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BFT-060「外からの知らせ」



「まだ一年たってない!? うっそだろ!」


「こいつは、俺たちもうかうかしてられんなあ」


 招かれた炎竜の牙の家、というかアジト?は小さめの酒場のようだった。

 隣には寝る場所があるけれど、多人数で騒げる部屋があるというのは面白い。


 どうも、天塔に登らずにこういった拠点を維持するための人員もいるらしい。

 専属で、雇ったってことなんだろうな。


(にしても、これだけ探索者がいると、妖精こみですごい人数だな)


 ざっと、30人ぐらいいる。

 実際に登るのは半分だと考えても、15人。

 一度に登るってことはないだろうから、別々に登ってるのかな?


「ふふ。我々は、元は別々の天塔を登っていたのさ。ある日、たまたま協力することがあってね。だったら、一緒の方が色々と融通を利かせやすいだろうとね」


「そう言いながら、結構な人数は姐さんの強さに惹かれて、なんだぜ。イテッ!」


 ふざけた調子で答えていた探索者の頭に、フレアさんの平手が飛んだ。

 正直、目の前だったのにほとんど見えなかった。

 叩かれた側も、笑ってるからただのつっこみだろうけど、早い。


「主に、前線で攻略を目指す組、それ以下で稼ぎを中心にする組とに分かれている。この先、出会うことも増えるだろうな。そら、焼けて来たぞ」


 料理人もメンバーの中にいるらしく、続々と料理が運ばれてくる。

 その中には、僕たちが情報の対価として差し出したオーク肉が含まれていた。

 この人数だと、たくさん食べるってことは不可能だけど……一緒の物を食べるというのは大事なことなんだろうね。


「主様、主様! すごいわね!」


「本当です。いろんなお話が聞けました」


 カレジアたちは、先輩となる妖精たちと会話を楽しんでいたらしい。

 僕からすると、ここの妖精と、女性探索者の区別が正直、あまりつかないのだけど……。

 背中には小さい羽根があるから、若干背中側の露出があるぐらいかな?


「なんだか、食事に誘われただけみたいになっちゃいましたね」


「そうでもないさ。もちろん、探索者同士は味方でも敵でもなく、いや……どちらかと言えば……敵か。自分のもうけを持ってかれるかもしれないわけだからな。しかし、だ。今のところ尽きることの無いものを取ってくるのに、争うのは得策ではないだろう?」


 フレアさんの言おうとしてることはわかる。全員で協力して!なんてのは無理な話だ。

 でも、敢えて敵対する必要もないだろうということだ。


 お互いが生き残れば、巡り巡って自分が稼げる量が増える可能性につながっていくのだから。


 話に頷きながら、調理されたオーク肉をほおばり、その美味しさに目を見張る。

 クリスタリアに来て、お肉を食べることは増えたけど、全く別物だ。


「これは、癖になるってのもわかる味だな」


「しばらくはオークを狩ろうかって思えるぐらいだね」


 外で家畜を育てようと思えば、病気や獣の襲撃が怖い。

 十分育てるには、相応のお金がかかるのだ。

 でも、天塔であればそれがない。


「さて、駆け上がってる君たちに役立つ情報……となれば、まずは22層か。明らかに戦いに強そうな相手は、命の危機ではあるが、チャンスでもある。自分の戦い方、強さを磨くためのね。生身で立ちあいとなれば、下手に殺すわけにはいかないからどうしても互いの躊躇がある。が、天塔の相手となればそれがない」


 音を立て、テーブルに置かれていたパンが、フレアさんの持つナイフで両断される。

 断面が、とてもきれいだ。普通の、パン切りナイフに見えるというのにだ。


「君も、ベリル君も。どちらもかなり強くなった。もちろん、妖精たちもだ。その分、力の無駄が多いように見える。本当は、もう少し時間をかけて登っていくことが多いからだろうね。早く登るのはいいことだ……が、自分を見つめ直す時間は別に作ったほうがいいかもしれない」


「ありがとうございます。確かに、気を付けないと」


「たまに、力が入りすぎてる感じあるもんな」


 思い返せば、僕なんかは床まで斬ろうとしたり、ベリルなら壁に槍が突き刺さったり。

 手加減とは違う、力の強弱……それが少し、おろそかだったかもしれない。


「我々も、魔法と武器での戦いを見直さなければいけませんね」


「色々聞けたし、明日からまた特訓ね!」


「頑張りましょう、マスター」


 元気そうに話す3人は、浮いている。

 飛べる3人の妖精、その力を僕もベリルも、もっと知らなくてはいけないんだろう。

 どれだけ特殊で、有利なのかを。


 それからは、雑談と講義が混じった食事会となった。

 とても有意義な時間を過ごせ、気が付けば夜も更けている。


「機会があれば、またきたまえ。君たちのような探索者なら、歓迎だ」


「その時は、よろしくです」


 外に出ると、もうすぐ終わりだろう冬の冷気が、僕たちを包む。

 思わず震えながら、自分たちの家へ。


 どこか、ぽかぽかした気分のままで、気持ちよく寝られそうだなと感じていた。

 それはベリルやみんなも同じみたいで、どこか浮ついた感じだ。


 ちなみに、探索者の多いクリスタリアでは、治安はかなりいい。

 喧嘩みたいなのは起きるけど、強盗みたいなのはまず起きないのだ。

 すぐそばに強い探索者がいるかもしれないという抑止力ってことらしい。


「防犯設備があるぐらいには、問題は起きてそうだけどなあ……」


「急になんだ? 稼いでる探索者は、その分強いからな。よほど不意打ちでもしないと、どうしようもないぜ」


 ベリルの言う通りで、不思議な状態と言えば不思議な状態だ。

 もちろん、鍵を閉めないということはないけれど、窓が割られるなんてことはほとんど聞かない。


 だから、こうして歩いていても何も……んん?


「ベリル、誰か家の前にいる」


「ああん? 夜ももう遅いだろうに……って」


 家の前にいる人影を見るなり、ベリルが駆け出した。

 慌てて後を追う僕と、妖精3人。


「どうした、何かあったのか!?」


「兄さん……」


 家の前にいたのは、ベリルを二回りぐらい小さくしたような、男の子だった。

 旅をする格好だから、どこからかここに旅してきたに違いない。


「とりあえず、入ってもらったら?」


「あ、ああ……」


 ここで別れるというのもどうかと思い、ベリルの借りている家にお邪魔する。

 造りは似ているから、ラヴィと共に火をつけてまずは部屋に灯りと熱を。

 無言で、みんなで火にあたり温まり始める。


「コイツは俺の弟だ。親父たちと一緒に、別の町にいるはずなんだが……」


「実は、大変なことになったんだ。父さんたちも参加してる隊商が、行方不明になったんだ」


 騒動は、意外なところから飛び込んでくるのだった。



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