BFT-079「迫りくる悪意・後」
咄嗟に割って入った形の僕の腕に、不審者の刃が食い込んだ。
正確には、刃が食い込んだように見えた、かな。
「あいにく、特別なんだよね! 僕のこれはっ!」
腕まである、着込んだままのチェインアーマー、それが攻撃を防いだ。
衝撃までは殺せないから、腕に刃が沈んだように見えただけなんだよね。
後で怒られるかもしれないけど、そのまま右手を不審者の正面に突き出し、魔法を実行。
威力はほとんどない、火球もどきだ。
大きな音が響き、不審者が吹き飛び……おおっと、早いな。
吹き飛んだ側にいた探索者が、不審者を押さえつけている。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。無言で近づいて来たかと思ったら、急に……」
言葉を遮るように、物音が響いた。
最初は天井、そして扉。
窓という窓から、人が飛び込んできた。
「伏せて」
状況はわからないけど、訓練ってわけじゃなさそうだ。
さっき吹き飛ばした相手と違い、全員顔がわからない頭巾をかぶっている。
カレジアたちは……うん、まとまってるね。
あっちはなんとかなるだろうから……。
「ご用件は? 天塔に登りたいなら許可がいるけど」
敢えて、おどけた言い方をした。
さすがの僕も、相手が本気かどうかぐらいはわかる。
ギルドの建物内にいる探索者は多くない、むしろほとんどいない
そういう時間帯だし、仕方ないっていえば仕方ない。
あちこちで、追い込まれ気味に不審者とにらみ合いっていうところ。
「小僧!」
だから、僕のこの戦いが色々と流れを決めそうだった。
叫ぶという、一流じゃないことを僕に知らせてくれた相手の攻撃は……遅い。
これなら、天塔の怪物の方が早くて、脅威だ。
長物は持ち歩けなかったようで、やや大きいけれどナイフに留まる攻撃を回避し、腕を取る。
そのまま、体をひねり、転がす。
単独での行動じゃないなら……っと、ここはギルドの中だった。
「凍れっ!」
そのまま切り付けようとして、今の場所を思い出す。
独特の音を立てて、氷漬けになる不審者。
周囲の気配が、変わった気がする。
「まさか、探索者より自分たちの方が弱いって、考えなかったとか?」
かなり挑発的だなと自分でも思う。
でも、こんなことをするのはこの国ではありえない。
であれば、あり得るのは他国の人間だ。
それに……ドラゴンの気迫と比べれば、そよ風みたいなものである。
1歩進むと、他と相対していた不審者たちが、なぜか僕の方に集まってきた。
「ふうん? じゃ、行くよ」
焦りを顔に出さないようにし、対応する覚悟を決める。
こっそりと、ドラゴンの加護みたいな力も、解放だ。
それからの行動はあっという間だった。
ひどくあっさりと、不審者を迎撃することができた。
残念ながら、血は流れてしまったけれど仕方がない。
生き残った形の不審者を数名、尋問することにした。
その間も、外の様子を見ると騒ぎはいくつかの場所で起きてるようだった。
「戦争に勝つために天塔を抑えにきただあ!?」
「ベリル、僕は詳しくないけどさ。そんなことを、ぺらぺらと喋るかな?」
聞こえて来た内容に、思わず疑問を口にする。
そういう考えの人はいるだろうけど、それを実際に喋るかというと話は別だ。
そんな僕の元に、カレジアが何かを持ってくる。
受け取って確認したそれは、クリスタリアのギルド証に似たもので……。
「西にあるっていうダンジョン、そこの探索証だ。こいつら、同じだよ。依頼を受けたか、自発的に稼ぎに来た探索者、もしくは冒険者だ。よっぽど金に困ってんだろうよ」
「にしたって……」
ほとんど僕1人にやられた形の不審者たち。
普通、こういうのは実力がある人がやるんじゃないかなあ?
ああ、それがわからないぐらいの人が受けちゃったのかな?
「鋼鉄の武器をああも簡単に……化け物ばかりかっ」
1人の言葉に、はて?という気持ちが沸いた。
確かに、僕は彼の持っていた武器を真っ二つにした。
逆に言えば、それだけしかしてない。
フレアさん達なら同じようなことを出来るだろうし……って。
「天塔って、他と比べると厄介なのかな?」
「だろうな。それより、外をどうにかしないと」
ギルドの制圧が失敗に終わった以上、彼らの作戦は失敗そのものと言えるけど、確かに放っておけない。
不審者たちを縛り上げ、僕たちは外へと飛び出した。
「マスター、お婆様のお店に行きませんか?」
「そうね! 知らないと、襲いやすそうってなるんじゃないかしら」
確かにその通りなので、5人で駆ける。
すっかり慣れた道も、今日はどこか違って見えた。
「ブライト様、間に合ったようですわ」
「俺が先行する。頼むぜ」
どういう理屈かわからないけど、お店の外であの全身鎧が動いていた。
誰かと、戦っている。
速度を上げたベリルを追いかけるようにしてすべり込み、不審者を撃退する。
時間で考えるとあっという間だった事件は、不穏な気配をクリスタリアに刻むのだった。