BFT-080「いつも通りであること」
「借金を背負って……か。にしちゃあ、人数は多かったな?」
「だよね。しかも、国境を越えてだよ?」
謎の襲撃からしばらく。
他の場所でも襲撃はあったようで、総勢は30名を超えたらしい。
中には、探索者に見えないような訓練を受けた人もいたそうだけど……。
念のため、天塔に登らずに町の護衛のようなことをして過ごしていた僕たち。
結局、追加の襲撃は無く、ちょうどいい休養になっただけなんだよね。
「あ、ブライトさんたちじゃないですか」
「今から出勤ですか」
道端で出会ったのは、ギルドの受付のお姉さん。
外で出会うのは珍しい気がするなあ。
「はい、おかげさまで。妖精のみなさんも、ありがとうございました」
「マスターのためだもの、全然大丈夫よ!」
「ええ、そうです。今日からまた頑張りますね!」
元気なカレジアたちと比べ、アイシャはいつも物静かなのが特徴だ。
今も、優しく微笑むだけ。まるで2人のお姉さんだね。
どうせならと、一緒にギルドに向かった僕たち。
扉をいつものようにくぐって、迎えてくれたのはギルドマスターだった。
「来たか。少し話がある」
何かしたかな?と思いつつ、色々したねって自分でも自覚があった。
悪い話ではなさそうだから、大人しくついていく。
案内された先は、この前話し合いをした場所と同じ。
「まずは、ウチの職員を守ってくれて感謝する」
「いえ、お世話になってるのは僕たちの方ですし」
実際、ギルド抜きで探索を続けるのはなかなか難しい。
物を抱えたまま、売れるまでどうしようって悩むのは間違いない。
売る先も、自分たちで探さないといけないわけだし……。
一番の問題は、国や町なんかを除けば身分を証明してくれる唯一の組織ってことだ。
「先日の騒動だがな、裏がある程度取れた。と言っても奴らが吐いた内容が主だがな。借金の単位は金貨だそうだ」
「一体いくら……どうやったら逆にこんな借金背負えるんですか?」
「個人で作れるような金額とは思えないぞ……」
こちらの世界の相場とかは、わからないらしいカレジアたちは静かにお茶を飲んでいる。
そんな姿も可愛らしいなと思いつつ、意識を借金額に戻した。
「どうも、護衛依頼を受けたはいいが、失敗した上に運ぶ物を紛失、奪われたらしい。しかも、相手は怪物ときたもんだ」
「細かい話は聞かないようにしておきますよ。僕も田舎者ですけど、それでこれってことは、国がらみですよね」
あまり、踏み込んでも面白い話にはなりそうにない。
もしかしたら、その依頼自体仕組まれた……いや、考え過ぎかな。
そう感じて、話を切り上げた。たぶん、これだけじゃないからだ。
「まあ、そうだな。では本題に入ろうか。これはお前たちだけじゃないのだが、特に戦争に参加する気が無いのなら、普段通り天塔で稼いでもらいたい」
「? 言われるまでもないけど……ああ、そうか。天塔、クリスタリアは健在、何も影響はないってことか」
頷きが、ベリルの話を肯定する。
僕も、そっと剣の柄に手をやって撫でつつ考える。
直接戦わずとも、力になれるというのならそれはありがたい話だ。
「わかりました。このまま30層目指して進みます」
「よろしく頼む。そうか、30か……脅すわけでは無いが、上層に探索者が少ないのは何も、実入りが少ないとか、怪物が厄介とかそれだけではないのだ」
「どういうこったよ。何か知ってるのか?」
空気が、変わる。
僕も、聞いておきたかったことだ。
43層が最高とは知ってるけど、具体的な情報が全然出てこない。
「目撃情報が、一致しないのだよ。どうも、登る人間、あるいは日にちによって中が異なるらしい。翌日登ると、まるで別の世界にいったようだ、と報告がある」
「別の世界……」
十分、今でもそれぐらいな気がする。
でも、ギルドマスターがそういうってことはそれ以上ってことだ。
不安のような、楽しみのような気持ちを抱えつつ、部屋を出る。
期待している、なんて去り際に言われたけど……どこまでだろうね?
「とりあえず、28層で慣らしていくか」
「うん。カレジアたちもそれでいいかな?」
「勿論。マスターの望むままに」
「そうね。飛竜の稼ぎもいいし」
と、一人静かなアイシャに目を向けると、なんだか考え事の様子。
隣を歩くベリルを肘でつついて、僕はポーション補充を忘れてた!なんてわざとらしく。
カレジアとラヴィを連れて、少し寄り道だ。
「あれ? 主様、いつも通りの本数あるじゃない」
「ふふふ。わざとですよね。お二人が話せるように」
まあね、と軽く答えて、一応プロミ婆ちゃんの店に顔を出す。
襲撃の際、外での戦いだったからかお店の方は綺麗なままだ。
「小僧1人かい。ああ、この前の礼だよ。持ってきな」
「っとと、お婆様、これは?」
カレジアたちに投げられた小袋2つ。
ほのかに、何かの香りがした。
「虫よけさ。怪物には効かないが、そこらの虫には役立つよ。上に登るんだろう? あると便利なはずさ」
「頑張って稼いできますね!」
香りが気に入ったらしいカレジアの元気な声に、婆ちゃんも微笑むのがわかった。
やっぱり、お婆ちゃんになっても女性は女性……このぐらいにしておこう。
こまごまとしたものを一応買い、店を出て天塔にいった頃には、ベリルたちも待っていた。
さて、天塔攻略も再開だ。