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BFT-008「力の責任」



「いっけー!」


 叫びに応えるかのように、手の中の剣が光を増して、ゴブリンを切り裂いた。

 確かな手ごたえ、そして確実に減る魔力。


 続けて、近くにいるゴブリンに襲い掛かる。

 逃げようとするゴブリンの背中に小さな火槍がささり、動きを止めたところに僕がトドメ。

 あるいは、カレジアが足を縫い付けるようにした相手をそのままざっくりと。


 まるで弱い者いじめのようだけど、命を奪い奪われの関係は何も変わっていない。

 ただ、僕が自分の力を確かめているという状況は特別だった。


「大体見えてきましたね、マスター」


「連続だと回復や軽減も追いつかないけど、それを考えれば運用可能っと。いいじゃない、主様」


「普段は、剣自体はそのままでよさそうだね」


 そう、先日覚えた(という考えが合ってるかはわからない)新しい力である、魔力剣の実験だ。

 あの時、必死にスピリットを倒していて、ふらついたように消耗がそこそこあると考えた僕たち。


 その考えは的中して、今のところ限界があることはわかった。

 戦い方や、かかった時間で回復が絡んでくるので正確なところはわからないけどね。


「これで最弱は卒業ね! 下手に武器を買い替える必要もないんじゃない?」


「買い替えは元々、あんまりする予定はなかったけど……最弱はどうかなあ」


 褒めてくれてるだろうラヴィには悪いけど、あまり強くなった自覚がない。

 そりゃ、出会った頃よりは強いんだろうけど……まだ探索者としてのランクも上がってないのだ。

 最低ランクのF、その中ではまあ上澄みかなってところかな?


「さすがマスター。満足せず、上を向くのですね」


「ま、当然ね! 私たちだって今のランクで止まる予定はないんだもの!」


 小さな体で、僕を見上げるカレジア。そして胸を張るラヴィ。

 どちらも、微妙に成長している。


 そう、成長しているのだ。妖精は、道具じゃないと僕が思う理由の1つがここだ。

 かなり大変だけど、妖精は成長する。

 ギルド的に言えば、ランクが上がることがあるそうなのだ。

 これ自体は、もっと上のランクの妖精と一緒にいる探索者から得られた情報だ。


 ランク自体は上がってないけれど、2人とも戦い方に幅が増えた。

 カレジアは剣を2本使えるようになったし、投げてもしばらくは残るようになった。

 ラヴィも、火球だけでなく複数本の火槍、そして両手に炎をまとって殴りつけるなんてここともできるようになった。


 僕もまた、その影響か力が増したような気がする。

 一番の変化は、僕自身も火槍を撃つ出すことが出来るようになったことだ。


「もうちょっと練習したら、6層……やろうか」


「はい!」


「遅いぐらいよ、やりましょ!」


 急がず、慌てず。それでいて大胆に。

 いつだったか、偶然先輩となる探索者に助けてもらった時に言われた言葉だ。

 ようやく、それが実践できるだけの状況が整ったと思う。


 それに、僕たちが戦えるようになったことでやらなければならないことでもある。

 探索者は基本、自由だ。どこに挑むもよし、それで帰ってこなくてもよし。

 とはいえ、ギルドと無関係ではいられない。


 素材の買い取りなんかも、一人ではやれることが限られる。

 たくさんの素材を、買い取ってもらえるのはありがたいことだ。

 本来は商人と交渉だって自分でやらないといけないし、買い取ってもらえる保証なんてないのだから。


 そんなギルドと探索者には、ある意味のルールがある。

 それは、稼げるようになったのなら相応の階層で稼ぐこと。


 これ自体は、下層で強い人が延々と楽に稼ぎ、駆け出しとかが稼げずにいなくなるのを防ぐためだ。

 もちろん、強くなれるかは人それぞれだから、そのうちどこかで固定化される。

 あるいは、帰ってこないか。


 力の責任、そう言い換えられるのかもしれない。


「だから、僕たちが強くなったってギルドも認めてくれたんだよ」


「なるほどー、そうなのですね」


「しっかり生き残って、稼ぎましょ!」


 気合十分、後は戦って生き残るのみ!


 向かう先は天塔第6層最奥、ウルフリーダーたちの巣だ。

 リーダーたちなのに巣?と思ってはいけない。

 天塔のことは、わからない方が多いのだから。


 既に油断ではないけれど、死ぬ気のしない3層までを駆け抜け、警戒しつつ4層、5層を突破。

 順調に6層へとたどり着いた。


「7層のポータルはどこにあるかって有名なんだよ。6層を突破したすぐにあるんだって」


「つまり、ウルフリーダーたちが試練のようなものですか」


「わかりやすいけど、なんというか納得しづらいわね」


 ラヴィの言うように、微妙な気分もないわけじゃない。

 それに、僕もウルフリーダーがどこまで強いかはわからない。

 6層と5層で稼げるならまず大丈夫と言われたけれど……うーん?


「マスター」


「うん、わかってる」


 6層に足を踏み入れた僕たちの匂いを感じたんだろう。

 何かが近づいてくる気配だ。


 見えてきたのは、予想通りのグレイウルフ。

 少し、下よりも体格がいい。

 その分、毛並みも立派で牙だってより良い値段が付くだろうね。


 いつものように、警戒をしつつグレイウルフと戦いを始める。

 どこから増援が来るかもわからないし、何よりボス格のリーダーが部屋から出てこないとも限らない。

 事前に集めた情報では、出てきたことはないらしいんだけど。


(出て来た時に、生き残ってる人がいないからって考えるべきだ)


 3層までの、ゴブリンの数と同じだ。

 油断せずに、最悪を考えておくに越したことはない。


 じっくりと、確実に戦いを進める。

 出来るだけ狭い場所で、相手の動きを制限して着実に。


「貫けっ!」


「ええいっ!」


 ラヴィの炎が踊り、カレジアの剣が舞う。

 僕も二人に負けないよう、前衛として剣を振るい、火槍を放ち続けた。


 十分な量の牙や毛皮を集め、進んだ先に見えてきた大きな扉。

 この扉も、天塔が作り上げた物だというのだから、不思議だらけだ。

 なにせ、激しく壊しても翌日には直っているというのだから。


「いくよ」


 頷きを返事として、僕が代表で扉を開く。

 そうして見えてきたのは、当然のように広い部屋。

 これまでのような、僕たちに有利ではなく……。


「……いない?」


「見てください、マスター」


「何か倒れてる……大きいわね」


 扉を開いた先には、岩場と呼ぶべき空間が広がっていた。

 動く物は何もいない。いや、正確にはいた。


 部屋には戦いの跡があり、周囲に血や毛皮、肉片が飛び散っている。

 そんな中に倒れる大きな何か。松明の灯りを向けると……それがグレイウルフの死体だとわかる。

 この大きさは……ウルフリーダー?


「誰かが先に倒した直後かな?」


 実際、探索者は僕たち以外にもいる。

 たまに、こういうこともあると聞いている。

 でも、何かおかしい。


「このやられ方、人間じゃない!?」


 その答えは、奥にある通路からの遠吠えだった。

 身構える僕たちが見つめる中、何かが通路から出てくる。


 それは、ウルフリーダー。

 明らかに、倒れてる奴より体格がいい。

 理由はわからないけど、何が起きたかはなんとなくわかった。


 リーダーが、代替わりしたのだ。


 逃げるという選択肢は無かった。

 恐らく、逃げ切れないだろうから。


 だったら、生き残れそうな方法に賭けるほかない。


「生き残ろう、2人とも」


「私のすべてはマスター、貴方と共に」


「こっちもよ、主様。やりましょう!」


 想定外の、それでもいつかやらないといけないだろうなと思っていた死闘が、始まった。


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