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BFT-063「潜むもの・後編」


 僕たち以外に動く物がいない森を、息をひそめて進む。

 向かうのは、森の奥にあるらしい、何者かの集落。

 状況的には、野盗か何かの拠点なのは間違いない。


 問題は、果たして彼らがベリルの両親たちを襲ったのかどうか。

 そして、どう扱っているか、だ。


「ブライト、大丈夫だ。覚悟の1つぐらいしてる」


「そんなこと言わない。むしろ、無関係かもぐらいに思ってた方がいいんじゃないかな」


 なかなかうまいことは言えないけれど、暗い考えは良くないことはわかる。

 元気づけるようにそういって、森を進む。


 普段、誰も歩かない場所だからか、雪が固まって氷みたいになっている。

 これが夜だったら、歩く音が目立ったかもしれない。

 運よくというべきか、向かう先、山の方から風が吹いているから僕たちの音は消えていると思いたい。


「カレジア、ラヴィ。少しずつ先行してくれるかな。飛んだままで隠れながら行けば、見つからないと思うし」


「では、私は後方で警戒をいたしますわ」


 相手もまさか、人形ほどの存在が空を飛び、隠れながら来るとは考えないだろう。

 やはり、妖精は、特に飛べる彼女たちはある意味で最強の手札だ。


 日が暮れる前に、近づいておきたい。

 旅慣れていないであろう弟さんを補助しながら、進み続ける。

 本当なら、怪物が少しはいるんじゃないかと思う森は、静かだった。


(なんだか……気になるな)


 確かに冬だから、獣たちもいないのもおかしくはない。

 おかしくはないのだけど……なんだろうか。

 

 まるで、何かから逃げ出した後のよう。

 相談をしようと、ベリルを見ると弟さんと一緒に硬い表情。

 だから、思わず自分の考えを口にしてしまったのだった。


「嫌な話だけどさ、もしそうなら、とっくに街道でやってると思うんだよね。わざわざ、こんな場所まで引っ張り込まないよ」


「そう……だな。間違いない。よし、考えを変えよう」


「両親は、交渉は上手いですからね」


 上手く行ったかな?そう考えたところで、視界に自然以外の物が入ってきた。

 明らかに、何かを燃やしてる炎の光。


 まだだいぶ遠いけど、何かある。

 姿勢を低くし、今まで以上に慎重に進む。


「主様、人がいたわ。大体40人ぐらい。馬車っぽいのも建物の影に見えたわ」


「魔法使いがいるみたいで、えいやって薪に火をつけてるのが見えましたよ」


 戻って来た2人の報告に、ベリルたちの顔がこわばるのがわかる。

 僕も、相手の人数と馬車という情報に、唇をかみしめた。


「奇襲だけなら簡単だよ。カレジアたちに、上からやってもらえばいいからね。でも、まだ隊商の情報が足りない……ベリル、いざとなったら僕は敵の相手をする。両親たちはそっちに任せたよ」


「おう。その方がいいな。顔は俺と弟ぐらいしか知らない訳だし」


「隊商の人たちだったら、覚えてますよ」


 役割分担を決め、後は情報だ。

 出来るだけ近づき、その後はまたまたで申し訳ないけど、妖精3人にこっそりと偵察してもらう。

 野盗を討伐する必要はなく、隊商の人たちを助けられればそれでいい。

 そううまくは……いかないだろうけども。


「見えたら、最初に属性攻撃じゃ駄目かな?」


「どこに捕まってるかわからないからな。巻き込むとまずい。後……ブライト、人が殺せるか? 俺はたぶんやれる。両親のためだからな」


 突然の問いかけに、僕は黙ってしまった。

 確かに、そうだ。

 僕に……殺せるのか?


「わからないけど、迷うことだけはしないよ。ごめん」


「ま、そんなもんさ。俺だって言ったけどその通りに出来るか」


 そうこうしてるうちに、夜も更けて来た。

 かなり寒いけど、何とかなっている。


「生存者は小屋に押し込んである、か。どういうつもりだ?」


「脅かして畑仕事をさせる……すぐ逃げられるか。拠点でゆっくり始末する? だとしたら、生かしておく理由はわからないね」


 2人の前で言うのもなんだけど、事実は事実だ。

 わざわざ、お荷物となる人間を抱え込む必要がない。


 となると、利用価値があるということで……。


「見てくださいな。誰か、出てきますわ。あら、ぞろぞろと……」


「なんだ……あれ」


「頭巾、ね」


 そう、ここにいる人間が出てきたと思えば、その姿は異様だった。

 顔の見えない頭巾をかぶり、その背中とお尻付近には何か作り物の飾りが……。


「羽根に、尻尾でしょうか?」


「言われてみれば……」


「兄さん、聞いたことない? 邪竜の噂」


 悩む僕たちに、弟さんからのつぶやきが飛び込んできた。

 邪竜……ドラゴン?


「っ!? あいつら、そうなのか? だったら、イケニエ……か」


 どういうことかを質問すると、ドラゴンを崇拝する宗教的な物があるらしい。

 いろんな地方に、細々と残るらしいそれは、一種の自然信仰。

 ドラゴン等の怪物や、天候という人が抵抗できないものに対する畏怖だ。


 生を捧げれば、実りを授かる。

 死を捧げれば、対価と引き換えに望みをかなえるという。

 ただ、その望みは大体が後ろめたい、暗い望み。


「だから邪竜、ね。ってことは」


 ベリルの頷きが、僕の想像を肯定した。

 そうとなれば、このまま様子見は、マズイ。


 素早く戦いの準備を整えて、飛び出す準備をする。

 そして、集団の一部が、小屋に近づいたのを見計らって、僕とベリルは飛び出した。


「なっ!? 何者だ!」


「てえええい!」


 事前の心配をよそに、僕の体は動いてくれた。

 冬の夜、雪を赤く染め上げる戦いが始まった。



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