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BFT-076「誓い」



 28層でのリザードマン、そして飛竜との戦いから数日が経過していた。

 あの日、都合3匹の飛竜を倒すことができた僕たちは、そのほとんどを売り払っていた。


 探索者たちの視線を感じながら、強くなったということを自覚するべく、自信に満ちた態度を心がける日々。

 生き残り、稼げる探索者が、優秀だというのは僕もわかっているからだ。


(ベリルも、少し変化があったみたいだったな……)


 今日は、とても静かな夜だった。

 一人、毛布にくるまりながらぼんやりと窓からの月明りを見る。


 思い出すのは、戦いの事。


 飛竜は3匹とも、敢えてベリルにとどめを刺してもらった。

 特に、僕がそうなったように血を浴びるようにして。

 危険はないわけじゃないけど、彼自身が望み、僕も彼の決意を拒否するようなことはなかった。


 結果、僕ほどじゃないけれど確かな変化はあったらしい。

 数日はゆっくりしたほうがいいかもしれない、そう告げてベリルとアイシャは自分の家で静養中だ。

 僕もまた、カレジアとラヴィと一緒に、ごろごろしている。


(物音……どっちかが屋根に登ったのかな)


 僕も少しばかり、寝付けないところだったので気になってきた。

 そっと、屋根に登れるはしごに向かい、足をかけた時だ。

 外からの声が、静かに聞こえて来た。


「カレジア、気にしてるの?」


「うん。ラヴィ……私、マスターの役に立ってるんでしょうか?」


 ぴたりと、動きが止まる僕。

 結果的に、聞き耳をたてる姿勢になってしまった。


「役に立ってないなんて、私は思わないわ」


「うん、うん。ラヴィは優しいもの。マスターもそう。だけど、最近感じるの。足りないって」


 小さく、それでいて感情のこもった声だった。

 僕はその声を聞きながら、最近の彼女の様子を振り返っていた。

 どこか様子がおかしかったのは、この事で悩んでいたんだろうか?


 確かに、攻撃力という面ではラヴィと比べて、カレジアは低い。

 急所を狙ったり、新しく覚えたような戦い方をしていけば戦える。

 そう、戦える、なのだ。


 どうしても、大きさの問題は攻撃力に直結している。

 大きな相手に切りかかっても、切れ味でしか勝負できないのは確かなのだ。


「魔力を消費していけば、戦える。でも、それだけ。その点、ラヴィは……ごめん、卑怯ですよね」


「ううん。遠慮しないでよ。双子みたいなものでしょ、私たち」


 屋根に通じる場所から、月明かりがはしごに注がれている。

 僕は暑くもない、寒くもない光の中で、自身を責めていた。


「きっともっと上にいったら、もっともっと、怪物はすごくなっていくと思うの。属性石が見つかれば、確かに力が増える。だけど私は……」


「多少は強くなるかもしれないけど、追いつけなくなるのが……怖い?」


 見えないけれど、きっとカレジアはラヴィの言葉に頷いているんだろうという予感があった。

 工夫すればなんとかなる、は工夫しないとなんともならないと同じで、彼女はそれを悩んでいるのだから。


「ねえ、ラヴィ。私の分の……契約を……」


「駄目だよ、カレジア」


 文字通り、僕は屋根まで飛んでいた。

 はしごに手をかけての動きだったけど、一息に飛び上がれた。

 床が抜けなかったのが……幸いだね。


「マスター!?」


「主様……」


 聞いてたのね、なんてラヴィの視線を感じつつ、カレジアの前に行く。

 小さい、本当に小さい体。

 月明りで、いつも以上に白いその体を、ラヴィと一緒に抱きしめる。


 もっとも、すっぽりと僕の腕の中に2人とも入ってしまうのだけれども、


「僕は、2人以外の妖精と契約するつもりはないよ。もっと言えば、2人が良い。どちらかなんてのも考えられない」


「でも、マスター。今のままじゃ……」


 登るのには限界がある。そう言いたそうな彼女を、さらに抱き寄せて自分の体に押し付ける。

 ちょっと卑怯かなと思うけど、そうでもしないといけないなと思ったんだ。


「大丈夫。なんとかなるさ。駆け出しだった僕が、僕たちが……ここまで来たんだ」


「そうよね。最初はゴブリンでひどい目にあったものね」


 腕の中で、ラヴィも笑い出す。

 ああ、そんなに前の事じゃないのに、遠い昔のようだ。

 あの日の、出会いの瞬間ははっきりと覚えている。


「順番にじゃなく、2人同時なのは運命としか言いようがないと思う。出会いに、意味がある。僕はそう信じてるよ。2人はどうだい?」


「私は……私も、信じたいです!」


「言うまでもないわよね」


 そういってこちらを向くカレジア、ラヴィの髪が光る。

 金と銀、2人の輝きは……出会った時から僕の目に焼き付いている。

 どちらかだけじゃ駄目で、両方いないと……。


「カレジア、悩むななんて言えない。でも、一緒に悩もう」


「マスター……はいっ!」


「仕方ないわね。やれるだけやりましょ」


 先送り、その場しのぎ。

 人によってはそう言われるかもしれない。

 だけど、僕にとっては3人で一緒にいることのほうが大事だと思ったんだ。


 胸を濡らす、涙の意味。

 そのこともまた、僕の覚悟を後押ししていくのだった。





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