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BFT-064「空を貫く光」



 肉と骨を断つ感触。

 長剣から伝わるその感触は、不思議と馴染のある物だった。

 そうだ、天塔が生み出したかどうかは別にして、どちらも……生きている!


「みんなを返してもらう!」


「町の奴らか!」


 頭巾をかぶったままだから、歳のわからない男がこん棒を振り上げてくる。

 戸惑いと、覚悟を胸に感じながら……魔力撃を見せつけるように放った。


 地面が大きくえぐれ、雪が舞い散る。

 相手がひるんだすきに、魔力をさらに剣にこめ……それを見た。


「うっ……」


 動揺しているらしい相手の奥、最初に出て来た頭巾が松明を掲げた場所に、見たんだ。

 台座らしきものはそこそこ大きく、人が2人は寝られそうな……そんな場所。

 そこにあったのは、明らかに人らしきナニカだった。


 屋根が無ければ、カレジアたちに嫌な物を見せるところだった。

 この後見てしまうかもしれないけれど、覚悟の無い状態で見るよりはよっぽどいい。

 自分の心が冬の寒さのように冷たくなってくのを感じる。


「何をぼけっとしている! 殺せええ!」


「そう簡単にはやらせない!」


 合図として、左腕を掲げた後振り下ろす。

 途端、上空でカレジアたちの魔力が膨らむのがわかる。


 火槍、そして魔力で出来たナイフや槍が降り注いだ。

 次々に頭巾たちに襲い掛かる力。


「防いだ! 魔法使いか!」


 半分ぐらいは巻き込んだけど、何かで防いだ集団がいる。

 どう動くか、ここからが悩みどころだ。


「こっちはいいぞ!」


「! だったら……遠慮はいらない!」


 最初はただただ派手に、こちらに気を引く動きをしていたけど、ベリルの声を聞いて気持ちを切り替えた。

 ちらりと見れば、ベリルたちが山とは反対、つまりは街道の方へと走っていくのが見える。


 人質になる人さえ助かれば、後は戦い抜くだけだ。

 そのことを感じた僕は、上空の3人に合図を送る。

 そうして、僕のすぐ上に、3人が降りてくる。


「降伏する気は?」


「そりゃ無理だろ。仮にそうしても、町で処罰されるぜ」


 後ろからかかる声に、気持ちだけは振り返る。

 彼がこっちに来たってことは、両親たちはすぐに決断できたってことだ。

 その決断力があるなら、また復活できるだろうね。


「こんなガキたちに……」


「ガキだって、力を持てば誰かを殺せるんだよ。当たり前だけどね」


 どうやら、相手も降伏する気はないようだ。

 それに、僕もすんなり受け入れられたかは怪しい。

 少なくとも、台座……祭壇かな?にいる犠牲者があれだけとは思えない。


 このまま戦いか、そう思った時だ。

 集団の一番後ろにいた、一際目立つ頭巾の人間が、何かを手にして掲げた。


「こうなれば、各々方。我らを呼び水に……お覚悟を」


 ぞくりとする、暗い声だった。

 同時に、見たことの無い黒い魔力が膨らむのがわかる。

 明らかに、あいつがこの集団の頭目だ。


 何かよくわからない呪文めいた言葉を集団が紡いだかと思うと……力が弾ける。


「火槍! うそ、はじけた!?」


 手加減無しの、ラヴィの火槍。

 本当は、先に手を出したことに注意すべきかもしれないけど、それどころじゃなくなった。


 山から、風が吹いてくる。

 冷たくもあり、生暖かくもある……謎の風。


「ひょっとするとひょっとするか?」


「何か、来ますわね」


 ふと、変なことを思い出した。

 ドラゴンの体と、その強さ。それの維持の秘密。

 噂じゃ、何も食べなくても100年生きるという。


 では、何故ドラゴンは何かを食べるのか。

 それは、魂を食べるのだというのだ。

 そしてその魂は、魔力となる。


「マスター! 山から!」


「冗談でしょ、本物!」


 濃密な、気配が降りて来た。

 山から飛んできたのは、ドラゴン。


 頭巾たちは、己の魔力やらなんやらを、呼び水にしたということか。

 その証拠に、ドラゴンは広場に着地するなり、僕たちではなく頭巾の方を見て……噛んだ。

 響く悲鳴と、それでも逃げない彼らに恐怖が呼び覚まされる。


「逃げてた方がよかったかな?」


「他のドラゴンなら、そうだったかもな。良く見ろよ」


 こんな状況だというのに、僕たちの口調は変わらなかった。

 いや、現実味が無さすぎたというのもあるのかもしれない。


 どこかふわりとした気持ちで、ベリルの指さす先を見ると……なるほど。

 ドラゴンは、傷だらけだった。

 爪だって、何本か折れている。


 つまりは、撃退されたドラゴンが、コイツなのだ。

 よく見て見れば、想像よりは小さい。

 ドラゴンパピーよりは大きいけど、それぐらいだ。


「相手も生き残るために、僕たちを追いかけてくるか」


「そういうこったな……ははっ、とんでもねえ」


 そうして、僕たちが動けない間にドラゴンの食事は終わったようだ。

 ぐるりと、向きが変わり僕たちを見た。

 手負い、けれども強者の瞳。


 農作業を手伝っていた頃、手負いの獣相手は、殺すか殺されるしかないんだと父さんが言っていたのを思い出す。

 相手が口を開くのと、僕の気持ちが追いついてきたのはほぼ同時だった。


「厳冬の青!」


 属性攻撃は、魔法と似たようなものだ。

 僕の魔力を使い、大きな力を放つ。

 ドラゴンの放ったブレスが、僕の放った凍てつく力とぶつかり、周囲に雪のような氷を産み出した。


 感じる限り、ドラゴンの力は圧倒的……ではない。

 もちろん、こちらが食らえば即死だろうけど、逆に僕たちの攻撃も通用するように感じる。


「全力全開、ドラゴン狩りだ!」


「主様は、やらせない!」


「目とかを狙えば……」


 僕の左右にはカレジアとラヴィが。

 2人とのつながりを、今日は良く感じる。

 そっと胸の鍵を差し込んで、いつでも解放できるようにしておく。


 すぐ横には、槍を構えたベリルと、アイシャ。

 負けるつもりはないけれど、勝てるかは何とも言えないドラゴン戦。


「売るのはウチに任せてくれよな?」


「夏でなくてよかったですわね」


 頼もしい声を聞きながら、ドラゴンへと走った。

 家ほどもある巨体となれば、その攻撃はただ動くだけでもかなりのもの。

 実際、頭巾たちの拠点は、ドラゴンが暴れるだけで次々と痛んでいく。


「ブレスには溜めがある! 引っ掻き回すよ!」


「了解した!」


 ブレスも、魔法の一種だと確証した僕は魔力で相手を見ることにした。

 目で見える巨体に、魔力の光が服のようにまとわりついていく。

 こうなると、逆にどこに力を入れているかが丸わかりだ。


「右! 次噛みつき!」


 回避しつつ、目元をトントンとつついていけば、みんなもそれを感じたようで動きが変わった。

 魔力が巡ってない方から、力一杯攻撃をしかけ、攻撃される方は回避に専念する。

 ぐるりぐるりと、ドラゴンは向きを変え、攻撃をしかけてくるが僕たちには届かない。


 あの日、村を襲った怪物であるドラゴン。

 何もできなかったあの日から、僕は強くなった。

 だからこうしてついには、ドラゴンを……。


「僕の方に集まって!」


 油断しかけた僕の頭に、プロミ婆ちゃんの忠告が浮かんだ。

 それが幸いし、相手の魔力の高まりを感じ取ることができた。

 ブレスじゃない、全身!


 魔力の衝撃波とでもいうべき物が、周囲に飛び散った。

 咄嗟に正面に、氷の壁を産み出すけどどんどん削られていく。

 周囲の建物は、今のでほぼ崩壊したようだった。


(祭壇の人……あとで探しますから……)


 この衝撃だと、吹き飛んでるだろうなあと思いながら今は目の前の相手だと思いなおす。

 魔力が収まっていくのを感じた僕が動くより早く、カレジアとラヴィが荷物から球を投げた。


 プロミ婆ちゃんにもらったそれは、魔道具。

 使い捨てという贅沢な一品が、教えられたとおりに5つ数えたところで猛烈に光を放つ。


「一気に行くぞ!」


 ベリルの叫びが僕の体を突き動かす。

 カレジアたちの攻撃が目元や口に刺さり、さらに叫ぶドラゴン。


 飛び出したベリルと、アイシャの槍が斜め上に顎付近へと突き刺さる。

 思わずか、顔をあげて……見えたのは喉元!


 剣を振るうには狭い場所に、僕はそのまますべり込み、胸の鍵を解放する。

 接触させてないのに、指輪と剣の柄元の石が光り、僕の意志通りに拳に集まった。


「白光の……」


 近くで見ると、ドラゴンの強さがよくわかる。

 だというのに、多分小さい方だ。

 まだ子供なのか、それともこのぐらいの大きさの種なのか。

 触れた手のひらが、命の熱さを伝えてくる。


「煌めき!」


 力を放ったまま、横に薙げば、僕にドラゴンの血が降り注ぐ。

 降り積もった雪を、勢いよく払うかのように力が噴き出し……僕はドラゴンの首を、刈った。

 

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