BFT-006「力の一端・前」
「木陰にある七色草、か」
「マスター、それなんです?」
「あれじゃないの、同じ場所にまた美味しい物があるかもって話じゃない?」
ラヴィが正解、と告げてポーション瓶の入っていた宝箱を隅にどけた。
ちなみにこの宝箱は、そのうち消えてしまうので持ち帰れない。
天塔の不思議なお話の1つだ。
「あー、なるほど! でもカラ瓶なんて入ってるんですね、残念」
「まだ階層が低いからかな? 今は余裕があるからいいけど、辛い時には追いうちだよねえ」
おかげでというべきか、今の僕はポーションをやや余裕をもって所持出来ている。
登らない時に集めているというのもあるけど、まず怪我自体が減ってきたのだ。
怪我をしたくないと頑張っているからというのと、戦う時に余裕が出て来たから……かな?
だから、普段であればこんなゴミと思うようなポーション瓶も、とりあえず持っておこうと思えた。
「だいぶ毛皮もたまったわね」
「なんとかね。これなら高く買い取ってもらえそうだ」
天塔では怪物が今のところ、尽きることなく出現している。
それらから取れる牙、毛皮、あるいはもっと上層だと鉱石に近い物まで。
世界はというと言いすぎだけど、少なくとも商売が成り立つ範囲では、天塔の影響は大きい。
数が安定しない野山に行かず、ここで物が買い取れるのだからそれも当然だろう。
(この調子なら、次の月には小さいけど小屋か、部屋を直接借りられそうだ)
物盗りとか頻繁にあるわけじゃないけど、宿を借りているのとは少し違うんだよね。
決して、2人とあれこれしたいからってわけじゃって誰に言ってるんだ僕は。
「もうすぐ日が傾くだろうし、そろそろ戻ろうか」
「今日もたくさん狩れました!」
「私、デザートも付けてほしいわ」
妖精にとって、食事は気分の問題らしいけど僕は2人と一緒に食事するのが楽しみだったりする。
一緒に美味しいと言いあうのは、とても素敵なことだから。
少しずつかすれて来た両親とも思い出が、鮮明になるような気がするって言ったら2人は悲しむかな?
「確かポータルはこっち……? 何か……変だな。寒くない?」
「マスター、妖精は暑さ寒さがないので……食べたりとかでは感じますけど」
「例えばの話、真冬でも平気よ。どうしたの?」
となると、この感覚は僕だけか。
5層から4層に降りて、ポータルを探す僕が感じたのは、妙に冷えた4層の空気だった。
寒いというより、なんとなくぞくっとするというか。
2人、特にラヴィが感じてないということは魔力そのものの問題じゃなさそう。
僕たち3人で、ラヴィが一番敏感だからね。
「何かいる……ううん、何か起きてる……かな?」
2人を後ろに従えて、剣を構えなおす。
今のところは何も見えない。
それに、どこかで戦う音が複数するってことは、他の探索者が普通にいるってことだ。
となると……。
(僕だけが、感じ取っている?)
一体、何があるというのか。ただの体調不良ってわけじゃなさそうだ。
ゆっくりと、ポータルのあった場所まで向かうべく進む。
いくつかの角を曲がり、そろそろ近づいて来たかという時のことだ。
「!? 悲鳴!」
「マスター!」
「あっちだ!」
探索者の天塔内部での行動は、基本的に自己責任。
助けて助けられて、報酬で揉めたり、弱ってるほうが身ぐるみはがされるなんてこともあり得る。
何より、死んでしまえばバレないのだから。
だからといって、下手に助けないのが正解というだけでもない。
「なんだこいつ!」
目に見えたのは、通路の奥の方で何かと相対している探索者だった。
4層にいる以上は、ゴブリンは余裕でグレイウルフには対抗策があるはずの探索者。
装備も痛んでる様子がない。
なぜそれがわかるかと言えば、探索者を襲っているのが半分透けているからだ。
「スピリット? でも何か違う……」
「どうするの、主様」
そうだ、観察してる場合じゃない。
一人でやるっていうのなら、離れるのが正解。
無理なら、助けたければ助ける。それも正解だ。
「なんとかなりそうですか!」
「スピリット相手の準備なんてない! 助けてくれ!」
やっぱり、僕もそうだったけど全く想定外の相手だったらしい。
頼みの綱は、ラヴィ、そしてカレジアだ。
というのも、スピリットにはただの攻撃は通じない。
魔法か、魔力を帯びた武器だけだ。
その点、ラヴィは魔法が使えるし、カレジアの剣も魔力から作られている。
そりゃ、僕が何もできないのは悲しい事なんだけど。
「頼むよ、2人とも」
「わかりました!」
「ふんっ、さっさと片付けてやるわっ!」
素早く、地面を走る2人が向かう先で逃げ惑う探索者。
彼に襲い掛かろうとするスピリットに赤い光が突き刺さった。
ラヴィの放った火槍だ。
「今よっ!」
「ええっ!」
ひるんだスピリットにカレジアが飛びかかり、見事に剣を突き刺す。
煙が消えるように、スピリットは悲鳴をあげながら消えていった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。助かった。2人の妖精……ああ、お前が。なにも落ちなかったみたいだな、渡せるものがないや」
こちらも消耗が特にあるわけじゃないので、助けたことのお礼は別にいらないと思った。
そんなことよりも、なんでスピリットがいたかだ。
そして、彼は感じなかったということだろうか?
今もなお、なんだか嫌な感じだというのに。
「そういえば、少し前に別の奴が扉の中に消えてったな。ちらっと見えたのは、財宝の間っぽかったけど……ヒッ!?」
一攫千金の財宝の間。そのことをうらやんでいるらしい彼の表情がゆがむ。
僕も振り返ると、遠くに揺れる何か。
「マスター、あれは……」
「ちょっとぉ、数が多くない?」
「まさか、財宝の間の罠?」
今さらながらに、思い出した。
ギルドから時々、何層にはいくなという指示が出る時があると。
それは何かの理由で、その階層が危険だからだと。
単純に考えたら、やばいのが出現してるから熟練者以外はということだと思う。
でも、こういうこともあるってことだろうか?
「提案です。ポータルまで一緒にいませんか」
「お、おう」
話が決まれば動くのみ。カレジア、ラヴィにも声をかけ、駆け出した。
向かう先はポータルのある場所。そこまでに、グレイウルフやスピリットたちにまとめて襲われなければ……。
嫌な予感は口にすると叶ってしまう。
そんな母親の思い出話が、唐突に思い出された。
今はただ、走り続ける僕だった。