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BFT-065「未来への種まき」



「マスター!」


「怪我はない!? あああ、主様が真っ赤!」


 最初に耳に飛び込んできた2人の声も、どこか遠い。

 気が付けば、全力を出したせいか、膝をついていた。


 荒い息も、正直ドラゴンのせいで変な匂いなのだけど……これはまだましだろう。

 せめて顔ぐらいはと思い、魔法で水を産み出せば足元全部が真っ赤だったことに自分で引いた。


「ぶっはぁ……死んでる、よね?」


「首が飛んで生きてる奴は見たことねえよ」


 近づいてきたベリルが、僕に手を差し出して、ちょっと引っ込めた。

 ひどいなと思いつつ、自分も体を見て、笑うしかない。


 攫われた人たちをよかったら呼んできてよと告げ、まだかろうじて屋根のある場所へ歩く。

 脱いでも大丈夫な部分は脱いで、とにかく洗う。

 ラヴィにも手伝ってもらって、とにかく血しぶきぼたぼたという状況だけは回避した。


(ドラゴンの血って、高いんだっけ? いや、無理だったよね)


 ふと思い出し、僕が刈り取った形になる竜の頭部を見る。

 そこへ向けて、回復して来た魔力を絞り出して氷の力。

 胴体側と首側、両方が凍り付いたところでようやく一息だ。


「んー、これなら怪物退治の後ぐらいになったかな?」


「ですかね? やっぱり、少し匂いますけど」


「戻ったら着替えましょ……あ、ベリルたちが来たわ」


 どうたらそこまで遠くには行けてなかったらしい。

 たぶん、ドラゴンの咆哮にびっくりして隠れてたって感じかな?

 手を振れば、ベリルと弟さんも手を振り返してくれる。


「アイシャは馬車の解放にいってもらってる。そのうち来るだろ。ブライト、少しでも先に持って帰るためだろ?」


「そういうこと。誰かに頼めば、その分取り分が減るからね」


 倒したのは僕達なのに、と理不尽に思うところはあるけれど、納得もする。

 どうやったって、こんなでかいの自分達だけじゃ運べないし、処理できない。

 であれば、何もなかったのと同じになってしまうよりはってことだ。


「君が、ブライト君かね?」


「はい。ベリルのご両親……ですね? 他の皆さんも、助けられて何よりです」


 クリスタリアで、天塔に登っている仲だと伝えると、両親以外もどよめいた。

 天塔がそれだけ有名なのと、そこまで話がいっていたか?っていう驚きもあるかな?


「襲われた時は、まさか邪竜信望者とは思っていなくてね。ありがとう」


「商人なんだからさ、そこはお礼をはずむところだぜ、親父」


「それなんだけどさ、ベリル。ドラゴンの処理をしながら、相談があるんだ」


 疑問が顔に浮かんでいるベリルも含め、まずはドラゴンの処理を行うことにした。

 幸い、水樽や木箱、それに移動用の馬車は数台無事だった。

 中には、奴らが使うのもあったし……思ったより運べそう。


 鱗をどんどんと剥がし、血は水樽へ。

 もしかしたら全身使えるのかもしれないけど、持ち運びできそうなものを優先した。

 途中、祭壇で犠牲になった人たちもなんとか見つけ、埋葬する。


 地面に穴を掘っただけの簡単な物だけど、無いよりははるかに良いと思いたい。


「ブライト様、残った部分には凍らせて雪でもかぶせておけばどうでしょう」


「それいいね! じゃあみんな、離れて!」


 出来るだけは積み込み、もう出発は出来るけど残りがもったいない、そんな時の提案に頷く僕。

 回復して来た魔力を贅沢に使い、端っこからドラゴンを凍らせ始める。

 帰りに魔法が使いにくくなるけど、そこまでの厄介な相手はもういないと……思いたい。


 その後は、一応警戒しつつ森を抜ける。

 街道に出てきた時の、みんなの歓声は気持ちがよかった。


「ブライト君、本当にいいのかい? 一応、全部君たちの物でもあるんだよ?」


「僕じゃあ、捌ききれませんよ。それに、みなさんも復活のためにお金がいるでしょう?」


 捌ききれないというのは、嘘だ。

 クリスタリアに持っていけば、ギルド経由で軍にも話が行き、売れるに違いない。

 恐らくまだ若いとは言え、竜の全身素材なのだから。


 でも、僕は4分の3ほどはベリルの両親たちの隊商に任せた。

 ドラゴンを撃退したという町に、売りつけに行こうという形で。

 最終的に相当な儲けになるだろう彼らに、僕は1つの提案をしたのだ。


 村の復興に必要なあれこれに、便宜を図ってほしいと。

 言うなれば、僕は自分の取り分を、彼らに投資したのだ。


「何かの時にそんな話はしたけどよ、規模がでけえよ……思い切ったな、ブライト」


「ははっ、君の両親じゃなかったら言い出してないよ。僕は君を信じてる。だから、君が信じる両親を信じるんだよ」


 我ながら臭いセリフだなと思いつつそう口にした。

 気のせいか、妖精たちの視線も感じる。ちらりと見れば、3人とも微笑んでいた。

 なんだか、気恥ずかしくなってきたぞ。


「そこまで言われちゃあな。親父、俺はこいつとまだやることがある。いいよな?」


「勿論。親としては心配だが、どこにいたってそれは同じ。生き抜きなさい」


 ほんのりと、羨ましさを感じる会話を聞きつつ、僕は馬車を進ませる。

 町について、ひとしきりの騒動が終わるころには、冬はそろそろ引退する時期だった。


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