BFT-055「出会いは一度きり」
「自分たちより、人助けを優先するのは愚かなこと、か」
「婆さんも、昔はやっちまったのかもしれないな」
頷きながら、荷物の中に自分達用じゃないポーションを詰め込む。
余力と言えば聞こえはいいけど、要は自分たちの心の平穏のためだ。
何かあった時に、無いから対応できません、は嫌だったのだ。
普段以上に買い込む僕たちに、プロミ婆ちゃんは状況を察したのか、忠告めいた言葉を投げてきたのだった。
家に戻り、採取した薬草でごりごりと自分でもポーションを作りながらの雑談だ。
「実際問題、僕たちに余裕が出てきたからだよね?」
「だな。あの時ギルドにも言われたけどよ、俺たち、だいぶ噂になってるらしい」
思い出すのは、ギルドに寄った時の話。
僕達が助けた探索者は、戻るなりその話をしたらしい。
その点、僕たちはわかりやすい。
まだまだ子供な感じの僕に、片足大人のベリル。
小さい妖精3人を連れている、となるとだいぶ限られるのだ。
「出会う相手、ほとんど妖精がでかいもんな」
「そうなんだよねえ。っていうか、僕たち次の妖精武具、拾えないね」
思ったことを言ってみると、不思議な顔をされた。
え?って感じで僕も手を止める。
ちなみに、カレジアたちは一時的に妖精の世界に戻している。
向こうで、やりたいことがあるらしい。
珍しいことだから、特に気にせず許可をして送り返したわけ。
「ブライト、知ってることとそうでないことの差が激しいよな。妖精武具は、契約したらその契約が解除できるまで次は出会えないってのが定説なんだ。それでいうと、ブライトは幸運だな。最初から2人同時だったからいける」
「そう……なんだ」
言われてみれば、よく見かける探索者も、妖精が増えたのを目撃したことはない。
妖精を維持するのに魔力がいるから、2人目以降を増やさない、ではなかったのだ。
2人に出会えた幸運に、今さらながら感謝しつつ薬草をすりつぶす作業を再開する。
(せっかくだし、ここで魔力も込めてみるか)
いろんなことを、試せばいい。
そう思いながら、すり鉢を挟む足、すりこ木を握る手とそれぞれに魔力を意識した。
時折注ぐ水にも、同じように。
気が付けば、カレジアたちを呼び戻す時間になっていた。
もっとも、日が暮れたらってぐらいだからだいぶ適当だけどね。
念じて、彼女たちとのつながりが強くなるのを感じる。
「ただいまー!」
「マスター、戻りました」
不思議な穴が産まれたかと思うと、そこから飛び出してくる2人。
少し遅れて、アイシャもベリルに近い穴から飛び出してきた。
少し、雰囲気が変わったかな?
「進化について、向こうでお姉さま方に尋ねてまいりました。順調なようですねって言われましたわ……うーん?」
どうやら、アイシャの言うことが今回の帰還の目的だったらしい。
その割には、カレジアもラヴィも思ったよりすっきりしてるというか、ふわふわしてたのか固まったというか?
「ついでに、魔法の特訓もしてきたの! まだ使い方に慣れてないだけよって言われて、いっぱいやったわ!」
「私も、特訓してきました。明日から、頑張りますね」
人間で言えば、4,5歳ぐらいの背丈のカレジアたちが、自信満々って感じにしていると妙に微笑ましい。
夜にもなったし、とりあえず食事にしようということで作業を取りやめることにした。
ポーション作りは、ほぼ終わっていて後は瓶に注ぐだけ……んん?
「わー、なんだか綺麗なポーションです」
「完全に薬草が溶けてる感じね。効能が高まってそう? 試したくはないけど」
そりゃそうだ、と思いながらもちょっといつもと違うポーションを完成させる。
自分で使うもよし、一度プロミ婆ちゃんに見てもらうもよし、だ。
わいわいと騒ぎながら、食事を終えるとベリルたちは自分の家へと戻っていった。
5人から3人になったけれど、カレジアたちがいるから寂しさは感じない。
村を出る直前の、暗くて寒い家に一人だったことを考えると、まさに別世界だ。
「主様、少し薬草が匂うわよ? 体洗ったら?」
「え? そっか。じゃあそうしようかな。桶にお湯を作ろっか」
土間になっている部分に、大きな桶を運び込んで敷居を立てる。
来客があってもいいようにっていうのもあるし、この前から2人が少し気にする感じがあったからだ。
本当なら、薪も消費するだろうし、汲んでくるのも一苦労な水、そしてお湯。
でも、僕たちにとってはそんな必要はない。
属性石から力を引き出し、桶に水をじょぼじょぼと。
その後は、手加減した火の魔法で温める。
「マスター、私たちもご一緒していいですか?」
「うん、いいよ」
ちょっとだけ、恥ずかしさを感じないわけじゃない。
小さいけれど、最近の2人は、進化をしてからは特に感じるのだ。
……女の子だなって。
僕が腰布以外脱いだところで、彼女たちも思い思いに脱いだのがわかる。
大きさは違うけれど、女の子2人と体を洗おうっていうのはなかなかない状態だ。
思わずちらりと視線を向けてしまい、気が付く。
「あれ? その服っていうか下着、どうしたの?」
「ふぇっ!? ええっと、その」
「お姉様たちに言われたのよ。服以外にも気を使いなさいって。変じゃない?」
真っ赤になって口ごもるカレジアと比べ、ラヴィはどちらかというと堂々と見せつけて来た。
一般的には、お金持ちぐらいしか身に付けないという下着。
僕には、彼女たちのそれが下着というものかどうかははっきりとはわからない。
でも、綺麗だなって思ったのは間違いないのだ。
「そう? 色々見た甲斐があったわ!」
「はい、その、嬉しいです」
変じゃなく、むしろ綺麗だと伝えた結果は、お互いに赤くなるという物だった。
お湯が冷めてしまうという気持ちがなんとかわきあがり、ほとんど裸になった3人で体を拭きあう。
不思議と、お湯以外が原因で体が熱くなるような気がした。
「主様の背中、おっきい! あ、これ傷かしら」
「痛くないですか?」
2人が僕の背中を触ってくるけど、全く痛くない。
むしろ、むず痒いというかくすぐったいというか。
なんだか我慢できなくて、少しだけ体に魔力を巡らせた。
「わっ!? 飛び出て来た!」
「マスター、飛んでった魔力が羽根みたいでしたよ」
「へ? どういうこと?」
それからよく聞いてみると、僕の背中にはあざのような、傷のようなものがあるらしい。
前に、ラヴィは同じ場所にそれっぽいものを見たけど、いつの間にか消えてたとのこと。
それが今、肌の色が少し周囲と違う形で、はっきりわかるらしい。
そこから、魔力が出てきたというのだ。
「どこかで怪我をしたのが、また開いたのかなあ」
そういえば、小さい頃に大怪我を負ったことがあるような気がする。
仰向けに寝られなくて、泣きながらベッドにうつ伏せだった記憶があるのだ。
それが治り切ってなくて、大きな戦いの度に開いてきたんだろうか?
そんなことを思いながら、ひとまず体を洗いあって寝ることとにした。
明日だって、あるからね。
その日は、不思議と背中のそこが気になってなかなか寝られなかったのは内緒だ。