BFT-083「見えた目標、その頂へ」
季節は、夏になっていた。
黒騎士との戦いを生き残り、31層のポータルから帰ってきた僕たちは、驚きを持って迎えられた。
わかりやすく、全身鎧を分割して運んできたからだろうね。
鑑定の結果は、大当たり。
希少な鉱石をふんだんに使っているようで、相当な物だということだった。
ただし、大きさが調整できない。
「国へと、そして配下である実力ある騎士への献上、か。町としても軽くはない借りになったようだよ」
「戦争が早く終わりそうなら、それが一番ですよ」
ギルドマスターから呼び出しを受けて、鎧の行きついた先を聞かされた。
運命のように、前線で戦う騎士に体格の合う人がいたらしい。
両手剣は……ギルドの受付カウンター、その奥の壁に飾られている。
僕もベリルも使うことが無いけど、売るのもどうかと思い、ギルドに預けたのだ。
村の名前と、僕の名前を添えて。
「もし、両親が生きていればあれを見たらってことだったな。ウチとしても、あのぐらいの物が手に入るのかってケツを叩かれてるも同然だな。新人がだいぶ増えたよ」
「あまり喜べないですね。それってつまり、倒れる人も多いってことですから」
目を伏せる僕の目には、戦いの跡がわかる自分の防具が映る。
まだ全然使えるけど、細かい傷が増えてきたかな?
そろそろ買い替えというか、考えないといけないだろうか。
「それはいつの時代も変わらない。天塔がある限り、な。君たちが遭遇した希少な階層は、他に生存報告が無いというだけかもしれん。今のところ、報告はない。まさに、幸運だったようだ」
「わかりました。じゃ、今日も生き残ってきます」
それだけを告げて、部屋を出る。
何度もこういう場所に出入りすることになるとは、夢にも思わなかったってやつだ。
そっと、目立たないようにと扉を開けば、ちょうどよくあまり探索者のいない時間だった。
テーブルの1つには、僕を待っているカレジアたち。
「お待たせ。特に問題はなかったよ。鎧が役立ってるってことは聞いたけどね」
「よかったわね! 鋳つぶされないか心配していたもの」
「あのままじゃないと、力が失われるかもって言ってましたよね」
頷きながら、情報を集めていただろうベリルとアイシャに向き直る。
僕も座れば、いつものように作戦会議だ。
家でやってもいいのだけど、聞かれても真似できないだろうということでこっちでやることも増えた。
たまに、フレアさんたちと交流できるからというのもあるんだけどね。
最近は、別の天塔に登ることを誘われることも増えた。
今のところ、1本目を登り切ることを目標にしてるから断ってばかりだけども。
「たぶん、朗報だ。長い間行方不明扱いだった探索者が戻って来たそうだ。本人達は、まだ一月ぐらいの感覚だったらしいが」
「それって……!」
思わず腰が浮く。
はやる気持ちを抑えて、座り直す。
「ああ。察しの通り、上層だ。階段かと思ったら、また別の場所に転移したそうだ。可能性は、つながったな」
「お婆様に、携帯食料の確保を依頼しておきましたわ。準備が出来次第、挑みましょう」
「ありがとう……」
それだけが口に出来た。
話は、今言ってくれた通りでも簡単な物ではないのだ。
なのに、行こうと言ってくれる。
嬉しさで胸がいっぱいになりながら、今日は休みにしようということになった。
本番、35層以上へ向けての……心の準備もいる。
「いると、いいな……」
「マスター……」
口にしたつもりはなかったけれど、そうではなかったみたい。
剣を磨いている僕に、カレジアが寄り添ってくる。
黒騎士との戦いを終えて、さらに一回り進化した様子の妖精3人。
頭は太ももぐらいまでの高さになり、羽根も、翼と見まごうばかりだ。
小さいけれど、確かな存在感。それが今の彼女たちだ。
「見つかるまで、一緒よ? 当然でしょ」
「ラヴィも、ありがとう。カレジア、大丈夫」
もう夏ということで、抱き付かれるのは少し暑さも感じる。
でも、それがお互いに生きていると感じるものだという感じもあるのだ。
妖精のはずの、2人。
だけど、もう彼女たちは妖精の世界に戻れない。
戻るときは、契約を解除してお別れの時ぐらいだそうだ。
つまり、もう戻れないも同然。
「絶対に、みんなで暮らそう」
その覚悟が、僕の背中を押す。
いつものように食事を終え、夜。
どこか浮ついた、でも無事に眠くなっていくことにどこか安心して翌朝を迎える。
「じゃ、行こうか」
買い物を終え、僕たちは天塔の前に立つ。
運よく目的の階層に当たれるかはわからない。
でも、挑まなければ当たらない。
僕たちは登る。
確かな、目標に向かって。
長らくありがとうございました!
同日に新作、
俺の幼馴染が、異世界で聖女をしていると言い出したんだが。
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もよろしくです!