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BFT-061「思い出の傷跡」



 ベリルの弟だという少年は、まさに疲労困憊。

 それでも気丈に事情説明をする姿は、強いなと思う。


 クリスタリアに、兄がいるとは聞いていても、どんな生活かはわからなかったに違いない。

 一応、生き残っていることや、仕送りも出来なくはないことは手紙で伝えているはず……。


「ここ最近の出来事ってことだよね? あ、僕はブライト。ベリルと組んでる探索者さ」


「ああ、兄の手紙にもっと、そうです。その……兄が無事で、今のところ順調なら自分達も頑張らない取ってギリギリまで」


「裏目に出たか……くそっ」


 ベリルのせいじゃない、そういうのは簡単だ。でも、正解じゃない。

 当人となれば、なかなか冷静じゃいられない。

 僕の時のカレジアたち、そしてベリルのように僕が冷静にならないと。


 ちらりと、彼の相棒であるアイシャを見れば、彼女も頷いている。

 となれば僕が話を誘導していかないと。


「僕は商売の事、詳しくない。でも、まだ冬が終わってないのに外に出るのは危険なのは良く知ってる。普通の行商や隊商じゃないってことでいいのかな」


「っ! そうか。そうだよな。雪でうまく動けないし、怪物に襲われるのがオチだ。よっぽど儲けがあるか、赤字に近くても運ばないと立ち行かなくなるような場所への輸送ぐらいだ」


 今にも飛び出しそうだったベリルも、ひとまずは考える余裕が戻って来たみたいだった。

 お湯が沸いたので、お茶を振る舞えば、空気が落ち着くのを感じた。


「兄さんは聞いてないかもしれないけど、秋口にドラゴンの被害が出たんだ。たまたま、冒険者とかがいる町に」


「ドラゴンの? ということは復興の物資か?」


 どきりとした。


 ドラゴン、僕の村を襲ったのも、多分ドラゴンだ。

 ただ、僕の時と違って抵抗する戦力があったような話だ。

 冒険者……探索者と似て異なる、各地を腕一本で渡り歩く傭兵みたいなものだ。


 それにしても、ドラゴンか。

 僕の村の時は、いつだったか……夏、ではなかったように思う。

 確かあれは……。


「僕の村は、冬の終わりぐらいだったかな。話してて思い出したよ。家畜の類が、全部食べられてたと思う」


「ドラゴン、お腹空いてたんでしょうか?」


「そうかしら? だとしたらその……人間だって襲うはずだわ」


 申し訳なさそうに言うラヴィを撫でつつ、考える。

 あの時、村は焼かれたけど……人は食われなかったように思う。

 結果的に死んでしまった人は、何人もいたけれど。


「人間の事を、それなりに知ってるのかもしれませんわね。家畜はともかく、同胞をやられれば反撃が来るということを」


「だとしたら、町を襲った奴は相当追い詰められてるってことだ。反撃する戦力がいる可能性は、全然違うんだからな」


 その辺、どうなんだろうとベリルの弟さんを見る。

 言いにくいことだとは思うけど、情報は大事なのだ。


「うん。なんとかドラゴンは、撃退できたんだ。で、復興のためにあちこちから物資を買ったりしてる。父さんたちは、その隊商に参加してたんだ。それが、帰ってこない」


「そいつは妙だな……なあ、ブライト。ギルドでこの辺の依頼、見たか?」


「いや? それらしいのは見覚えが無いね」


 つい昨日、とかならともかく、秋口ともなればこの町にだって噂の1つぐらい、来てもおかしくない。

 それがないってことは……待てよ?

 軍が武具を買い込んでるって話……もしかしてこれ?


 表向きは内緒にしつつ、小競り合いまでしかけて戦力が移動しててもおかしくない状況。


「まさか、国境沿いか!」


 ベリルの叫びに、納得した。

 天塔を擁するこの国は、地味に喧嘩しそうな国がいくつもある。

 既に小競り合いが起こっている国以外にも、表向きは仲がいいけど……なんて国もある。


 その多くが、天塔が理由だったりする。

 噂が広がれば、どこにどんな問題が出るかわからないというのがあるのだと思う。


「実は、自分も探索者になるって嘘ついて出て来たんだ。じゃないと、色々探られそうだったから」


「なるほどな……ブライト、悪い」


 顔に悩みを貼りつかせたようなベリル。

 力一杯握りしめられた拳……そんな彼の手を、僕は握った。


「ブライト……?」


「遠慮しないでよ。僕たちは、互いの目的のために協力し合ってる仲間だろ? それに、今さら君に抜けられても登れる気がしない。さっさと行って、解決して戻ってこよう」


 ほぼ全て、本音だ。

 ドラゴンは倒されたわけないようだし、被害が広がれば村の復興にも影響が出るはず。

 木材や石材、人手だって足りなくなってくるわけだからね。


 隊商が行方不明となれば、その流れ自体も滞ってしまう。


「さすが主様ね! そうと決まれば、物資を買い込まないと!」


「馬車も手配しないと、さすがに遠い気がしますわ」


「寝泊りは、楽な方がいいですよ」


 妖精3人も、乗り気。

 ただ1人、弟さんだけはぽかんーとした様子だ。


 ぺこりと、僕に頭を下げるアイシャが印象的だった。



 夜も遅いけれど、まずはプロミ婆さんの店に走る。

 準備はベリルたちに任せて……店がまだ開いてれば……よし!


「プロミ婆ちゃん!」


「なんだい、こんな時間に。忘れものでも……ふうん? 気合入ってるね、どうした」


 店の片づけをしていた婆ちゃんに声をかければ、こちらの様子で何かを察してくれたようだった。

 看板は仕舞いつつ、店に入れてくれた。


 ざっくりと、説明をすると棚にある木箱を1つ、手渡される。

 中には、いくつかの球体。


「これは?」


「魔力をこめて、5つ数えたぐらいにドカン、さ。周囲に光と、衝撃が広がる。ドラゴンだろうが、耳元や目元で食らえばぐるんといくさ。戻ってきたら払いな」


 別に、ドラゴンを倒しに行くという訳じゃないのだけど……ありがたく貰うことにした。

 他にも、いくつかの物資を買い込むと、馬車なら朝一にここに来るようにと言われた。


「ギルドじゃ、多少なりとも話は掴んでるはずさ。表に出てこない理由は、お前たちが考えてる通り。だから、騒げば話が広がるってわかってる。馬車の1つや2つ、出してくるだろうよ」


「婆ちゃん……!」


 明日に備えて、横になるだけでも休んでなと言われ、納得した僕は家に戻る。

 色々と準備をしていたベリルたちに婆ちゃんの話を告げ、今日はひとまず休むことにする。


 弟さんは、やはり興奮した様子だったけど、ベリルが思い出話を聞く形で時間を過ごしていく。

 僕もまた、なかなか寝付けないでいた。


「マスター、まだ起きてますか?」


「うん……ちょっとね」


 急展開、この言葉がとても似あう状況だった。

 ドラゴンと出会うことは、多分ないと思う。けど……。


「今の主様には、私たちがいるじゃない」


「そうですよ。1人じゃ、ありません」


 ふわりと、2人が僕の左右に飛んでくる。

 窓からの月明かりが、僕たちを照らす。

 小さな手が、僕の手に重なり……いつの間にか、落ち着いてくる自分を感じていた。


 夜は、ゆっくりと過ぎていった。





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