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BFT-077「後ろではなく、貴方の隣に」


「はい、確かに。ぐっと量が増えましたね?」


「少し、思うところがありまして。あ、無理はしてませんよ。怪我も少ないでしょ?」


 精算を終えた後、受付のお姉さんに心配された僕はわざとらしくその場で体をひねって見せる。

 実際、かすった時の服の破れ以外、装備に痛みはない。

 もっとも、僕の今の装備は着替える服の部分以外、特注品同様なのだけど。


「立派なことですよ。このランクじゃ、ブライトさんたちが一番稼いでます」


「そうなんですか? へぇ……」


 これは演技ではなく、本当に驚きだ。

 それなりに稼いでいる自覚はあったけど、まさか一番だとは。

 もちろん、上のランクとなればまた違うんだろうね。


「また灯り石があったらお願いしますね。夜間の薪が節約できるって人気なんですよ」


「あー、これから温かくなると暖炉は暑いですもんね」


 冬場は、暖を取るついでにたき火とすればいいけど、春、夏となればそうもいかない。

 そのための灯り石……魔力を込めると光る不思議な天塔で採取できる照明だ。

 ちなみに、冬場に凍えて死んでしまう人が皆無という点で、クリスタリアはやはり、普通じゃない。


 だんだんと、大きくなっている気がするクリスタリア。

 僕はここで、何が出来るのだろうか?

 そんなことを考えながら、カレジアたちを迎えに行く。


「やあ、ブライト君。終わったかね」


「はい。問題なく。どうです?」


 迎えてくれた探索者、フレアさんに声をかけながら、僕も彼女と同じ方を向く。

 そこでは、カレジアが先輩となる妖精たちと特訓をしていた。

 見たことがないから、炎竜の牙所属の他の人たちの妖精かな?

 自分より大きい相手に、ひるむことなく向かっていくカレジアの姿は……僕の胸を打つ。


「ベリル君とアイシャは、何も心配はいらないね。順当に、強くなっている。ラヴィは……ここでは被害があるから、天塔で実践するしかないが、もっと大胆にいっていいだろう。そして彼女は……よく見てみたまえ」


「……! 汗……!」


 動きを見ていた僕は、そのことにひどく驚く。

 妖精は成長し、一定の条件を満たすと進化するという。

 実際、カレジアやラヴィ、それにアイシャも進化している。


 その進化は、良い事だけということでもない。

 それまでは暑さ寒さも感じず、下手をすると痛みも薄い。

 けど、今の彼女たちは寒さを感じ、これからの季節は暑さも感じるだろう。


 そばで火球がさく裂すれば熱がり、お腹もすいたというかもしれない。

 それに、汗をかくなんて……まるで……。


「人間みたい、だろう?」


「ええ、はい。そうとしか言いようが……」


 わかっていた、つもりだった。

 彼女たちが、進化する意味。

 そもそも、進化とは、と。


「妖精との契約……あれは元々、妖精と人間が共に暮らすための苦肉の策だったそうだ。寿命も、何もかもが違う2種族。それでもという願いの結果」


「苦肉の……? 普通には、どうしようもない?」


 フレアさんは、僕よりも多くのことを知っているようだった。

 現に、彼女の妖精、ウィルナだったかな?は小柄なだけでもう人間同様だ。

 知らなければ、妖精と思うことは無いだろう。


「私の相棒、ウィルナはもう妖精の世界に戻れない」


「え……」


 思わずフレアさんを見ると、その表情は今にも泣きそうな、不思議な表情だった。

 後悔……はなさそうだ。


「妖精がこちらに来ている間に死んでも、本体は死なないというような話は聞いただろう? 進化するということは、その関係を変えるということにつながるらしい。いってしまえば、こっちの世界に自分という本体を新しく生み出す行為なのだ」


「実際、妖精の世界にいる私と、今の私はもう別物、独立した状態です」


 不意にかけられら声。

 振り返った先には、水桶を抱えたウィルナがいた。

 さん付けは、他人行儀過ぎると怒られたので呼び捨てである。


「私が言うまでもないと思いますが、既に彼女たちもその片鱗を掴んでいます。どうか、お見捨てにならないよう」


「勿論。僕の相棒は、2人しか考えられませんよ」


 と、そんな時だ。独特の何かが抜けていく感覚が体を襲う。

 カレジア、そしてラヴィとつながっている僕から、ぐぐっと魔力が持っていかれる感覚があった。


 顔をそちらに向けると、カレジアが先輩の妖精を前に、剣を掲げて何事かを叫んでいる。

 光に包まれるカレジア、それが収まった時……そこにいたのは、倍ほどの大きさとなったカレジアだった。


「なっ!?」


「ほう……身に付けたようだね。新たな力、妖精の信頼と、願いの証。主と同じ存在に至る、共鳴だ」


 先輩な妖精たちとほぼ同じ大きさになったカレジアが、反撃とばかりに突撃し、戦いが続く。

 その間も、僕からじわじわと力が吸い取られていく。


「一時的な、変身みたいな物ですか?」


「そうなりますね。スキルですから、何度も使って鍛えてあげてください」


 聞こえる声に、僕はただ頷き、嬉しさに輝いた笑顔になっているカレジアを見つめていた。




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