BFT-070「騎士像」
「白光のっ、早い!」
先手必勝、属性攻撃を放とうとした僕のすぐ目の前に、石像が走り込んできた。
見た目からは想像も出来ない、生身のような素早さだ。
重量も、威力もありそうな石剣がすくい上げるように迫る。
体格では負けている。だけど力では負けていない!
そう自分を信じて、逆に振り下ろすようにして剣をぶつけた。
「よし、折れない!」
思ったのとは違う音を立てて、僕の剣と相手の剣が動きを止める。
こいつら、ただの石像じゃない。
妖精の宿っていた武具である長剣は、無事に姿を保っている。
刃こぼれの1つぐらいあるかと思ったけど、無事だ。
よく考えてみれば、ドラゴンを相手にして折れなかった剣なのだ。
「たかが、石像1体っ!」
初めて見る相手、呼吸の読めない相手に戸惑っていた心が戻ってくる。
考えてみれば、骸骨兵を相手にした時だって同じだったじゃないか、と。
目として掘られた部分には、何もない。
どうして僕たちを狙うのか、どうやって判断しているのか、わからないことだらけだ。
「生き物じゃない、どこかに核がある!」
叫びつつ、魔力を探る。
全身光ってる様に見える石像の中で、ひときわ輝く場所。
それが、核だ!
「突き……通す!」
振り下ろされた剣を回避し、脇から剣を突き出せば、初めての手ごたえと共に中ほどまで沈む。
確かな手ごたえの先には、なんだか小さい物を砕いた感覚があった。
恐らくは、それは核。
石像が動きを止め、倒れ込む。
周囲を確認すれば、ベリルとアイシャは同じように石像を突き刺していた。
カレジアも、相手を針だらけにするかのように剣を突き刺していて……。
「石像が魔法を? すごいな」
ラヴィもちょうど、相手を水の魔法で砕くところだった。
その前には、相手からも魔法の炎が飛んでくるのが見えた。
後に残るのは、つるつるとした石塊と、小さな光る物。
「宝石、ですかね?」
「でも、真っ二つよ」
「属性石とは違うようだなあ。宝石から力を引き出すのか?」
一応拾っておくけれど、なんだか値段が付くかは怪しい。
つるつるしたのは、数があれば家具に使えそうだけど……重いんだよなあ。
何個かを背負い袋に入れてみるけど、あまりたくさんは無理だ。
「ブライト様、次が来ましたわ」
「柱ごとやったら、崩れてきそうな気がするなあ……」
まとめて属性攻撃で薙ぎ払おうとして、辞めた。
自分で口にした通り、柱やその上から何か落ちて来ても困るからだ。
これまでも、洞窟型の階層で、あまり派手に魔法を使ったりすると壁が崩れてきたりしたからね。
「俺たちはそれなりに強い、そう信じて倒して見るか!」
「そうだね。やってみよう!」
まだまだ上はあるつもりだけど、逆に言えば来た道はその分、長くなっているのだ。
下を見れば、駆け出しとは決して言えない場所にいることを、自覚出来る。
続々と顔を出す石像に、全員でぶつかっていく。
カレジアたちぐらいの大きさの石像が、飛び上がってくるのには驚くけど、驚くだけだ。
見た目の分、耐久も低いのかこちらはしっかり両断できるし、槍であれば一気に貫ける。
偶然も手伝って、核を潰さずに手足を切り取ってしまえば、核らしきものがそのまま残るのもわかった。
それに、だ。
僕たちには刃だけじゃない。
「ブライト!」
「上!?」
器用なことに、とある石像は柱の飾りに手をかけ、ぶら下がっていたらしい。
よけきれなかった攻撃が、僕に迫り……衝撃を受けるだけですんだ。
「鎧が曲がった感じはないよ!」
「すげえな、ドラゴンの血ってやつは……」
そう、僕が今装備しているのは、外側はただのチェーンアーマー……だったのだけど。
この前のドラゴン退治の時に、全身に血を浴びてしまった。
結果、体だけでなく鎧や衣服、靴に至るまで全部変化しているのだった。
売れば一財産どころではない、とプロミ婆ちゃんには言われたけど、売るつもりもない。
防具の変化が確かなことを確認できた僕は、時には強引に攻めることも大事だと学んだ。
そう、武器が壊れないなら遠慮なく攻撃できるように、防具が信頼できるなら防具に任せるのも手だと。
考えてみれば、盾で防ぐのだって、盾の防御を信頼してるから盾で受けるのだ。
「マスター! 前に大きいのが3体!」
「きっと、隊長格よ!」
同時にだと、苦戦しそうな予感があった。
だから、僕は剣を……突くようにして構え、属性の力を解放する。
水の、岩をも砕いて貫きそうな力!
「つらぬけぇ!」
技名の決まっていない力が、まっすぐ石像の1体に伸び、体を貫いた。
しっかりと狙った甲斐があり、核を貫けたようだった。
その後は、僕とベリルが前衛となって2体をそれぞれに撃破することができたのだった。
「なんだか、目が眩しさにふらふらしそうですわ」
「そりゃ、割れた奴も全部拾ったからな」
小袋を覗き込めば、かき集めた石像の核らしき宝石が、様々な色で輝いていた。
本当なら、山を掘って手に入れる物が、こんな場所で……。
なんとなく、この国が周囲の国に狙われているのが実感できた瞬間だった。