BFT-075「居場所」
外が春の芽吹きに喜ぶころ、僕たちは……階層を一気にあげていた。
といっても、3層分、だけども。
「いた……やっぱり、大きいね」
「ああ。パピーとは違うな」
たどり着いた28層、そこは竜種の出る階層だった。
主な相手は、リザードマンと呼ばれる、鱗がありつつ人型を取る怪物だ。
そんな中に、たまにという形でドラゴンがいるという情報。
数が少ないけれど、情報として先に得られるというのは本当にありがたい。
一度後退し、作戦会議というところで先輩探索者たちによる情報提供の話となった。
もっとも、肝心の儲ける部分とかは各自の秘密で、生き残るための怪物情報なんかが主な内容だ。
「俺たちの場合、参考にならない部分があるって言われるのは、ちょっとばかし悲しいな」
「仕方ないよ。3人とも飛ぶし、バランスが良すぎるって言われてるからね」
先にいくらか、倒すことができたリザードマンの武具。
それを、ポータル付近に立てかけながら会話を続ける。
どう見ても、攻略しようというようには見えないのは問題かな?
「ひとまず、ドラゴン相手の作戦だな。パピーと比べてスリムだし、飛ぶぐらいはしてきそうだが」
「岩場の上にいましたから、どちらかというと飛竜の類なのではないでしょうか?」
「浮いてるこっちを見ていたような……気のせいかしら?」
僕も考え込む。実際、空を飛ばれたままだとしたら、取れる手が減ってしまうからね。
それこそ、妖精3人だけの戦いは……正直回避したい。
飛ぶ前に、あるいは飛ばれても地上に降ろす方法を……。
「カレジア? 大丈夫?」
「え? は、はい! 私は大丈夫ですよ」
どこか心ここにあらずといった様子だった彼女に話しかけると、思ったより大きな返事が返ってきた。
僕も、ベリルたちも驚いてこちらを振り向いたぐらいだ。
「ならいいんだけど。さて、一度当たってみてやばそうなら逃げよう。ラヴィ、逃げる時はよろしく」
「任せて! 威力はないけど、脅かす感じでいいんでしょ?」
仮にも、ドラゴンにどこまで通じるかはわからないけれど、逃げる方が大事だ。
改めて陣形を組みなおし、進む。
そうしてる間も、カレジアはどこか元気がなかった。
気にはなるのだけど、その前に敵はやってくる。
「リザードマンが10。蹴散らすぞ」
「了解っ!」
少し開けた場所で、森のような場所から相手も出て来た。
手槍を投げてくるのを、弾いたり魔法で防いだり。
そうして、接近戦が始まる。
「間合いに入ってしまえば!」
相手は、槍。
であれば、間合いに入って左右に揺さぶるのみだ。
もしも、相手が普通じゃなければこの手は通じないかもしれないけどね。
僕もまた、普通じゃない。
相手が槍を引く前に、地面に足をめり込ませる勢いで一時的に力を解放する。
外のドラゴンの血を浴びて、なんらかの力を得たらしい体は魔法でも使ったかのように前に体を押し出した。
「次っ!」
その勢いのまま、剣はリザードマンを貫く。
魔力撃として横に薙げば、魚を切り裂くかのように剣は自由になる。
元農家としては、この行動に慣れるのはどうなのかなと思うような動きだと自覚がある。
そんなことを考えつつ、次の相手に。
その横で、ベリルたちも戦ってるのが見えた。
そして、苦戦していそうなカレジアも。
「カレジア、下がって!」
「あっ、マスター!」
大きくなってきたと言っても、人間で言えばまだ幼児と同じか小さいぐらい。
そんな彼女に、一人で戦わせるのが問題だったのだろうか?
いや、それは彼女を信頼していないというようなもの。
悩む気持ちが、顔に出ていたんだろうか?
僕が差し出した手を、カレジアは泣きそうな顔でつかんだ。
「マスター、その」
「カレジア……」
言葉に困ってから、僕が彼女を妖精とだけ見ているんじゃないんだなと変な自覚が出て来た。
そう、まるでこれは……1人の……。
「上だ!」
「来るわっ!」
咄嗟にカレジアを抱きかかえるようにして転がると、何かに引っ張られるように舞い上がるのを感じた。
揺れる視界でなんとか周囲を見ると、飛んできたであろう竜の爪に、僕が引っかかっている!
「どどど、どうしましょう!」
「なんとかするしかないね! カレジア、動きを止めるから目をお願い!
僕の腕の中で、慌てた様子の彼女は、真剣な表情を取り戻した。
頷いた僕は、体をひねって竜の足を掴む。
よく見ると、相手の口元にはリザードマン。
餌なのか、なんなのかはわからない。
だけど、こっちを……見ろ!
「そうさ。僕はただの人間じゃないぞ!」
魔力の高まりに、相手もようやく僕を引っかけたことに気が付いたんだろう。
そのぐらい、飛ぶのには余裕があるようだった。
だったら……これだ!
「至近距離で、凍れ!」
悲鳴が響き渡る。
すらっとした感じのドラゴンの翼、その根元に氷が産まれる。
慌てて暴れるけどそう簡単には砕けない。
それに気が付いたのか、僕を噛もうと長い首がこちらを向く。
けど、それが狙いだ。
「ええい!!」
死角から、小さな影、カレジアが突進するのが見えた。
手にした剣が、見事にドラゴンの目に突き刺さる。
さらに響く悲鳴、そして落下していくのを体で感じた。
「カレジア!」
「はいっ!」
彼女を抱き寄せた僕は、いつか外に飛び出た時にしたように背中に魔力を集める。
地面が近づいてきたところで、力を解放。
わずかながら浮いた僕より、ドラゴンは先に落下していく。
駆け寄ってくるベリルたちによって、ドラゴン自体が倒されるのを見ながら僕はカレジアを抱きしめたままだった。