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BFT-067「持て余しそうな力」



「手、出して見な」


 ドラゴンの素材をプロミ婆ちゃんの店で、出した時のことだ。

 素材を見ずに、まずは僕の方に手を出せときたもんだ。


 つまり、見る人が見ればわかる状態に僕はなってるってことだろうかと不安になる。


「……運がよかったねえ」


「ギルドでも言われましたよ。死んじゃう人もいるって」


 そんな僕の返事に、婆ちゃんは笑みを浮かべながら、素材の入った袋を引き寄せる。

 袋の口を開き、鱗を1枚、2枚と確認し始める。


「それもある。ただねえ、もう少し歳食った奴だったら、生き残っても人間やめてただろうね。大人で、特に生き残ったドラゴンの力は、人の身に余るもんさ」


「確かに、思ったよりは小さかったな……」


 倒せても、うっかり血を浴びれば死ぬかもしれない。

 ドラゴン退治が、偉業の1つとなるわけである。

 僕たちが結果的にそれを成し遂げたのは、まさに幸運としか言いようがない。


「ねえお婆様。体以外も、変化するのかしら? 例えば、突き刺した剣とか」


「変わるとも。現に、そっちの小僧の槍も、穂先が赤くなっているだろう?」


「慧眼ここにあり、ですわね。確かに、ご主人様の物も、私の物も、変化しておりますわ」


 生き残りさえすれば、あれこれが変化を受ける、それがドラゴンとの戦い……か。

 ふと見ると、ラヴィは不満そうだった。


「カレジアも刺してるし……私だけ特に何もないのかしら?」


「言っておくけど、ここで魔法を試すんじゃないよ。恐らく、アンタも変化してる。ドラゴンのそばで魔法を使うってのはそういうことさ。ドラゴンの魔力と、己の魔力が混ざり合う。精々、力を出し過ぎないように気を付けるんだね。よっと、じゃあこれで妖精3人と、そっちの小僧の防具を見繕うってことでいいのかい」


「それでお願いします。僕の場合、もう全身影響を受けてるみたい何で」


 森からの帰りや、立ち寄った町でもよく洗ったのだけど、全部色が変わってしまった。

 防具の類はチェインアーマーやインナーに至るまで、全部が微妙に色が変わっているのだ。

 と同時に、これらも全部、防具としては逸品ということになったらしい。


「適当なところで慣らしていきな。そら、行った行った」


 追い出されるようにして、店の外へ。

 仕方なく、婆ちゃんの言うように天塔へと向かうことにした。


 久しぶりの天塔、しかも自分たちにとっての最上階である23層ではなく、下だ。

 試すならば硬い相手だ良いだろうと、ゴーレムの出る階層を選ぶ。


 結果は、かなりの物だった。


「武器だけでも、だいぶ違うな。折れる気配がねえ」


「買い替えの予定はなかったけど、またしばらくは良さそうだね」


 どこか他人ごとのように言うけれど、そうでしか気持ちをそらせそうになかった。

 僕の体が、明らかな変化をしているのがわかってしまったのだ。

 意識して魔力を巡らすと、なんというのか薄い鎧を着こむかのような気分になる。


 その状態だと、銅板を折り曲げたように力がだいぶ違う。

 恐らく、防御も向上してるに違いない。

 とはいえ、攻撃をわざと受けて大怪我なんてのもつまらない。


「ベリル、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、普段は使わないでおくよ。じゃないと、2人でいられなくなる」


「……悪い。俺が足手まといだな」


 心配した通り、そんなことをベリルに言わせてしまった。

 ドラゴンから得た力、竜化とも呼ぶべき力を解除して、そっと彼の手を握る。

 出会いは偶然だったけれど、どれだけ助けられたことか。


「いつ解決するかわからないけど、君に一緒にいてほしい」


「……告白か? 俺にはその気はねえぞ?」


 笑いながら言われ、自分の発言を思い出して慌ててしまう。

 みんなで笑っていると、ゴーレムの増援。

 僕が構えた時には、アイシャとベリルの槍がコア付近を貫いていた。


「主様、多分なんだけど……ベリルたちも十分強いと思うのよね」


「私もそう思います。明日から、また頑張りましょう!」


 それからしばらくの間、動きの遅いゴーレムたちを相手に体を慣らし、力を確かめ合った。

 僕のことはともかくとして、みんなもやはり、強くなっている。

 ドラゴンを倒したことで、天塔でそうだったように何かを吸収できたんだと思う。


(魔力……とは少し違うかな? なんていうか、生き物としての格、だ)


 ぱっと見は同じでも、一流の探索者たちが、普通にはあり得ない強さなのもこのせいだと思う。

 僕たちよりも強い人は、確実にいるだろうなという思いを忘れないようにしないといけない。


 そんなことを考えながら、ゴーレムを倒していた時のことだ。

 天塔が、揺れた。


「地揺れ!?」


「いや、何か変だぞ……増援!」


 揺れる中、何もいなかった通路に怪物としてゴーレムたちが現れた。

 これだけなら、まだ普通だけどその数が尋常じゃない。


「まさか、前にあったような怪物があふれてるの?」


「やれるだけやって、出るぞ!」


 通路を埋め尽くすようなゴーレムたちを相手に、戦いが始まった。



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