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BFT-058「心の叫び」



「10人目っ!」


 見るからに重装備の相手を、白の属性攻撃で切り裂く。

 本来なら、怪物相手に放つような力技だ。

 金属鎧すら、確かな手ごたえだけを残して斬ることができたのだ。


 生身の部分を斬った手ごたえがないことに、安心しつつも、恐怖を感じる。

 この相手は、人間のように見える相手はなんなのだと。


「後ろは終わったぜ」


「今日は近接が多くて、ある意味気楽でしたわね」


 すぐ後ろで、別の相手をしてくれていたベリルたちには、怪我はなさそう。

 こちらも、カレジアとラヴィ2人ともが元気だ。

 彼女たちは、探索者もどきから必要な物を拾ってもらっている。


「指輪と、身分証ね」


「こちらは、ナイフでした。随分使い込まれてますね」


 天塔で相手をする怪物は、倒すとそのうち崩れ去る。

 素材として必要なら、早めに剥ぎ取り等する必要があるのだった。


 もっとも、素材を取らない相手もいる。

 今回の相手も、そのうちの1つ……というか、人間そのものの相手から何かを剥ぎ取りたくはないね。


 儲けで言えば、あまりないというのが正直なところだ。

 それでも僕は、1つの予感と共に期待を込めて、この階層で戦っている。

 次の階層に行った方が稼げるのに、付き合ってくれているベリルたちに感謝だ。


「マスター、今のところはいませんか?」


「うん。いてほしくないって気持ちもあるし、難しいな」


 きっかけは、ギルドの受付の言葉。

 22層に出るのは、天塔に足を踏み入れた探索者が対象だと言いうこと。

 それには、現在の生死を問わない。


 上層まで登った強い人が出る時もあれば、駆け出しが出る時もあるという。


「そうよね……私たちには親ってのがいないから、わからないけど……」


 その言葉に、はっとした僕がいた。

 初めて聞いたけど、妖精はそうらしい。

 親という物が、いない。


 果たして、いたけれどいなくなったというのと、どっちがマシなんだろうか?

 いや、良いも悪いも、無いのかもしれない。

 大事なのは、今、そして未来をどう生きるかだ。


「ごめん、ベリル、みんな。23層に行こう。僕の感情の問題だった」


「気にすんなよ。つってもよ、まだ少しは倒さないと階段まで行けない……ん?」


 基本、22層では確かな気配という物を感じない。

 中には、強い相手もいて、そういう相手はそれっぽいものを感じたりするけれど……。

 今もまた、何かを僕たちは感じ取った。


 必要なら、属性攻撃を初手で打ち込もう。

 そう考えながら、剣を構えなおして……落としそうになった。


「あ……」


 両手斧を握る戦士が、いた。

 まるで、農具を構えて畑仕事をするかのような、姿。


 他の人たちと同様に、感情の無い顔。

 血が通ってないとすぐにわかる肌。

 いつかの記憶を刺激する、疲れたような遅い足取り。


 偶然にか、それは無表情さや肌の色を除けば、ひどく見覚えのある姿に似ていた。

 そう、畑仕事に疲れ果てて、夕食のために家に戻ってくる……父親の姿。


「ブライト? おい、まさか」


 仲間の声も、どこか遠くに聞こえる。

 無表情だけど、相手はきっと僕たちを狙いに来ているに違いない。

 近くなれば、動きを取り戻したかのように襲いかかってくるんだろう。


 油断すれば、命を奪われる。

 誰に? 誰にだ。

 父親の姿をした、ナニカにか?


「う……うわあああああ!!!」


「駄目ですっ!」


「絞ってっ!」


 その時の行動は、よく覚えていない。

 感情のままに、力を振り絞って放とうとしたことだけは覚えている。

 視界が純白に染まり、放たれた力が荒れ狂うのを感じる。


 上がった息を整えるのも忘れて、胸元を見ればうっすらと光る鍵。

 それが刺さった状態で、勝手に横にひねられていた。

 僕が、自分自身の意思で力を解放しようとしていたのだ。


 そこに、掴まるようにするカレジアとラヴィ。

 たぶん、彼女たちが止めてくれたおかげで目いっぱい力を使うということは回避できたらしい。

 あのまま力を放てば、近くにいたみんなにも被害があったかもしれない。


「ブライト、無事か」


「あ、うん。なんとか……勝手だよね。他人には、どちらかというと気味が悪いとか思ってたのに。自分のことになったら、暴走して」


「人は、そのような物だと思いますわ。残ってるものがあるようです。確認を」


 よろよろと、歩きだす。

 心配そうに寄り添うカレジアとラヴィに微笑みつつ、足は止めない。


 父親に見えた何かは体を残さず、消え去っていた。

 僕の攻撃で、消し飛んだのだろうか。

 後に残るのは、探索者の身分証、そして……。


「木彫りの、人形?」


「売り物にしては、ぼろぼろね」


 しゃがみこみ、人形を拾い上げる。

 握りしめようとして、強くなった自分の腕力で壊してしまわないかと怯えた。

 きっと、持ち主も壊さないようにと仕舞い込んでいたに違いない。


「僕のさ。いつだったか、両親のために、僕が彫ったんだ。綺麗じゃなくて、今思えばどうなんだって感じだけど。両親は、お守りだって言って持ち歩いてた」


 これで、決定的になった。

 父さんは、天塔に来ていた。


 でも、じゃあ……母さんは?

 一緒に登ったけど、一緒に出てくるとは限らないのだろうか?


 それとも……いや、考えるのはやめよう。


「どうする。粘るか?」


「いや、登ろう。いつ出会えるとも限らない」


 本音を言えば、出会いたくなかったとも言える。

 あるいは、いつまでも出会えないとなれば、先ほどの嫌な考えが現実味を帯びてしまう。

 天塔に来る前に、母親が力尽きているだなんて話は、信じられるものじゃない。


 階段を探して歩きながら、考える。

 僕は、天塔を許せそうにないと。


 勝手な考えで、困るっていう人もいると思う。

 だけど、僕には耐えられそうになかった。


 親が、こんな場所で、親の姿をした何かが、誰かの命を奪い続けるかもしれないということが。


 天塔を登りきれば、どうにかなるかもしれない。

 そんな願いとも言えない感情を胸に、前に進む。




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