春の精霊祭 ~ ケービヨンの南のギルマス ユピレス ~
【3月17日】
起床後、出発の準備をしながら投入数を確認する。
寝る前に見た時はまだチーム内ランキングは変わっていなかったのだ。
いつ入れたかは分からないが、ハクシロンとニーチャも
2400になっていて、掲示版には新たな書き込みマークが出ていた。
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ハクシロン>2400は冗談半分だったんだけどね。
ニーチャ>頑張りました。ZZzz..
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ニーチャのコメントを見るに、遅くまで無理させてしまった気がする。
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なおと>先はまだ長いし、あまり根詰めないでね。
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コメントを返すが、リアクションは暫く無かった。
寝ているのだろう。
クヌキの祠 13層。
今日から1つ先の層へと進むが、やり方は変えない。
A班も12層でレベリングした甲斐があって、
予想よりペースは落ちずに済んだ。
夜8時半前、825個飴を稼いで切り上げて祠を出た。
ギルド前まで行く道中、小腹が空いたので
ちょっとだけ買い食いしていく。
夜飯は越川で用意されているので、
お腹一杯で帰るのは気が引ける。
丸菱デパートの前の通りは夕方になると
飲み屋が広がり、この時間になるとほろ酔いの冒険者が
ちらほらと見かける。
袋に入れてもらった串焼きを食べながら
飴を投入しながらゆっくり歩く。
今日もまだ誰も投入していないが、
手持ちを全てを投入し、3462個で暫定一位となった。
ま、すぐにキュカータさんに抜かれるんだろうけど。
【3月27日】
春の精霊祭イベントも、明日で終了だ。
今日は引換券で精霊檸檬シリーズの防具一式を交換し、
早速装備してみた。
薄っすらと黄色に着色されており、所々に檸檬の模様が
描かれているが、派手さはない。
悪くない。
周囲でも防具の一部や武器など精霊檸檬シリーズを
装備している人を見かける。
防具一式は俺だけといった感じ。( ̄▽ ̄)
集合まであと10分くらいあるので、
誰も座っていないテーブルに腰掛、
疲れのせいか、ウトウトしてしまった。
「おい、兄貴起きろよ。」
パワルドが俺の方を軽く揺らしながら起こしてくれた。
「おっと、すまない。」
「大分お疲れのヨウで。」
「さ、あぁしも疲れたから、早く帰るわよ。」
ララ・リリ姉妹、ニャルマーもテーブルの横にいた。
20分ほど、寝ていたようだ。
そして、テーブルの向かいには、手に書類を持った中年の男性が
座っていて俺たちの会話をじっと聞いていた。
「あの、何か?」
寝てる間は書類に目を通していたようだが、
なぜか今は俺の顔をずっと見ているその男に尋ねた。
「君達が、かの噂のゴドロンバーティーだよね。
リーインフから話は聞いてるよ。
ああ申し遅れた、私がここでギルドマスターをやっているユピレスだ。
よろしく。」
「あ、はい、こちらこそよろしくです。
で、えっと、そのギルドのお偉い方が何か御用で?」
「いや、イベントが終わってからなんだけど、
1つ頼みたいことがあってね。
もちろん君達にとっても美味しい話なんだが。」
一度パワルドとニャルマーの方に視線を向けると、
アイコンタクトで話を聞くことにした。
「どういった内容か、詳しく聞いても?」
「興味を持ってくれて助かる。
実はこのギルドの地下にマテカ空間への転移陣があるのだが、
その地へ訪れて、モンスターを減らしてきてほしいんだよ。
マテカ空間へ転移できるのは4月1日のみで、
行ける人数も限られているんだ。
そこで、有能な君たちにお願いしたいという事なんだよ。」
「1日だけの討伐依頼?」
「語弊があったね。
転移できるのは4月1日だけだが、
向こうで2週間ほど滞在してもらうことになり、
その間はこちらへ戻ってくることは不可能だ。」
ユピレスは時折視線を俺から外しながら説明した。
「どうする、行ってみる?」
「面白そうだし、いいんじゃねぇか。」
「しばらく行くことになるんであれば、
それなりにこちらの方も。」
ニャルマーは右手でお金を表現していた。
「まぁ精霊祭イベント並みには。ただ、」
ユピレスは少し呆れながら報酬を約束しつつ、
ララ・リリ姉妹をチラリと見た。
「はぁ、あぁし達も一緒ってことね。」
「察しが早くて助かるよ。」
ララが嫌そうに答えると、ユピレスはホッとした表情になった。
「なんか2人も巻き込んじゃったみたいで。」
「いえ、巻き込んだのはドチラだか。」
リリはユピレスを見下すように睨みつけていた。
「おお、視線が痛い。
ま、近くなったらまた声かけさせてもらうよ。
じゃ、イベント頑張ってな。」
逃げるようにユピレスは去っていった。
「本命は2人だったのかもな。」
パワルドはララ・リリ姉妹を見た。
ここでの実績を踏まえれば、ぽっと出の俺らより、
彼女達の方が信頼はある。
つまり、俺たちは2人を誘うためのダシにされたってことか。
「さ、早く帰りましょ。
ここにいると余計なことを頼まれるから嫌だわ。全く。」
ララは膨れながら出口へと歩み始め、
俺たちも後を追った。
馬車に乗り込み、揺れる社内でランキングを確認した。
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1位 キュカータ 13994個(+0)
2位 なおと 12342個(+896)
3位 ララ 11225個(+810)
4位 リリ 11158個(+798)
5位 ニャルマー 10456個(+776)
6位 パワルド 10448個(+774)
7位 ハクシロン 8899個(+0)
8位 ニーチャ 8820個(+0)
【チーム合計:87,369個(1320位)】
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3日間ビハインドのあるキュカータさんには
あっさりと抜かれ今日まだ投入していないが
それでも1位を維持している。
ハクシロンとニーチャはメッセージで必ず追い抜くとだけ言い残し、
10日目から増減がない。
キュカータさんが寝ずにやっていると聞いて相当無茶をしていそうだ。
最終日である明日に一気に投入するつもりなんだろう。
もうチーム合計投入数は前回を超えている。
チームのランキングも楽しみだ。