BFT-007「力の一端・後」
「ほらほら、こっちだよ!」
「てめえらの足じゃ、追いつかねえよ!」
思いつく限りの悪態をついて、逃げる僕と探索者。
聞こえてるのか、他の何かでかはわからないけど敵は近寄ってくる。
(こわっ、近いとすごい顔してるっ!)
遠目には、ただの幽霊にしか見えなかったスピリット。
でも、近くなるとその顔は恨みつらみを凝縮したようなものになっていた。
一体どこでどうなったらこんな姿になるというのか。
「燃え尽きなさいっ!」
「そこです!」
今のところ、スピリット相手に有効な攻撃が出来ない分、囮に徹しているのだ。
わざと相手の間合いに踏み込んで、注意を引く。
そうしてその隙に……と。
「うひっ! ちょっとひやっとした。おい、触られると魔力かなんかもってかれるぞ!」
「了解っ!」
さすがにソロで4層まで来ただけのことはあり、僕よりも動きが良い探索者。
あまり余裕で避けると、カレジアたちに向く奴も増えるというところからなんだろうな。
「こっちへ! まだマシそう!」
「本当だろうなあ!? おっとと」
何故だかスピリットの気配というべきものを感られるのは僕だけ。
それに従い、ポータルを探しながらも出来るだけ薄い方へ。
幸い、罠ということは無く4層をそれなりに進み……。
「主様、あったわよ!って」
「これは……」
(そうだよね、壁抜けして来るよねえ!)
思い返せば、そもそも最初に見つけたときも壁から出て来てた。
何かというと、ポータルの周辺にたくさんのスピリットが湧いてきたのだ。
「どうする? 妖精に片付けてもらうにもちょっときつそうだぜ」
「打ち漏らしは出てくると思います……あの数だと」
もう、スピリットのほうが視界では多いぐらいにぎゅうぎゅう詰めだ。
そりゃ、ラヴィの魔法で巻き込みやすくはあるだろうけど、限界がある。
よくわからないけど、ポータルのある場所を中心にゆらゆらと動いていする姿は守り手のようだ。
「僕にも魔法が使えればなあ……?」
ぎゅっと剣を握りこんで、気が付いた。
この剣は、ただの剣じゃあない。
カレジアという妖精を呼び出した、魔力を飲む剣だ。
そんなカレジアは魔力で剣を作り出す。
ラヴィだってそうだ。僕からの魔力が指輪を通して……。
「おい、なんかお前の装備、光ってんぞ」
「え? 本当だ……指輪の石と、剣の穴……」
スピリットを警戒しながら、光ってる同士を合わせて……ちょうどよくはまった。
瞬間、何かが頭を駆け巡る。
誓いと、願い? 自覚した者に力と責任を?
「先輩に聞いたことがあるぜ。契約者は、妖精の力が借りられるんだと。ランク的に弱いっても妖精なんだろ? やれんじゃねえのか?」
「うん。やってみる」
誓いの言葉は、必要ない。
なぜなら、もう契約の時に交わしているのだから。
でも、だからこそ僕は改めて口にする。
「誓いの言葉の元に、この手に願いの力を!」
途端に、僕の胸の付近から剣と指輪にどんどん魔力が動き、いつしか剣は光のソレになっていた。
指輪もなんだか、ちょっと豪華な感じ。
この力は、前途を切り開く力だ、そう直感が示す。
魔力の剣、これが僕の新しい力。
「マスター」
「主様」
「うん、やろう。隙間が出来たら飛び込んでくださいね」
「お、おう」
高揚する気分をなんとか制御しつつ、突っ込む。
近づいてくるスピリットに、今までなら無駄だった剣を叩き込み……見事に切り裂いた。
すり抜けたのではなく、手ごたえありだ!
斬って斬って、ラヴィの魔法で燃えて、カレジアの剣で貫かれて。
いつしか、スピリットの数は減っていた。
「増援がまだ来る!? 負けるか!」
と、消耗が激しいのかふらりと……。
「どりゃあ!」
そんな僕を抱きかかえて横っ飛びしたのは、先に逃げたかと思った探索者だった。
僕に襲い掛かろうとしたスピリットは2人の手によって消滅。
「おい、礼を言う前に勝手にピンチになるなよ」
「あはは、助かりました。あれ? 何か落ちてる」
座り込みながら、ポータルを見ると周囲に光るものがたくさん。
カレジアたちが気をきかせてか、拾ってくれたそれらは……魔晶っぽい。
「売れるかな? 拾って、帰りましょうか」
「命があるだけめっけもん。助かったぜ」
そして、僕たちは生き延びた。
その足でギルドに向かい、謎のスピリット発生と、切り抜けたことの報告。
生き残ったことに驚かれたけど、逆に僕たちは拾った魔晶っぽいもので驚かされた。
「そんなに高いんですか?」
「ええ、言うなれば怪物になる前の魔晶、ってことかしら。効率が全然違うのよ」
確かに、妙に透き通ってるというか、見た目のわりに重かったのもそのせいかな?
妖精がいないと倒せないスピリット、でも倒せれば儲けも多い……。
なるほど、妖精がいると稼ぎが違う訳だ。
結局、4層に何日もこもっているぐらいの儲けになった。
その半分を、僕は生き残った探索者に渡すことにする。
妖精はこういう時、頭数には入らない。
もっとも……。
「ああ? なんでだよ。俺だけじゃ死んでた。なんとかなったのはそっちの力だろ?」
「そうかもしれませんけど、一緒に戦って、助けてくれたじゃないですか」
甘い、そう言われる気もする。
たぶん、彼の言うことの方が探索者的には常識なのだ。
頭割りを気にする探索者があまりいないのも、これが理由。
でも、それでもだ。
「受け取ってください。いいじゃないですか、ぼろもうけですよ」
「……わかった。代わりに、何かあれば付き合う。天塔内で出会ったら気にするぐらいはする、でいいか?」
「うん、よろしく」
まだどこか戸惑いのありそうな彼を見送って、一人微笑んだ。
「マスター、嬉しそうです」
「そりゃあれよ、私にカレジアがいるみたいな気分なのよ、きっと」
元気な2人の声を足元から聞きつつ、体を休めるべく宿へと向かう僕だった。