後に一の位から補数を引けばOKって感じなんだけど。」
「ほすう?」
「足して10になる数ね。」
「何か逆に面倒臭そうに思うけどな。」
「まぁ慣れだよ。」
昔習っていた算盤を思い出し、空中に574と弾く。
そして、一の位の珠を2つ下げ、
十の位の球を1つ上げるように指を動かした。
「意外と早かったな。」
「あと20分ちょっとあるね。
けど俺のメンタルいっぱいいっぱいだったし、
丁度良かったよ。」
「そぉかぁ~。」
物足りなそうにしているパワルドを尻目に、
柵の杭にもたれかかった。
パワルドは軽くジャンプしたりストレッチして
空手の型の様に幾つもの技を繰り出し時間を潰していた。
暫くその光景を眺めていたが、
退屈だったので見様見真似で体を動かしてみた。
「んん、全然なってねぇな。
ここはさ、こういう風にやってみな。」
パワルドは手本を見せつつ、熱血指導が始まってしまった。
ほんの軽い気持ちで真似しただけなのに。。。
5時近くになり、3人の姿が見えると漸く解放されたのだが、
今日だけでなく時間ができると、
時折レクチャーしてくれるようになったのであった。
ま、勉強になるし、マーイーカ。
出入口を元に戻し、帰路につく。
「ねぇ二手になるのであれば、
北の森と南の森で分れてみない?」
「確かにそれの方が効率的だな。」
ニャルマーの提案に俺の横を歩くパワルドが賛同する。
「だったら、あぁし達が南の森でいいわよ。
人数が少ないあぁた達がこっちの方が良いでしょ。」
パワルドとアイコンタクトし、
「んじゃ、それで頼むよ。」
と、南の森の出入口の鍵を後ろを歩くララに渡した。
そのまま直ぐに鍵はリリの手に無言で渡る。
「あれ、もう読み終えたの?」
鍵をアイテムボックスに仕舞ったリリに尋ねる。
「ええ、大方は。」
「役立ちそうな情報はあった?」
「ん~、微妙デスね。
ほとんどリンレイ村長が仰っていた事デスので。
まぁ歴史的な読み物として思えば面白いデスよ。」
「歴史的って?」
「随分と前に、マテカ空間の事を放置していた時期があって
私たちの世界の各地でゼロジャナイなど大量発生したソウです。」
「それじゃ、ここでも大変だっただろうに。」
「そうでも無いミタイですね。
結界のお陰で村への被害は皆無だったと載ってマスね。」
「ってことはマテカ空間で溢れたのが、転移したってことかもな。」
「確かに、辻褄が合うよね。」
「さてさて、それはドウでしょう。
折角ですし、読んでみたらイカがです?」
リリは態々アイテムボックスからあの分厚いファイルを取出し、
是非読んでみてと差し出してきた。
「あ、ああ、ありがと。」
読む気は全くないのだが、無下にはできず受け取った。
「先読む?」
「え、いいのか。んじゃ、遠慮なく先読ませてもらうな。」
パワルドは嬉しそうにファイルを受け取った。
魔素学の本の時もそうだったけど、
俺と違って活字に抵抗ないんだったっけ。
「村長、ただいま戻りました。」
「おかえりなさいまし~。」
奥から返事が返ってきたので、あてがわれた部屋へと進む。
先ほど打合せした部屋が俺とパワルドで、隣が女性3人だ。
「森の方はいかがでしたか。」
落ち着いていると、部屋に村長が訪ねてきた。
「パスコードも分かったし、俺達だけでも100匹は倒したよね。」
「ああ、ざっくしそんなもんだな。」
「俺たちだけでも?」
「2、3で分かれたんですよ。」
「なるほど、そうだったんですね。で、」
村長は商売人のように手揉みをしながら、
何かを期待するかの如く俺たちの顔色を伺っている。
って、何かあったっけ?
「俺は69個ドロップしたな。」
パワルドがマテカ結晶の数を言うと、
村長はウンウンと頷きながら俺に視線を送る。
それを期待してたのか。
貴重な資源と言っていたのを思い出した。
「俺は67個だけど、どうする?」
俺たちは基本的に別々の財布で各々が資産管理している
個人事業主みたいなもんだ。
今ここで精算しても大した物にはならない。
意見を求め、パワルドを見る。
が、答えたのは村長だった。
「今すぐ引き取りたいという訳ではありませんよ。
どの程度の取れ高か把握しておきただけでして。」
手を横に振りながら慌てて否定した。
「取れ高ねぇ。。。」
趣旨は理解できるけど、言い回しが・・・
次回、ちょっと凄いことに!
キュイン、キュインしちゃいます。