BFT-066「足取り」
クリスタリアに戻ったのは、出発から半月が経とうとしているときだった。
戻れたのは、というのが正しいかもしれない。
しばらく留守にしていた家につき、お湯を沸かしてお茶で一息……ってときには寝そうだった。
むしろ、カレジアたちは先に横になっている。
「少し考えれば、わかることだったかな?」
「あそこまでとは思わねえよ。解放してくれただけありがたいぐらいだ」
助けた人たちは、さすがに信じてくれたけど町の人はそうはいかなかった。
結局、知り合いの強い人から、売却を委託されただけであるとごまかすことにした。
このあたりは、さすが本職ということでベリルの両親たちが話を合わせてくれた。
「にしても、そう考えるとベリルの家が一度駄目になったのは、運が悪すぎたのかな?」
「だな。幸い、人を死なせることにはならなかったが、一からやり直しだった。めぐりが悪い時は、悪いもんさ。でも、おかげでブライトたちやアイシャとも出会えたんだ」
嬉しいことを言われたなと感じつつ、2人でもうしばらく話を続け、そのまま雑魚寝。
朝になり、床板でそのままだったので硬くなった体をほぐしながら、ギルドに顔を出すことにした。
元気を取り戻した妖精3人も引き連れて、雪の溶けて来た町中を歩く。
ちなみに家の床下には、ドラゴンの素材を粗方埋めてある。
わかっていて泥棒に入る人はいないと思うけど、念のため。
周囲から集まる視線は、色々な物。
こぼれ聞こえる声には、生きてたんだなというものも。
そういや、他の人たちには何も説明してないし、する必要もなかったもんね。
「お帰りなさい。馬車の破損がないことは確認取れました」
「ありがとうございました。おかげで、生き残って帰れましたよ。カレジア、ラヴィ」
「はい!」
「はいはい。よいっしょっと」
なんでもないような会話をしながら、カレジアたちに背負ってもらってる袋をカウンターへ。
これまでも、魔晶や薬草類をそうして手渡してきたから、他所からは変には見えないはず。
ちらりと受付さんが視線を向け、指先を添えようとして……硬直。
やっぱり、探索者という色んな人間が出入りするギルドの受付とあって、一般人じゃないらしい。
素材のあれこれを、感じ取ったみたいだ。
「詳しい話を聞きたいので、別室へどうぞ」
「わかりました。行こう、みんな」
視線を感じながら、5人で案内されるままにカウンター横から別室へ。
入るのは、初めてだけど雰囲気あるなあ……なんて思う僕だった。
通されたのは、既に人がいる部屋。
大きな机に、色々な形の箱、それに、羊皮紙が重なった棚等だ。
「何事かと思えば、一体なんだね」
「例の隊商行方不明の解決者です。おまけも……まあ、見ていただいたほうが早いですね」
「ご主人様、こちらを」
「おう。そら、しっかり見てくれ」
受付さんの視線に頷けば、ベリルが鱗を数枚、手渡した。
たぶんギルド長だろうおじさんは、鱗を受け取るなり、顔色を変えた。
手のひらや、灯りに透かして何かを確かめ……ため息をついた。
「出来るだけでいい。詳しく話を聞きたい」
「僕たちも突然だったんですけどね……」
「生きてるのが奇跡的だよ、ほんっと」
着席も促され、良い値段のしそうなソファに座りつつ、話し始める。
僕の体の秘密なんかはぼかしつつ、なんとか倒したというところまで話せば、なぜか受付さんまでため息だ。
不思議に思っている僕たちに、ギルド長からの提案があった。
僕が持っている分の素材の買取、情報の口止めだった。
(まあ、そうくるよねえ……)
僕たちとしても、もう少し実力がついてこないと、信じてくれる人はいないだろうなという自覚もある。
今回は手負いで、うまく作戦がはまったからの勝利だ。
正面から無傷のドラゴン相手となれば、ほぼ勝ち目はなかったはずだ。
「直接触らなければ、パピーとの区別はつきにくい。防具を整えるといい。もっとも、君にはその必要はないがね」
「それはどういう……」
僕をしっかり見つめて言うギルド長に、疑問を口にすれば横合いから差し出される何か。
よく見ると、ただの銅板だ。
「ごく普通の純度の銅板だな。どうしろってんだよ。曲げて見ろってか?」
「その通りだよ。やってみたまえ」
疑問を浮かべたまま、何気なく力を入れると……全身の魔力が動き出した。
慌てた僕の視線の先で、前は力一杯頑張らないと曲がらなかったであろう銅板が、しっかりと曲がった。
慌てて手を離せば、曲がったままの銅板が音を立てて転がった。
ニセモノ、じゃあないらしい。
「やはりな。君たちは、一流の探索者、あるいは冒険者でもいいが……話半分に聞いても、強すぎる、自分達とは違う、そう思った時はないか?」
「あるぜ。というか、今回のドラゴンがまだ小さいってわかった時には、話に聞く奴らはどんだけだよって思った」
「ええ、そうですね……ちょっと待ってください。まさか!」
頭に浮かぶのは、そういった一流どころは、大体が竜殺し、ドラゴンスレイヤーの話も一緒だということだ。
倒した怪物たちの多さに埋もれそうになるけど……間違いない。
「そういうことだ。死の直前、生きあがく竜の力が全身に巡り、血の一滴もそれを助ける。そして、それを浴びた物は、人を超える力を得ることがあるのだという。運がよかったな。中には、耐えきれずにそのまま死ぬものもいるようだぞ」
「ってことは、今から浴びてもダメか……死ぬかもしれないとなると、試したくもないが」
話を聞きながら、鼻の奥にあの時の匂いがよみがえってくるように感じた。
胸やけのような気持ちを落ち着かせながら、出されたお茶を飲んだ。
高い茶葉なのか、ずいぶんとすっきりしてくる。
その気持ちを逃さないようにと、僕は口を開く。
「状況はわかりました。制御できるように、天塔で調整します。販売も、構いません。プロミ婆ちゃんの店を通して、こっそりやりましょう。ギルドを直接だと、目立ちそうです」
「ああ、そうだな。顔を出せば一発でわかるだろう。あの人も……だからな」
ここにきて、また新しい衝撃の事実だ。
道理で、歳のわりに強そうなわけだ。
「ねえ、マスター。この際だし、聞いちゃったら?」
「その……お父様たちの事です」
思い出させてくれた2人に感謝し、仕舞ったままの探索者証をギルド長に向けて差し出した。
父と同じ名前で、姿も間違いなかった、と告げて。
天塔に来たのは、行方を捜しているからだとも添えれば、受付さんも考え込んだ。
「確証はないが、恐らくそうだろう人物は見た覚えがある。だが、何年も前の話だ。細かくは覚えていない。すまんな」
「いえ、死んだのを確認したとか、行方不明と話題になった、とかじゃないだけマシです」
強がりを口にして、探索者証を受け取る。
2人の記憶に残るほど、有名だったらよかったのだろうか?
いや、両親はいなくなるまで普通の農家だったはずだ。
ギルドを出て、プロミ婆ちゃんの店に行こうとする道すがら、考えることがあった。
僕の記憶の父親と、天塔で遭遇した父親の姿をした何かの差。
両親、特に父親は……もともと村に来る前から探索者だったのではないか?という疑問だった。




