BFT-074「顔を出す謎」
同じ階層を登る探索者が、ほとんどいないという現状。
それを知った時、僕は……明らかに興奮した。
独り占め、とは違う。
まだ先はあるけれど、自分たちが初めて遭遇する物が増えてくるということにだった。
「稼ぎたい方は、別の天塔で稼ぐようですわね」
「下の階層で、十分稼げるならそれもありよね」
「天塔は、上には行かせたくない……のかな?」
そんなおしゃべりが出来るのも、家にいるから。
ちなみに、金属っぽいこん棒は鍛冶屋さん預かりらしい。
確かに、普通の木材としては使えないよね。
「案外、頂上は近いのかもしれないな。なあ、ブライト。親父さんたちを見つけたりしたら、探索者は辞めるのか?」
「決めてないなあ。正直、農家に戻ってこれだけ稼げるかというと……だしね」
悲しいことに、お金はこちらの方が稼げる。
命がけといっても、農家だって命がかかってる仕事なのは間違いない。
その危険度は、どうしても違うってだけだ。
「稼ぐための徒党を、組んでもいいかもしれない。フレアさんたちみたいにね」
もっとも、まだ先の話だけどと告げて話を終わらせる。
明日も、早い。注文のように、これこれがあると嬉しいと頼まれているのだ。
買取では随分喜ばれたし、数日は25層で稼いでもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、夜を過ごして翌日。
休みを増やしてもいいんですよ?と受付さんには言われたけれど……。
「なんだか、登ってないと落ち着かないよね……」
「楽しさがあるならいいんじゃねーの?」
同じ気持ちらしいベリルにはそう言ってもらったけど、妖精3人は少し違うみたい。
ペタペタと、天塔で呼び出すなり体に異常がないか確認されてしまった。
「向こうで先輩たちが言ってました。急に強くなると、暴れる衝動が抑えられない人間がいるって」
「そうそう。ちゃんと吐き出すようにしないとだって」
「ブライト様の場合、天塔の壁が壊れないか少し心配ですけれど……」
つまりは、そういうことらしい。
怪物を倒しても、後ろまで突き抜けるようなのだと確かに心配だよね。
「水の魔法でやるみたいに、魔力撃とか属性攻撃も、真っすぐじゃなくこう……ぶわっとやれないのか?」
「それだ! 指先や剣先で使うから、そうなってるだけだ! なら……」
すぐに、ベリルも一緒に練習を始める。
武器を使わず、手のひらで薙ぎ払うように振るう。
結果は、成功。
「これ……結構疲れるよ。ぐぐって持ってかれる」
「まだ不慣れで効率が悪いだけじゃないか? ほら、魔法でもその辺が甘いとすぐ魔力切れを起こすし」
彼の言う通りかもしれない。
となると、やるべきことは、練習だ!
「壊れた奴は無視で、無事だった奴だけ拾うってことで」
攻撃を受け、折れてしまった武具などを見た僕はそう告げて、25層の探索を再開する。
よく見ると、怪物たち自体は剣で斬るより綺麗に倒れている。
案外、素材を得るにはこっちのほうがいいのかも?
外なら、森を荒らすな!って言われそうだけど、天塔であれば関係ない。
邪魔となれば、なぎ倒すようにして攻撃を放っていく。
結果、怪物も集まってくるけど……。
「オークが4、ゴブリンが2……あ、あっちで別のゴブリンが襲われてるわ」
「怪物同士が敵対してるって、なんででしょうねえ」
報告通り、なぜかこの階層の怪物は互いを敵だと認識している。
オーガも、オークを焼いてたし……外っぽいといえば外っぽい。
そうこうしてるうちに、階段が見つかった。
今日は巨人はいないようで、重くてかさばるこん棒はお休みだった。
その代わりに見つかったのは、怪物たちの住処兼鉱山だった。
「明らかに掘ってるよね」
「掘ってるな……うん。っていうか、天塔の中だろ!?」
「なんでもありね……やっぱり神様がいるのかしらね?」
5人の前には、ぽっかり開いた穴。
周囲には、亜人たちが掘るのに使ったであろう道具も転がっている。
この道具自体、持ち帰ることは出来そうだけど……。
「あら? 穴はすぐそこで行き止まりの様ですけれども……」
「マスター、奥に光ってます!」
ベリルに警戒を頼みつつ、覗き込むと土壁だと思っていたあたりは全部、土じゃなかった。
驚くべきことに、石というか、外で見たことがある……鉄の色だ。
「鉄鉱石にしては、きれいすぎる。持って帰ったらわかるかな?」
ひどく重い、重いけれどお金の匂いもする。
今度、台車でも持ってこようと考えつつ、ドラゴン戦で得た力も使って、抱えるほどの塊を持ち帰っていく。
「ブライトさん、良く持って帰ってきましたね」
「こん棒の方が、ある意味楽だったかな?」
さすがにギルドに持ち込めず、外に出て来てもらっての最初の一言がそれだった。
すぐに鑑定が行われ、結果としては非常に有用な物だったことがわかる。
まるで、鉄の武具を溶かして石と混ぜ込んだような状態とのこと。
「つまり、すぐに鉄が取り出せるってことだ」
喜んだ様子で、ギルドに買い付けに来た職人が塊を台車で持ち帰っていく。
実際、探索に台車を使うのはどうなんだろうか? ナシかな?
「1人ではないなら、ありではないですか?」
「じゃあ、そうしてみます」
あっさりと、ギルドからの許可のようなものは下りる。
まあ、天塔が通れるならその先は自由ってことかな?
僕たちがそうすることで、25層に行く探索者が少し増えるのだけど、それは別のお話だ。