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BFT-059「食べるべきか、食べざるべきか」


 天塔に登ったことのある人間が、敵となって出てくるらしい22層。

 問題はあったけれど、ひとまずそこを乗り越えて僕たちは23層へと足を踏み入れた。


 もう、つっこむ気力もどこかに行ってしまった光景に、全員の言葉が無くなる。

 森が、そこにはあった。


 川が近くにあるのか、暖かい地方の再現なのか、深呼吸の度に、むせかえりそうになるほどだった。

 不思議と、虫の類が見当たらないのが、印象的だ。


 そんな場所に、怪物はやはりいた。


「後方狼3! 任せろ」


「了解、前を片付ける! 礫たる、青!」


 長剣の手元、白い石の隣にある青い石。

 そこに指輪を重ね、そのまま刀身へ。


 剣先まで伝わった力を、そのまま振り抜いて刃とする。

 22層での半ば暴走を経て、僕は新しい力を身に付けた。

 正確には、こっちも属性石だろ?と剣に怒られたような気がする。


「いっけえええ!」


 振り下ろした先に、青い刃が飛んでいき……分裂した。

 1つ1つは、親指の先ぐらいの大きさの、礫に。

 氷の雨が降るかのように、正面にいた大蛇っぽい相手たちにぶつかり……貫き、凍り付かせる。


「今度は、食べられたりしないんだからね!」


「さっきは危なかったですねえ……」


 半ば涙目になりながら、ラヴィが残った大蛇を魔法で貫いている。

 炎を撃つイメージがあるけれど、今の彼女は僕と同じ属性を使える。

 すなわち、氷の槍も撃てるのだ。


 頭を串刺しにするあたり、よっぽど最初の奇襲で、咥えられそうになったのが怖かったに違いない。

 カレジアもまた、僕にとってはナイフぐらいの、彼女にとっては長剣を産み出して投げている。

 木や地面に縫い付けられた状態の大蛇たちは、なんだかそのまま焼いたら美味しそうに見えたりしたのだった。


「複数種の、獣型の怪物が出る層か?」


「かな? でも、かなり大きいよ」


 実際、いくら妖精が小さいといっても人の子供ぐらいはあるのだ。

 今では、膝ぐらいか膝上になるかぐらい。

 そんな相手を、丸呑みに出来そうな蛇、となればまさに大蛇。


 軽く考えても、人間も奇襲されたらたまらない大きさだ。

 狼型の相手も、下層でいうウルフリーダーぐらいは十分にあった。


「なんとかなっていますから、私どもも相応に強くなった……と言ってよいかと」


 アイシャの分析が、正しい。そう、思いたい。

 現実問題として、この階層まで登ってるのは限られてくるらしいことは受付での話でも分かる。

 そのうち、何かズルしてるから登っていられるんじゃないか、なんて言われそうだ。


「戻ったら、いっちょギルドに相談して、見える依頼を受けたほうがいいかもな」


「見える依頼……木箱でも抱えて運んでみる? 中身によるけど、2、3箱持てるよ僕たち」


 口にして、微妙に人間やめ始めてるなとも思った。

 天塔で鍛えられていく探索者は、大なり小なりそういう傾向にあるのだけども……。


 うっかり、食器を壊してしまったなんてのは上に行くほどよく聞く話らしい。

 上位と言えば、フレアさんたちは元気だろうか?


「様子を見て、2本目の天塔に顔だしだけいくのもありじゃないかしら。そっちを攻略する、じゃなくてどんなものか知りたい、みたいな」


「炎竜の牙の皆さまに、相談してみましょうか」


 上位パーティーに、相談? なるほど。

 駆け出しとは言えなくなった僕たちなら、そうすることが出来る……だろうか?


「ひとまず、一通り稼いだら下を駆け抜けて戻ろうぜ」


 まだ確実じゃないことに、あれこれ言っても始まらないのは間違いない。

 ベリルの提案に頷き、23層での戦いを再開する。


 結局、出てくるのは先ほどの相手ばかりではなかった。

 鳥も出て来たし、コボルトやゴブリンとも違う、オークも出て来た。

 さすがに大木の裏から、のそりと巨体が出てきた時には驚くしかなかったよね。


 僕とラヴィの、二人分の火球で一気に丸焼きだ。


「なんだか、お肉を焼いたいい匂いがするんだけど」


「オーク、食べられるのかな?」


「当たるとヤバイし、止めといたほうがいいんじゃねえか?」


 現状、焦げてる部分もあるし、微妙だよね。

 そう思いつつ、次なるオークを倒した時の事。

 結果的に、まるで食べたい場所を切り取りました、とばかりに切れたオークの体。


 手にしていたこん棒は一応回収し、さてと思った時だ。

 本体は消えているけど、切り取った形のお腹付近の肉は崩れていかなかった。

 量と大きさは、かなりの物。


「マスター、これ……そういうことなんでしょうか?」


「まだ余裕があるし、一応持って行こうか」


 全員、不思議な気持ちになりながら、適当に布で包んでオーク肉を持ち帰ることにした。

 意外と重く、ついでに探索はここまでとすることにした。

 帰り道も命がけ、そのことを忘れないようにしながら22層へと降りる。


 出来れば知り合いの姿には出会いたくないなと願いつつ、虚ろな探索者もどきたちを蹴散らしていく。

 ようやく地上に戻ってみると、外が既に暗くなりかけていることに気が付いた。


「ねえ、ベリル」


「ああ。そこまで俺たち、潜ってたか?」


 カレジアたちを見ても、横に首を振られる。

 そう、僕たちはまだ昼過ぎぐらいのつもりだったのだ。

 なのに、もう灯りがないと辛いぐらいに、暗い。


 納得いかない気持ちを抱えて、ギルドへ。

 往復時に回収した探索者の身分証なんかを提出するためだ。


「今日は遅めでしたね。いい場所が見つかりましたか?」


「そうでもないんだけど、気が付いたらこの時間だったんですよね」


 父親のそれは残しつつ、他のは全部提出した。

 後日、しっかりと聞こうという気持ちと、とっておきたい気持ちが入り混じった気分だった。


「それは、23層のせいだろう。あの階層ぐらいから、少し時間の流れがおかしいんだ」


「フレアさん、戻ってたんですね」


 横合いからの声は、探索帰りにしては私服に近いフレアさんだった。

 彼女たちは、明るいうちに戻って来てたってことかな?


「無理はしないのが生き残るコツだからな。ふむ? おお、オーク肉か。これは美味いぞ、食べ過ぎて太るやつが出るぐらい、癖になる」


「えっと、じゃあ。これを対価に少しお話聞けますか?」


 ギルドの受付さんも頷いてくれたので、僕はオーク肉をギルドに売らず、フレアさんに譲ることにした。

 対価として、22層のことや23層の事を聞こうというわけだ。


 幸い、快諾してもらったので僕たちはフレアさんたちの住む家にお邪魔することになった。



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