マテカ空間1 ~ マテバリアとパスコード? そして、見渡す限りの草原 ~
【4月1日】
8時過ぎにギルドで5人集まり、受付の人にマテカ空間の件で
ギルドマスターのユピレスを呼んでもらった。
待っている間のララは、ご立腹というよりは、
ニタニタと悪戯な笑みを浮かべている。
「どう料理してやぉうかしら。」
怖いなぁ。。。
触らぬ神に祟りなし。
とりあえず、聞こえなかったことにしよう。
「申し訳ございません。
急遽出張が入っていて終日不在です。」
「もう行くの止めましょ。ひどすぎぅわ。」
「良いと思いマス。全く随分とゾンザイな扱いデスね。」
「えぇ、、、今から他の方にという訳にもいかないですし、
ん~、少々お待ちいただけますか。」
少々ご立腹のリリは姉に同意すると、鬼の形相にたじろいだ
受付の女性は困惑しながら奥に確認しに行った。
「あ~あ、可哀想に。」
「貧乏くじ引かされたな。」
去る後姿を見ながらパワルドと憐れんだ。
受付の位置から見えるテーブルに腰掛けて5分程経過した頃、
先ほどの女性が分厚いファイルを手に持ってやってきた。
「すいません。お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」
普段冒険者が立ち入らない通路を進み、
「関係者以外立入禁止」と書かれた立札の先へと進んだ。
最奥の扉の前で止まり、鍵の束から該当の物を探している。
開錠した向こう側には階段があり、2つ階を降りて
さらに迷路のように先へと進み、
「59」と振られた扉の前で止まった。
開錠し中へと案内された部屋の中には転移陣が有ったのだが、
いつもと様子が異なっていた。
「あれ、おかしいですね。」
と言いながら外に出てファイルのタイトルと部屋の番号を確認し、
「あれ~、合ってますね。」
と戻ってきた。
いつもの転移陣であれば青白く薄っすらと光っているが、
ここのは光っていない。
ララ・リリ姉妹はますます鬼の形相に拍車がかかり、
今にもブチ切れそうだ。
「そしたら、先に説明しますね。」
ヤバそうな二人から視線を逸らすかのように、
ファイルを捲り、1ページ目に視線をやった。
「まずは、シューニャという村に行ってください。
シューニャには北の森と南の森があるので、
そこにいるモンスターを減らしてください。
ただ、マテカ空間にいるモンスターはマテバリアという
バリアに守られているので、加算した数のパスコードで
解除してから倒します。」
「加算した数字ってなんだろう?」
ニャルマーの質問に、視線が女性へと向かう。
女性は何ページか急いで捲りながらざっと目を通し、
「え~っとぉ、、、何なんでしょう?」
と回答すると、一同から溜息が漏れる。
ララ・リリ姉妹も、もはや怒りを通り越し呆れている。
「あ、村へ戻るとパスコードはリセットされるそうですよ。」
ペラペラとページを捲り、有益な情報を見つけたといった表情だ。
「おっ、光始めたな。」
パワルドが転移陣の変化に気付いた。
「良かったです。あっ。」
転移陣が正常になった事に安心した女性から、
ララが分厚いファイルを奪った。
「ちょっと借りてくぁよ。」
そのまま転移陣にダッシュで乗り、消えてしまった。
「持ち出し禁止なのに・・・」
「んじゃ、俺たちも行こうか。
ララには戻ったら返すように言っときますよ。」
「うぅ、お願いします。。。」
4人で転移陣に乗り、マテカ空間へ辿り着いた。
「何だここ?」
足元には膝丈より高い草が生えており、見渡す限り草原だ。
そして、振り返ると100メーター以上後方に大きな岩があり、
その近くにララが立っていた。
「お姉さま!」
リリは大声で叫びながら手を振ると、ララも気付き、
互いに近づくように歩き始めた。
「もぉ何なのこぇは・・・何とか村って本当にあぅの?」
中間あたりで落ち合ったララは既にウンザリ気味だ。
「とりあえず、あの岩に行ってみようか。」
ララが元居た場所を指さしたが、
他に何も見えないので、反対する人は居なかった。
大きな岩の近くには会議とかで見かける
長テーブル程の大きさの石が
幾つか横たわっており、腰掛けるには調度いい。
パワルドは俺の近くに座り、
ララ・リリ姉妹も目の前の石に座った。
ニャルマーは軽快に大きな岩を登り始めた。
「これ読んぉいて。」
「はい、お姉さま。」
片手を塞いでいたマテカ空間の分厚いファイルを
押し付けるかのようにリリへと渡した。
奪っといて自分じゃ読まないんだと思いつつも、
ギルドに返さなければならないことを知っているリリが
持っている方が安心できるし、マーイーカ。
リリは確認するかのように見てきたので、
手で『どうぞどうぞ』とジェスチャーした。
「ねぇ、向こうにも岩が見えるよ。」
頂上に辿り着いたニャルマーは
俺たちがいた方向を指さしながら叫んだ。
「了解!」
ニャルマーに大声で返事した。
俺たちが転移してきた時に向いていた方向、
そして先に転移したララと俺たちの位置関係から
仮にもう少し遅く来た場合に想定される延長線上か。
「ここにずっと留まってる訳にもいかないし、行ってみるか。」
「他に目印になるような物もねぇしな。」
パワルドが賛同してくれると、ララ・リリ姉妹も頷いてくれた。
ニャルマーが戻ってきたので、草をかき分け元来た方へ進んだ。
20分以上歩いたが、一向に見えたという岩は見えない。
振り返ると先ほどまでいた大きな岩は大分小さくなり、
リリは二宮金次郎の様にララから渡されたファイルを
読みながら付いて来ていた。
到底読む気が起きないものを読んでもらって感謝しかない。
そして前を向き背筋を伸ばすようにして先を見た。
「全然見えないね。。。」
「あとどれくらい何だろうな?」
パワルドは後ろにいるニャルマーに問いかけた。
「えっと、」
ニャルマーは一度振り返って距離感を確かめ、
「同じ大きさの岩なら、大体1/3位進んだ感じ。」
「「はぁ~」」
一同から溜息が漏れる。
見える範囲の距離だからそれほど離れていないだろうという憶測でいたが、
小高い岩の上から見たこと、獣人で目が人よりも良いことを
全く考慮していなかった。
「ま、進もうか。」
一旦落ちかかったペースに再度ギアを入れ直した。
草をかき分け結局1時間以上歩き、
ようやくニャルマーが言っていた岩に辿り着いた。
大きな岩にお尻を付け、休んでいると、
ニャルマーは早速岩の上へと登り始めた。
「ねぇ、何か近づいてくるよ。」
俺たちが歩いてきた延長線上をニャルマーは指さし、
注視して見ると肉眼でも確認する事ができた。
「3つ、いや4つだな。」
立ち上がり背筋を伸ばして見ていた俺の横で、
パワルドがまだ点にしか見えない何かを数え、
ララは気に留める様子もなく、リリはファイルを熟読中だ。
腕組みして眺めているパワルドの横で、
俺も同じ様にしていると、岩の上からニャルマーが戻ってきた。
「人力車っぽいのが4つ、迎えかなぁ?」
「え、4つ?」
分かってはいるが、敢えて1,2,3,4,5と人数を数え、
「あれ?」と、3人で首を傾げた。
「ま、違うかもしれないし、待ってみようか。」
小さく見える人力車と思しきものが
次第に大きくなるのを眺めながら暫し待った。
俺たちの膝上程の草の上に辛うじて頭だけ出る程の背丈で、
熊猫みたいながピョンピョンと跳ねながら人力車を引き近づいてきた。
「あちゃ~、参ったなこりゃ。」
横1列に停めると先頭にいた一番横にデカい男が、
見た目とは違い渋い声をあげておでこを2度叩いた。