BFT-068「戦いの意味」
普段は使わないでおくよ、なんて言った端から、僕は力を解放する羽目になっていた。
倒しても、倒しても湧いてくるゴーレムたち。
幸い、1匹1匹は倒すのに問題は無いのだけど……。
「カレジア! 階段までどれぐらい!?」
「えっと、まだもう2つぐらい角を曲がったところです!」
人目につかないように、と離れた場所で戦っていたのが仇になった。
倒せてはいるけども、思ったより進めていない。
ゴーレムの足が遅くて、助かった。
これで普通の怪物相手だったら、即座に物量でやられていたかもしれない。
いや、ゴーレムの場合も同じ、かな?
「下がって、吹き飛ばす!」
やや広い場所に出て、視界のゴーレムが増えたところでカレジア、ラヴィに声をかける。
後ろはベリルとアイシャがなんとかしてくれているけど、残骸ばかりが増えているように思う。
普段は、そのうち消えるからと放っている怪物だったものたち。
今は、消えるのが追いつかないぐらいになっている。
正面に向け、属性攻撃。
今回は、岩を斬るように水の力だ。
水しぶきを上げ、何体ものゴーレムが刻まれていく。
崩れ落ちた向こう側に、階段のある場所の灯りが見えた。
「階段へ!」
「おうっ!」
怪物は、階段を超えてこない。
その原則の利点を生かすべく、少し無理をして道を作る。
まだ動くゴーレムの脇を抜け、5人で走っていく。
なんとか間に合い、階段を数段上がったところで振り返る。
予定通り、ゴーレムたちが階段下の場所で立ち止ま……らないっ!
「うっそでしょ!?」
「マスター! つっこんできます!」
咄嗟に正面からくる相手に属性攻撃をぶつけるけど、力が集中しきれなくて巻き込んだ数は少なかった。
当たっていない左右のゴーレムがそのまま急加速し、なぜか僕たちを無視して壁にぶつかり……穴が開いた。
「主様、ポータルから外に、きゃっ!」
急に、ゴーレムたちの動きが変化した。
僕たちを攻撃するそぶりはなぜかなく、とにかく外に、そんな動きになった。
だからからか、僕たちは固まってゴーレムに押されるのが精一杯になってしまう。
「外に、押し出されるぞ!」
叫び通り、すぐに視界が変化する。
冬が終わってきた、晴れた空。
吹く風はまだ冷たく……って!
「マスター!」
「主様!」
落ちる速度が、変化した。
妖精2人が、僕の体を掴んだのだ。
ベリルもまた、アイシャが必死に捕まえている。
見なけりゃいいのに、下を見てしまった。
外からと中で登った距離が一致してないとしても、ゴーレムの出る場所はだいぶ上だ。
つまりは、かなり高い場所だ。
「やっばっ!」
「うう、やっぱり飛べないですっ!」
口にするも、落ちているのは変わらない。
眼下には、既に戦い始めている怪物と、探索者たち。
このままでは、あの場所に落ちる!
「ベリル、掴まって!」
「どうする気だよ!」
結局、人間2人を支えて飛ぶには妖精3人でも足りない。
なら、どうするか?
凍った湖で遊んだ時のことを思い出すように、背中に魔力を集中する。
浮くんじゃない……飛べ!
「どわあああ!?」
「くっ……このっ!」
ぶっつけ本番にもほどがある、魔法のような何か。
ただ落ちるだけだった体が、横向きに滑り出す。
あちこちによろめきながら、なんとか屋根から飛び降りたぐらいの感じになることができた。
その代わり、草まみれ土まみれだけどね!
「生きてる?」
「生きてるよ! 二度としたくないな」
「ご主人様、ブライト様、天塔からはまだあふれているようですわ」
まだ足が震えてるような気がするけど、戦いは続いているのなら動かないとだ。
頷きあい、戦いの中に突入する。
以前よりも、戦う相手が強そうな場所を選んだのも、自然な流れだった。
厄介そうな相手、強さがわかっている相手、そんな感じだ。
ドラゴンパピーを凍らせ、骸骨の兵士を砕き、襲われている人を助ける。
なんだか、自分たちが出来ることが、増えているというのをひどく実感した時間だった。
「カレジア、ラヴィ、どう?」
「問題ありません! まだいけます!」
「こう、当てないように魔法を使うのも慣れたものね」
元気よく答える2人に加えて、ベリルとアイシャも少し離れた場所で手をあげてくる。
そのことになんだか嬉しくなり、前は危険そうだと戦っていなかった方面へと向かう。
そちらは、2本目3本目の天塔からの怪物が出てきている場所。
見るからに、挑んでいる天塔とは、怪物の質が違うのを感じる。
自然と、魔力撃や属性攻撃も度々使う羽目になる。
「さすがに、一味違うな」
「だね。油断せず、行こう」
外は、天塔内部と違って怪物が消えない。
そのことを、色んな意味で実感し始めていた。
倒しただけ、死体が積みあがっていくのだ。
素材として使うということを考えると、案外この怪物があふれるというのは……クリスタリアとしては嫌な話ではないのかもしれない。
そんなことを思う戦いを、僕たちは生き抜いたのだった。