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BFT-069「1つ上へ」


 人間、贅沢を覚えると癖になる。


 父さん以外でも、色んな大人が言っている言葉だと思う。

 結構な割合で、貧乏なのを誤魔化すために言っているような気もするけど。


 でも、真実だとも思う訳で。


「オーク肉、美味かったな」


「なんでも、天塔のだけがあの美味しさだそうですわ」


 満腹で、満足したお腹を撫でながらそんな2人の会話を聞いていた。

 僕の横では、カレジアとアイシャも似たようなものだ。

 ペット……じゃないけど、妖精も主に似てくるのかな?なんてね。


「ありがとう、2人とも。そっちの目標は達成したようなものなのに」


「気にすんなよ。俺1人じゃ、後何年かかってたもしれねえし。それに、家族を失っていた可能性だって高い」


 言い切るベリルは、なんだかすっきりした顔だった。

 探索者になった理由、ならないといけなかった理由が、解決したんだからそりゃそうだよね。

 なのに、僕の先の見えない戦いに付き合ってくれるというのだからありがたい。


 今のところ、ドラゴン素材の売却益で無事にベリルの家は商人として復活を果たしたらしい。

 詳細はぼかしてあるから、ドラゴンに襲われても生き残った縁起のいい商人、なんて噂も出てるみたい。


「主様、23層で止まるわけには行かない、わよね?」


「マスター、行きましょう!」


「2人とも、あれだよね? もっと美味しい物が出てくるかもしれないからだよね?」


 ジト目の僕に、顔をそらす2人。

 ま、そのぐらいのほうが気が楽だけどね、うん。


 力の慣らしも終えて、とりあえずと23層でオークを数体倒した僕たち。

 いよいよ、さらなる上層へと向かうことになった。


 町で買ったら結構な値段がしそうな満足と共に、夜を過ごして……翌朝。


「そういえば、あれから父さんっぽいやつ、みないなあ」


「候補が多すぎるんじゃないか? 本当に偶然だったんだろうな」


 そう言われて、確かにそうかなと思い直す。

 関係者が優先的に出てくるなら、もっと直に登って遺品を探そうとする人もいるだろうからだ。

 ギルドで、とりあえず持ち帰るのを推奨されてるのもそのせいだろうか。


 それでも、人間そのものの姿の相手と長く戦うのはあまり気分は良くない。

 その多くが、駆け出しに近いだろうあまり強くない相手だからなおさらだ。


「かといって、こっちの森の中っていうのも微妙だよね」


「オーク以外がどこから来るかもわからんしな」


 何度か食べられそうになったのが気になるのか、この階層だと3人は木や枝のそばにはいかない。

 出来るだけ自分の周囲に隙間を作るのが、唯一の対策ってあたり、厄介だ。

 いつもなら、木や壁は安全のための場所になるんだけどねっと。


「さっそくだ! でっかいなあ。ウサギぐらいなら丸のみだね」


「うう、私、丸呑みは嫌ですぅ」


「想像したら震えて来たわ。進みましょ!」


 何回か外に出て、怪物や獣と出会うことになってからわかったことがある。

 ここまで来ると、このぐらいの相手は外ではまず出会わないということに。

 正確には、街道沿いじゃ無理だということにだ。


「上から鳥型4ですわ!」


「迎撃します!」


 叫ぶカレジアの背後に、何本ものナイフが浮かび、そのまま空へと打ち出される。

 手でつかんで投げずに、というカレジアの新しい戦い方だ。

 これで、本人は剣を振るいつつも援護が出来るという形になっている。


 相手も、ただの鳥じゃなかったのか少し姿勢を変えてナイフを避けようとし……槍に貫かれる。

 カレジアとアイシャ、2人の連携が空からの襲撃を防いだのだ。


「焼き鳥……おっと、集中しよう」


「主様、人間はいざとなったら蛇も食べるって本当?」


「俺は食べたことあるぞ。ブライトもあるんじゃないか? いざっていうより、案外美味いし」


 運よく頭を落とすだけで倒せた大蛇の皮をはいでいると、そんな話になった。

 確かに、こうして皮をはいだ後はただの肉の塊である。

 放っておけば消えていくし、肉として採取したら……持ち帰られるかな?


「食べたことはあるけど、骨が少し面倒だね。後、どこかに毒があるかもしれないから外で食べるかどうか聞いてからかな」


 喋りながらも、僕たちは進む。

 油断している、とは違うように思う。

 集中しすぎて、硬くなっていたのが適度な緊張に制御出来ているのだと感じる。


 森を切り開き、どうにかして獣たちの襲撃を退け……ようやく階段を見つけた。


「先に見てきます」


「いつも通り、行ってくるわね」


「よろしくね。気のせいかな、なんだか涼しい風が……」


 階段を境目に、環境がすごく変わっている。

 いかにも森!といった場所にある、人工物な階段の違和感といったら……ねえ?


 少し登ったところで、カレジアとラヴィが偵察にいくのを見守る。


 しばらくして、戻って来た2人の顔には、困惑が貼りついていた。


「なんていうか、見たほうが早いわね」


「柱がいっぱいで、なんていうか……うーん」


 2人そろって、よくわからない感じだった。

 柱ってことは、建物らしいってことかな?


 警戒をしつつ、ゆっくりと登り……ああ、なるほど。


「こりゃ、なんだろうな?」


「どこか、雰囲気がありますね」


 まず、天井はかなり高い。

 妖精たちに飛んでもらっても、しばらくかかりそうなほど。

 それとは別に、僕とベリルだけ手を繋げないぐらい太そうな柱がたくさん。


 下は石畳、綺麗な板でどうやって切り出したのかと気になるほど。

 足跡1つもないから……何もいないのかな?


 今のところ、襲われる気配は……いや、僕が感じ取れてないだけかも。


「みんな、周囲の警戒を……必要なかったかな」


「石像……? いや、動いてるか」


 奥から、足音を立てて歩きてきたのは、見た目は石像だった。

 でも、滑らかな動きはそれを否定している。


 不思議と、段々と周囲が明るくなってくる。


 そうして見えてきたのは、敵が5体。


「3体ぐらい、小さくない?」


「だな。もしかしてだが……侵入者に応じて変化するんじゃないか?」


 僕たちの疑問に答えるかのように、前に立っていた石像が、僕と同じ長剣を構えるのがわかった。

 やっぱり、戦うしかないみたいだった。



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